本題に………………?
(あーもう、ゆみりのバカ………………)
未だに熱を持ったまんまのほっぺたに手をあてて、ゆみりのことをチラリと見遣る。
「ん? どうしたのすずちゃん 」
「い、いや、なんでもっ」
慌てて目の前で手を振る。
「ふぅん。 変なすずちゃん」
「………………変にさせたのは、一体誰だと思ってんだよ………………」
「ん? 何か言った?」
「なーんも」
………………言えるわけないだろ、………ゆみりと間接キスしたせいで、ドキドキしてるだなんて………………はぁ、もう、どうすりゃいいんだよ……………
そんなもやもやを抱えたまんま、上の階に上がるエスカレーターに足を載せる。ゆみりが前でぼくが後ろ。ガタンという揺れとともに、ゆみりの目線が頭一つ高くなる。
「えへへっ、すずちゃんよりおっきくなっちゃった」
「わぁ、ゆみりに抜かれたっ」
なんて外面だけはしゃいでみても、中身はまーだモヤついたまんま。それどころか、同じ目線の高さになったせいで、ゆみりの顔の細かいところまでよく見えるようになって、それはそれでドキドキする。
「………………すずちゃんっ、ぼーっとしてると危ないよ? 」
「…………ん? おわっ!? 」
慌てて足元を見れば、ぼくの立っていたスペースはもう床に吸い込まれる直前で、慌てて一歩踏み出す。
「もうっ、すずちゃんったら危なっかしいんだからぁ」
「うっさいなぁ………………」
ちょっとだけ拗ねて返すけど、ゆみりの雰囲気にかき消される。
「ね、それより次はどこ行こっか? 」
「おいおいゆみり、まだ食べるのか?」
「違うよっ、流石にここに来た目的ぐらいは覚えてるもんっ!! お洋服買うのに、どこに行こうかって聞いたのっ」
「はいはい…………」
とはいえ、ぼくだって自分で服を作る割にはそういったお店を知らないという弱みがある。………………フリルとかが付いてなきゃ別に構わないんだよ、別に………………
「そうだね………………そこのお店でどう?」
「ここ? ………あっ、このお店、私の家の方にもあるっ」
ぼくが選んだのは、ありふれた既製服のチェーン店。全国展開してるとこだし、今のお財布事情でも割と買えるものが揃ってるのが嬉しい。
「さ、ゆみりに似合いそうなの選んでこうか」
と、婦人服のコーナーに連れていく。
「わぁっ、いっぱいあるねぇ」
「ふむ………………」
さて、ゆみりにはどれが似合うかなっと…………これは派手だし、こっちはサイズが……………と、チラリと横を向いたぼくと、同じく横を向いていたゆみりの視線がぶつかる。
「お、なんかいいのあった?」
その手にハンガーが握られているのを見て、そこに掛かっている服へと視線を移す。
「んー、それはちょっと落ち着きすぎじゃない? それに丈が」
「あっ、これ私のじゃなくて………………その、すずちゃんに、似合うかなって」
「………………え、ぼく?」
何を言い出すんだゆみりは。今日はゆみりの服選びじゃないか、なんでぼくの服を…………
「あ、こっちも似合いそう………………これも……………」
「ゆ、ゆみり、僕の服のことはいいから…………」
「ダメっ、すずちゃんのも私が選んであげるっ」
「えぇ………今日はゆみりの服を選びに来たんでしょ? 」
「そうだけどっ。…………すずちゃんも、もうちょっとかわいくなろうよっ」
「か、かわいくって………………」
それ、ぼくの二番目か三番目に嫌いな単語なんだけどなぁ………………
そのあとも何個か反論したけれど、ぼくがゆみりに勝てるはずもなく。あっさりとフィッティングルームに押し込まれて、ゆみりが服を持ってくるのを待つことになった。
(…………はぁ、やれやれ………)
ゆみりを待つ間に、服を脱いで畳んでおく。………………相変わらず憎ったらしい身体だ。柔らかいし、細いし、変な香りもする。
その時、カーテンがシャッと開く。
「持ってきたよすずちゃんっ」
「のわぁっ!?」
慌ててゆみりからカーテンをひったくって閉める。
………………み、見られた………………ゆみりに、ぼくのカラダ………………
今までに感じたことの無い恥ずかしさが、つま先から頭のてっぺんまで駆け抜ける。
………………ゆみりの、おバカ………………