運び込む。
着てきた服を再度身につけたぼくは、脱ぎ散らかした服を再度丁寧に畳んで隅に置いておく。あ、ハンガーもまとめて置いとこ。
「すずちゃーん、もういーい? 」
「うん、いいよ」
今度はそろっと開けられたカーテンの向こうで、ゆみりがニコニコしながら待っていた。
「お待たせ。それじゃ、次はゆみりの番だよ」
「うんっ。待ってるね」
靴を履くぼくと入れ替わりに、ゆみりがカーテンの向こうに消える。さてとっ、気合い入れて探すぞっ。
まずはトップスだけど..............さーて、何が似合うだろうか.......
カラフルな服が並ぶ売り場の前で、思わず腕を組む。.......いやぁ、しまったなぁ.......
実は、ぼくは致命的なミスをしていたのだ。
(ゆみりの好み、聞くのすっかり忘れてた.......)
そう、服飾系の基礎の基礎とも言えることをすっぽかしたまんま、ゆみりの服選びを引き受けてしまったのだ。
..............さーて、どうしようか.......
とりあえず手近にあったトップスを手に取ってみる。ゆみりの今日のボトムは、赤のスカートに黒タイツだったな.......なら選ぶのもスカートにしてみるか? いやでもな、ゆみりが実家に着ていくやつだし、本人も気にしてるから、太さを感じさせないものの方がいいか? いや逆に気を使うせいでやりづらくなる.....................あーもうわかんねぇっ!!
.......いいやもう、とりあえず似合いそうなの持って行って、ゆみりに選んでもらおう。
とりあえずポールにかかっていたハンガーの中から、目に付いたものをごそっと抜く。さて、ゆみりのとこに、っと。
「ゆーみりー? 」
首だけカーテンの向こうに差し込むと、
「あ、すずちゃん。 お洋服もってきた?」
「うーん、持ってきたは持ってきたんだけど.......」
カーテンを開けて、服の山をばさりと置く。
「ごめん、ゆみりの好みを聞き忘れてた」
「わぁっ、お洋服がいっぱい」
「だから、とりあえずどっさり持ってきた。この中から気に入ったの着てみて。あ、無かったらまた探しに行くよ」
「うん、わかった」
カーテンが閉まると、ゆみりの鼻歌が聞こえてくる。なんの歌だろ、いい感じだけど.......あ、でもちょっと、調子っぱずれ。
(ゆみり、楽しそう)
カーテンを隔てた向こうで、ウキウキしながら服を選ぶゆみりを想像する。..............ほんっと、ゆみりはなんでも楽しそうにやるよなぁ。ぼくにも、これだけの度胸が欲しいよ。
.......あ、鼻歌が止まった。選び終わったのかな?
「ゆみり、決まった?」
「.......う、うん..............」
あれ? 気に入ったの無かったのかな? スルッと開いたカーテンの向こうのゆみりは、
「あ、気に入ったの無かった?」
今日着てきた服のまんまで、
「待ってて、これ戻したらすぐ別の持ってくるから」
「すずちゃん」
「..............なぁに? 」
「..............気に入ったの、あったよ」
と、持ってきた服の山から何着か取り出した。
「ふぅん。..............うん、似合ってる」
それを受け取って、ゆみりの体の前に当ててみる。悪くないじゃん。
「うん、それが気に入ったの。でもね..............」
ゆみりが何か言いたそうにしてる。ちょっと屈んで耳を貸すと、
(あのね、..............着れないの。このお洋服.......キツくて)
「............................あっ」
しまった、とんでもないミスをやらかした.......うっかり自分の服選びの感覚で持ってきたけど、ぼくとゆみりの体格差を考えてなかったよ..............
「お昼ごはん、もうちょっと少なめにすればよかった..............」
しょぼんとするゆみり。..............これはぼくが100%悪いな、うん。
「だったらさ、ゆみり.............2人で選ぼうよ」
「えっ」
「..............ほら、ぼくにはゆみりの好み分からないし.......やみくもに持っていくだけだと、お互い疲れるでしょ? だったら、ゆみりの方から動いて探しに行けば、いいんじゃないかなって」
「.......そっか、うん.......そうだよね」
フィッティングルームから足を踏み出したゆみりが靴を履く。両手には服の山。
「じゃあこれ、戻しにいこ」
「そうだね」
ゆみりから半分受け取ると、一緒に服を戻しに行く。
「ん、ここだね」
さっきのポールに2人でハンガーをかけていく。
「うーん、この辺は私も見たけれど、すずちゃんみたいにすらっとした人のばっかりだったよ」
「そっかぁ..............別のとこにあるのかな? 」
目線が高いことを生かしてきょろきょろと探してみる。..............うーん、見えない。
「何処にあるんだろね? とりあえず2人で手分けして探してみよっか」
「じゃあ私、あっち探すね」
ゆみりが店の入口の方に歩いていく。ならぼくは奥の方を探そっと。
.......うーん、無いなぁ.......
しばらく歩いてみたけれど、見つけたのは紳士モノだったり子供服だったり。
(ったく、配置分かりにくすぎんだろ..............ん? )
ふと足を止めると、見えてきたのは色鮮やかな景色で、
(って、えぇぇぇぇっ!? )
いつの間にか下着のコーナーに足を踏み入れていたみたいで面食らう。
(..............こ、こんなハデなのが.......)
一つ手にとって眺めてみる。そう言えば、体育で着替える時にクラスメイトでこんなの付けてるの居たな..............
(..............もうちょっと落ち着いたのは無いのかな.......)
よくよく考えたら、ぼくが使ってるのはディスカウントストアで買ったやつだから、シンプルなのが多いんだよね。でも..............
(.......ゆみりに見られてもいいようなの、選んどこうかな.......)
三点まとめていくら、なんてので別にいいって思ってたけど..............ゆみりに見られた時、すごい恥ずかしかった。落ち着いてるって言えば感じはいいかもしれないけど、なんだかゆみりに呆れられそうな気がして.......
(これ、なんかいいかな.......)
何着か選んで、レジに急いで走っていく。店員に変な顔されたけど、こっそりお会計を済ませて歩き出すと、
「あ、すずちゃんみっけ」
「っ!?」
ゆ、ゆみり..............慌てて後ろ手にビニールを隠す。
「ふ、服見つかった.......?」
「うん、向こうにあったよ。.......あれ? すずちゃん何持ってるの?」
「な、なんでもないよっ!? それよりもどっちにあった?」
「こっちだよっ」
ゆみりに導かれて服選びに戻る。..............あっぶねー、バレるとこだった.......
.......当分これは、封印しとこうかな.......