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ゆらゆらと

「………………ゆ、ゆみりー……? 」

つんつんぷにぷに。

「ゆーみーりー………………」

「…………むすっ」

ダメだ、不機嫌なまんま。

「ゆみりぃ、機嫌治せよぉ……」

「………………やだ」

やだって………………仕方ないだろ、お出かけって言わないとゆみりは動かなかっただろうし…………

「ダダこねんなって、治ったらいくらでも付き合ってあげるからさ」

「もう治ってるもん」

あ、ああ言えばこう言うんだから…………

「うそつけ、さっきからずっと顔真っ赤じゃん」

「こ、これは違くてっ」

あわあわと否定するゆみり。…………まぁそんだけ動ければ問題ないんだろうけど…………でもやっぱり心配。無理させて悪化させちゃったら、どの面下げて次にゆみりに会えばいいかわかんない。…………ゆみりのことだから気にしないとは思うけど、だからといってその温情に甘えるわけにはいかない。だから、

「ゆみり」

横並びから立ち上がって、ゆみりの前に膝をつく。

「ぼくだってゆみりとたくさん遊びたい。だけど、ここでゆみりが熱を出してバタンキューしちゃったら遊べなくなる。だから今は、ゆっくりと休んで、ね? 」

一つ一つ解すように、噛み砕くようにゆみりの目を見て話す。…………分かってよ、ぼくだって辛いんだから。

「すず、ちゃん…………うん、分かった。今日はお出かけ、しない」

コクリと頷くゆみり。よしよし、分かってくれたか。

「うし、じゃあこのまま家まで…………ん? 」

急にスピードが落ちる。顔を上げてみると、もうゆみりと降りる駅。

「お、着いたね。じゃあ降りよっか」

と、床に置いていた荷物を持ち上げて一歩踏み出したところで腕を掴まれる。

「へっ」

「すずちゃん」

ゆみりがぼくの手を掴んで離さない。

「ちょっ、ゆみり!?」

事情が飲み込めずにいるうちに、メロディが鳴り終わってドアが閉まる。

「あっ……」

何するんだよと言いかけたその時、ゆみりの手に力がこもる。

「…………隣、座って」

有無を言わさないその態度にたじろぎながらも、言われたとおり真横に座る。

「えと、ゆみり? 」

さっきからぎゅぅっと掴まれたまんまのぼくの左手。何がなんでも離したくないのか、ますます力がこもってきて…………って、痛っ!?

「ゆみり、痛い痛いっ、離してっ」

「……あっ、ごめんっ」

慌ててぼくの左手を離す。それでもなんだか名残惜しそうにしてて、

「…………分かったよ、手のひらなら、いいから」

そっと座面についた手のひらに、ゆみりの暖かい手が重なって、ぼくの細い指にゆみりのぷにっとした指が絡みつく。

「…………それで? なんでぼくを引き止めたの? 」

「…………だって、まだ話してないから、…………どこに居たのかって」

「それぐらい、降りてからでも」

「ううん」

静かに首を振るゆみり。

「…………もうちょっと、すずちゃんと一緒にいたい」

心なしか距離が詰められて、ゆみりの熱が近くなる。…………疲れて不安になってるのかな……

「大丈夫ゆみり…………? 疲れてるなら次で降りて」

あ、ゆみりがふくれた。

「………………ばか。すずちゃんのいけず、にぶちん」

「えぇ…………そこまで言うかぁ…………」

「言うよっ! だって………………だって、すずちゃん全然気づいてくれないんだもん…………」

『気づいてくれない』って………………ま、まさか…………

ぼくの中に深く沈めた感情が鎌首をもたげる。やめろ、出るな、出てくるなっ…………

「ゆみり、その続きは…………」

「言わせないつもり? 」

「ほら、だってここ電車の中だし、人目もある、から…………」

「………………むぅ、」

それでどうにかこうにか止めると、ゆみりは諦めてそっぽを向く。でもその右手はずっとぼくの左手を絡めとったまんまで、距離も詰まってきて…………っ!? この柔らかいの…………もしかして………………だ、ダメだ、考えたら…………

爆発しそうな心臓を連れて、だんだんと人が少なくなる車内にゆみりと二人、ずっと揺られていった。

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