暗明ネガティブオプション
綺麗な言葉に縋れるのは
まだ本当に
追い込まれていないからだ
手前の所で
救われてるなら
それはそれで良い事だろう
だけど
人としての美しさだけじゃ
その先に居る人間を
救う事など出来ない
覚えておいて
損は無いだろう
その壁の向こう側は
地獄だ
そこは獣だけが
生き残れるような
不穏な場所
新聞一枚剥がせば
歯の抜けた爺さんが
出て来る場所なんかじゃない
あんな物は可愛い方で
金と白い粉が
低空を飛びながら
ビール瓶で殴るんじゃなくて
それを割って刺すような場所だ
刃物に銃器に
欲しいなら売るってさ
安くしとくよって言葉が
今も耳に残っている
そんな場所に
美しい言葉なんて
置いておける訳が無い
力で勝たねば存在できない
非力な者の亡き骸を
横目に見ながら歩く
こちら側の世界で
壁の向こう側の地獄を
知りながら
どんな感情で生きていようと
構わない世界だ
どんな壁があろうとも
同じ世界だ
綺麗な言葉で
空が繋がっているのなら
あの場所で
死んでいった人は
何を思っていたのだろう
一人は友情で死んだ
殺されたから
敵討ちに行って
返り討ちにされた
一人は愛情で死んだ
恋人を誘拐されたから
取り返しに行って
彼女の目の前で
全身を撃ち抜かれた
一人は家族で死んだ
あるグループに
息子が入ったから
それを止めに行って
息子に胸を撃たれた
そこのグループで
息子は今
幹部をしている
あなたが
綺麗な言葉を信じているなら
彼等に
綺麗な言葉をかけてみて下さい
現実はいつも
そうなんだ
肝心な時に
役には立たない
まわりくどいだけの言葉を
信じている人の
気がしれない
それを分かった上で
綺麗な言葉を
言い続けられるか
それを
本当に分かった上で
綺麗な言葉を
言い続けられるか
とある街中
人が座っている
彼女は
既に息は無い
その手には
子供が抱かれている
覗き込むと人形だった
ガイドが近くの人に
聞いてきてくれた
子供は近くの人が
大切に育てているらしい
「女の子だから、後で売れる」ってさ
優しい目をした夫婦みたいだ
違う街中では
誰も居なかった
病気で死んで
誰も居なかった
二年前には
村だった場所もあった
今は荒れ野で
誰も手を付けない
ガイドはそう言って
涙を拭いた
自分の村だったからだ
そして
二年前に両親と友人を
失った場所だったからだ
銃器の音がして
飛び起きた
あるグループの撃ち合いだった
朝まで寝れなかったが
宿のオーナーが
コーヒーをサービスしてくれた
狭い一階で
飲みながら談笑していると
裏の扉から
血塗れの男が
銃を片手に入ってきた
「俺にも一杯くれよ」と言い
オーナーがカップを渡すと
裏から出て行った
息子らしい
「早く、死んで欲しい」
オーナーは目を瞑って
そう言った
あなたが
綺麗な言葉を信じているなら
彼等に
綺麗な言葉をかけてみて下さい
現実はいつも
そうなんだ
肝心な時に
役には立たない
まわりくどいだけの言葉を
信じている人の
気がしれない
それを分かった上で
綺麗な言葉を
言い続けられるか
それを
本当に分かった上で
綺麗な言葉を
言い続けられるか
あなたは
それを問われている
そして
この問いからは
逃げられない
人の言葉を紡ぐ者ならば
あなたは考えるだろう
そして
いくつか思い付き
堂々と発言するだろう
ならば
あの人達と
近い状況下のあなたに
その言葉を投げかけたなら
あなたは
どう思うだろう
あなたは
自分の考えた言葉に
納得するだろうか
あなたは
自分の考えた言葉に
「伝わった」と
言えるだろうか