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そのあと、

ぼく、ほんとにどうしちゃったんだろう..............

伏せられた枕に未だ熱を持った顔を埋めて、足を軽くばたつかせる。

結局、昨日はゆみりに強制的に寮へと連れ戻されて、それからずっとこんな感じ。一睡すらできてないし、ご飯すら食べてない。

(..............おかしいよ、こんなの)

顔の角度を変えて部屋の冷気を身体に取り入れる。暖房の止まった部屋は、いつもなら寒々しいぐらいなのに、今はむしろ涼しいぐらい。

(なんだって、こんなふうに..............)

もう少し顔を起こして、唇に触れる。潤いを無くしかけてはいるけれど、辛うじて弾力はある。

(ここが、ゆみりと..............)

フォークと、たい焼きの腹と。モノを介しての繋がり。だけども、その先はゆみりと少しとはいえ繋がっていたわけで。

(なんだよ、もう..............)

触れた途端身体中が熱くなって、まともに目を合わせらんなくなる。けど、もっと欲しい。この感じ、なんなんだろう..............


その後もあれこれと布団の中で思い悩んだものの、結局答えなんか出る訳もなく、しかも

(ね、眠れない..............)

諦めて目を閉じてみても眠気は全くやって来ず、またゴロゴロと寝返りをうつ。けど、目はさらに冴えるばっかりで。

..............んと、今は何時だ.......ん、5時ぐらいか..............ちょっと早いけど、起きよう.......もうどうあがいても寝れないわ.......

のそのそと身体を起こすと、固まった関節が悲鳴をあげる。そういや服着替えてないや..............いいやもう。

むにゃむにゃと何かを呟く同居人を横目にドアを開けると、室温より更にひんやりした風が吹きさらす。うおっ寒いっ!?

まだ朝早い廊下は誰も歩いてなくて、ぺたぺたと歩くぼくの足音だけが微かに聞こえるだけだった。

さて、どこに行こうかな.......あてもなく出てきたけれど、かといって朝っぱらから押しかけられる友達の部屋なんて都合のいいものがあるわけでもなし。仕方なしに庭でも散歩しようかと玄関に向かうと、

「お? 凉ちゃんじゃん」

「あ? .......なんだ茉莉花か」

「ちょっ、なんだって言い方はひどいなぁ」

同じクラスの茉莉花が、コンビニの袋を提げて立っていた。

「.......何買ってきたんだ?」

「ん、これ? ちょっとお腹空いちゃったから、おにぎりとか」

袋の中からパンやらおにぎりやらを取り出して見せる。と、同時にぼくのお腹が鳴った。

「お? 凉ちゃんも小腹減っちゃった?」

「ああ、いや、その.....................実言うと昨日の晩飯食べてないんだ」

「ええっ!? よくそれで身体もつなぁ.......また例の『大人になりたくなーい!!』ってやつ? 」

「ちげぇよ。.......まー、なんか、ちょっとモヤモヤしたことがあってな」

伏し目がちにそう言うと、

「..............凉」

「あ?」

呼び捨てにされて顔を上げると、いきなり茉莉花がおにぎりを投げつけてくる。左手でキャッチすると、

「部屋来いよ、話聞いてやる」

と、いつものニヤケ顔はどこへやら、キリッとした真面目な顔で誘われる。


「ほら、入れよ」

「あ、ああ..............」

初めて入る他人の部屋にドキドキしながら、茉莉花の部屋に一歩足を踏み入れる。カーテンの隙間から外の薄明かりが差し込んでくるけれど、依然として部屋の中は薄暗い。

「ここだ、まぁ座ってよ」

茉莉花が先にベッドに腰を下ろすと、その隣をぽんぽんと叩いて促してくる。言われた通りに座ると、茉莉花はビニールの中からペットボトルを取り出して開け、そのまま軽く呷った。

「飲むか? 」

ついっと差し出してくるボトルに手を伸ばして、不意に昨日のことが頭をよぎる。濡れたボトルの口が目に入って反射的に手を引っ込めると、受け取ったと思った茉莉花の方も手を引っ込めたせいで

「あっ」

ボトルは支えを失って床で跳ね、ジンジャーエールの溜め池をつくる。

「ああいいからいいから、座ってて」

茉莉花がボトルを素早く起こして池の拡大を防ぐと、かけてあったタオルで素早くジンジャーエールの池を吸い取らせる。

「ちょっ、それ」

「いいからいいから」

そう言って床を掃除する茉莉花に、ちょっとした罪悪感を覚える。 ..............こいつにも、迷惑かけちゃうのか..............ほんっとにぼくってクズだな..............

