載せて、載せられて。
バスを降りると、未だにぼけーっとしたままのゆみりを二、三度揺さぶって目を覚まさせる。
「んー………………ねーむー、いー………………」
「ほらほらしっかりしろよ………」
そのままだとバス停を背もたれにまた寝始めそうだったから、自分の身体を支えにゆみりのことを抱きかかえた、んだけど………………
「ゆ、ゆみりっ、おもっ」
「お、重くないよぉっ、すずちゃんのバカぁ………………」
あ、寝ぼけてるくせに、体重のことには反応するんだ………………
「ほら、ちゃんと自分の足で立って?」
「んー………………」
あーもう、これじゃキリがない……………… とりあえず、バス停のベンチまでゆみりを引きずると、そこにちょこんと座らせる。
「………………あと20分だからな?」
一応前置きしてから、支えとしてぼくもゆみりの隣に座る。早速ぼくを枕にしようとしてくるけど、流石にあの重さを20分は肩を痛めそうだ………………
(ん、待てよ………………?)
その時、ぼくの頭にナゾのアイデアが浮かんで、すぐに自分でかき消す。………………いやいやいやいやっ、それは流石に………………でも、全部は載せないからその分は楽になるか………………?
(や、やってみないと、分かんないよね………………)
そっとゆみりから距離をとって、頭がベンチの床にごっつんこする前に受け止める。それから、ゆみりの頭をそっとぼくの膝の上に置く。
そう、それは膝枕ってやつで………………
(こ、これは、仕方なく、なんだから………………ゆみりをずっと支えてるのが辛いから、だからしてやってるんだから、な………………)
………………って、なんでぼくはこんな言い訳してるんだ?
(………………それにしても………………)
ゆみりの顔を真上から眺めると、新しい発見が次々に。
健康そのものって感じなピンクのほっぺに、美味しいものをいっぱい食べてそうなぷっくりした唇。まつ毛もくるんと巻いて、うっすらと産毛が見える。
(かわいい、な、 …………ゆみりは。)
膝に伝わる、布地越しでもはっきりとわかるゆみりの熱が、低めなぼくの平熱を温めていく。手持ち無沙汰にほっぺたをつつけば、その度に吐き出されるゆみりの熱っぽい吐息にゾクゾクする。
(や、やっぱ膝枕なんてするんじゃなかった………………/////)
変な気持ちになっていくのを押さえつけて、早くゆみりが起きてくれないかなぁとそわそわしながら、何本もバスを見送った。
「………………んっ、むにゃ………………」
あ、ゆみりが起きるかな………………?
「………………んぅぅ、………………あれ、すず、ちゃん?」
「ゆみり、やっと起きた………………」
「………………おはよ?」
「おはよ? じゃないよ………………もう10時半だよ? 確かにバスの中で寝とけばって言ったのはぼくだけどさ………………どんだけ寝るの、もう。」
「ご、ごめん………………」
しょぼんとするゆみりを見つつ、頭を軽く撫でる。
「………………さ、ゆっくり休んだし、そろそろ行こうか。」
「あ、うんっ、待ってよっ」
ゆみりが頭を起こしたあと、ぼくが立ち上がろうとして、足に力が入らずによろめく。
「だ、大丈夫、すずちゃん?」
「大丈夫………………じゃないな、これ」
しまったなぁ、肩は痛くならなかったけど、代わりに足がしびれるなんて………………
「すずちゃんの足が治るまで、もうちょっとここにいよ? ね?」
「だ、大丈夫だって、こんなのすぐ治るし」
「だーめ。そんなフラフラだと危ないよぉ。………………あ、そうだ。 今度は私がすずちゃんの枕になってあげるっ」
「………………………………へ?」
「ほら、遠慮しないで」
言われた意味がわからずにきょとんとしていると、すかさずゆみりがちょっと離れてぼくの手を引っ張る。あっという間にゆみりの膝に乗せられたぼくの顔を、ゆみりが上からのぞき込んでくる。
「すずちゃんもちょっと寝れば? ほら、目の下黒いし」
「こ、これは元からで………………」
なんてあれこれ言い返そうとするけれど、頭に感じるふわふわな感覚と、降ってくるゆみりの息にだんだん眠気が襲ってくる。
………………あー、もう、どうだっていいや………………おやすみ………………




