候補探し。
………………あーだめだ、思いつかねぇ………………
昼休みになった途端、ぼくは机にぽへーっと突っ伏す。
「おーい凉ちゃーん、大丈夫かー………………?」
茉莉花がほっぺたをつんつんしてくる。
「ん、まぁ、なんとか………………」
ってのは嘘。実言うとなんも思いついてない。ワンピースにするのか、ベストにするのか、はたまたチュニックもいいし………………うーん………………
「………………ダメっぽいねこりゃ」
茉莉花が諦めたように言う。
「………………てか、着せる相手ぐらいは決まって………………いや、その顔だと決まってないみたいね」
「………………そりゃまぁ、今思い出したわけだし………………」
また月夜に着せるかぁ………………でもなぁ、あいつ帰ってくる度にふにゃってなってるし、休みの日には半日寝てっからなぁ………………無理やりたたき起こすと怒るし。それに、前に着せた時に「お、お仕着せなんて豪華なもん着れるかっ!?」ってじっとしてなかったから写真なかなか取れなかったし、サイズも取らせてもらえなかったもんで目分量にしたら、やっぱり寸足らずのヘソだしルックになって怒られたし。………………………………うん、今度はあいつ使うのやめよう。
「同室の子じゃダメなの?」
「あいつじっとしてないもん」
「………………ってことは、新しいモデルを見つけてこないとダメじゃん」
「それなんだよぉ………………」
どうすんだよもぅ………………ぼくの知り合いなんて茉莉花と月夜、あとはいのりぐらいだし………………
「………………いっそ茉莉花、きみがモデルしてくんない?」
「おっ? ぼくに似合うようなの作ってくれるの? 」
「………………………………あー、茉莉花使うのはやっぱ最終手段にしとくわ。」
こいつに似合うようなのにすると自然とゴスロリになりそうだしな………………あとは無駄に鋲とかトゲを付けろって要求されそうだし。
「と、なるといのりか。」
「呼んだ?」
ひょこっと茉莉花の影から出てきたのは、ぼくの数少ない話し相手その2、如月いのり。ぼくと近いものを感じる………………んだけど、ちょっと変わってる子。お前が言うなって言われそうだけど。
「あ、いや、課題の服を着せるモデルが見つかってなくて………………」
「あーなるほどねー。でもごめんねっ、こっちもお洋服作るのに忙しいんだーっ。いやぁ、ブリーフがね、作りにくくて………………」
「あ、今度はそっち作ってるんだ………………」
いのりの変わってるとこは、「演じるからには形から」を地で貫いてるところ。その為には着るものも全部自分で作っちゃう………………男物のパンツまで。
(………………アレのどこがいいんだ?)
地元にいた時に飽きるほど見てきたけどさ。
「そっか………………そうすると新しく探さないとダメかぁ………………」
もう一度机に突っ伏すと、お腹がぐぅ〜っとなる。………………あ、そう言えばお昼休みだった。
「お腹空いたよねぇ、凉ちゃんもご飯食べに行こ? そしたらなんか思い浮かぶかもよ? あとはモデルちゃんも見つかるかもだし」
「いや、茉莉花なら片手間に十数人集められるかもだけどさぁ………………」
ぼくの知り合いなんてこの2人ぐらいだよ? ………………まさか、新しく見つけろと?
「さぁ、行こうか。………………大丈夫、ぼくも手伝うからさっ」
「………………いや、茉莉花目当ての奴しか集まらなそうなんだけど………………」
大丈夫かなぁ………………
結局予想通りになった。茉莉花が片っ端から声をかけてモデルを募集したら、9割方の子は乗ってくれた。だけれどもその後にぼくのモデルだと言うことを明かすと、みんな丁重なるお断りを頂いた。
「………………ほらね? みんなこんなもんだよ………………」
「うーん、それにしても薄情な子猫ちゃん達だなぁ」
「………………もういいよ茉莉花、モデル探しは。」
「え、でも課題はどうすんの?」
「それは………………………………」
答えに詰まる。やっぱり、茉莉花に頼もうかな、と答えようとして、
「あー、見つけたわよ茉莉花っ!!」
あ、出た。
「い、いてててっ、しおーん、耳引っ張んなよっ!?」
「うるさいわねっ、あんたまた女の子引っ掛けて泣かせたでしょ!? 来なさい、あたしがぼこぼこにしてあげるわっ」
「ぐわっ、や、やめろっ、耳がちぎれるっ!? それに声かけまくってたのは凉ちゃんのためでっ」
「言い訳無用っ!! さぁ来なさい」
………………あ、引きずられてった。………………茉莉花、強く生きろよ。
………………とりあえず、お昼ご飯食べよう。