「ん、まあこんなもんだな」

タオルをほうり投げた茉莉花が改めてベッドに腰掛けて、ビニールの中から今度は焼きそばパンを取り出した。

「ほら、凉ちゃんも食べな」

そう促されて、さっきから握りしめっぱなしだったおにぎりの封を切ってかじりつく。濃いめの味付けのおかかが、空っぽの胃にストンと落ちた。

「もっと食べる?」

と差し出された袋を軽く押し戻すと、一つため息をついた。

「一つ食べたら落ち着いた、さんきゅ」

そしてそのまま立ち去ろうとすると茉莉花を腕を掴まれる。

「まぁ待てって。まだ何があったのか聞いてないよ? .......大丈夫。千歳.......あ、そこに寝てるやつな、そいつは一度寝たらなかなか起きないから多少声大きくなっても構わないし、それにぼくの口は固いよ?」

「いや、お前に言われてもなぁ、イマイチ信用おけねーんだよ.......」

全く、どの口が言うんだか。

「..............なぁ、茉莉花」

「うん? 」

「............................おかしいことなんだよな、女が女を好きになっちゃ」

「............................はぁ?」

なんだよその生返事。

「..............いや、その.......例えだぞ? 例え。寄りかかられるとドキドキして気が遠くなったりだとか、同じ皿のものを一緒に食べて、自分の箸つけたとこをすくいとって食べられてめっちゃドキドキしたり..............そういうのっておかしいんだよな、なぁ?」

話す度に熱くなる顔を向けると、茉莉花は一瞬呆気に取られたような顔をした後、おもむろに下を向いて笑い始めた。

「なっ」

こ、こっちは真剣に相談してるってのに.......

「そっか、そうか、ついに凉ちゃんにも好きな人が出来たかぁ。うんうん、いい事だ」

「お前なぁ.......」

「いやごめんっ、ちょっと笑いすぎた。..............んで、凉ちゃんは、それはおかしいことだと思ってるの?」

突然の逆質問。不意をつかれて出た答えは、

「.....................分からない」

「わからない? なんで?」

「だって.....................今までこんなの感じたことないし、それに..............認められないんだっ、こんな感情。だって..............だって、こんなのに身を任せたら..............ぼくはほんとに『女の子』になっちゃうからっ」

自分でも何を言ってるのか分からない。でも、そうとしか言い様がなくて。ぼくのなかで、理想と現実と自分がミキサーみたいにグルグルと回る。

「うーん」

茉莉花が唸る。

「.......凉ちゃんはさ、その相手の子のことをどう思ってんの?」

「どう、って..............柔らかいし、よく食べるし、何より自分の『好き』を我慢しない、すごいやつだと思う」

「他には?」

「他には.......なんだろうな、横にいて欲しい、というか.......」

「なーんだ、凉ちゃんの中で答え出てんじゃん」

「..............へ? 」

目をぱちくり。ど、どういうこと?

「『そばにいて欲しい』。それって十分、好きになる理由としてアリじゃん」

「そ、そう、か..............?」

よく分からないけど.......茉莉花が言うんならそういうもんか、うん。

「ぼくだって汐音のことは、『そばにいて欲しいなぁ』って感じたからだし。そんなもんでいいんだよ、誰かを好きになるって」

「そうか、.......そんなもん、か」

それを聞いて少し身体が軽くなったような気がする。

「よっし、凉ちゃんのお悩みひとまず解決っと。さて、それじゃあ行こっか」

「うん? どこに? 」

「決まってるでしょ、シャワーだよ。..............凉ちゃん匂うよ、昨日お風呂してないでしょ」

「え、そ、そうか?」

クンクンと匂いを嗅いでみる。..............いや、わからん。

「え、やっぱりお風呂入ってなかったの? 」

「.......へ?」

「マジかぁ..............カマかけたつもりだったのに..............」

おいおい..............

「いい凉ちゃん? 今から10分後に大浴場の前集合、いいね? 」

「お、おう.......」

それから、半ば追い出されるように茉莉花の部屋を後にする。去り際に「ったく、凉にしろ奈也にしろなんでこううちのクラスは.......」なんてぶつぶつ言ってたけど..............はて、なんの事だろう?

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