表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
strangers  作者: syu,ryo.
1/1

No.1 幾ヶ部隊第6班

※この作品は戦争や精神異常者など不適切な表現を多々使用しております。しかしこれはあくまでも物語として受けとめてもらえたら幸いです。自身もそういう立場で日常に苦痛を抱いています。この話はもし今でいう"異常"と呼ばれているものが"異常"な空間に投げ出されればどうなるか、というのが主に話の中心です。理解しがたい内容だとは思いますが、よろしければご覧ください。

(時折内容修正も入ります。ご了承ください。)


 ×019年、日本は他国からの攻撃により首都東京は崩壊、その余波で富士山は噴火し関東は壊滅状態へと陥った。政府は国の中心を関西へと移動し、日本は反撃を開始した。それ即ち戦争の始まりである。アメリカからの援軍を受け、×020年日米連合軍が編成された。長崎、福島、沖縄に戦線を敷き、海の向こうからくる敵軍への進行を防ぎ及び混乱の間に略奪された領土を奪還しに向かった。一度始まってしまった争いはすぐに終わることはない、長い、ながい、戦いが続く。


 戦場において生き残る確率の高い人材とはなにか。屈強な戦士、頭脳明晰な策士、いや違う。それは"異常"な人物である。同じニンゲンでありながら普通の人間とは違う。現在でいうなら"精神異常者"と言ったらいいのか。身の回りにもいるはずだ、ルールなんて存在しない、自由奔放、健常とはいいがたい理解不能な行動をしでかし、話は通じない、そんな人物が。しかし戦場では有能な人材となる、なにせ戦場自体が"異常"だらけの世界なのだから。長い間平和であった人間にはできない行動をできてしまう彼らを政府はかき集め教育を施し×023年総勢1200人で出来た『幾ヶ部隊(きがぶたい)』を立ち上げた。


 これは国の為にではなく、自分の為に立ち上がった英雄たちの物語である。誰にも否定できない世界の話だ。



No.1 幾ヶ部隊第6班 


 ×021年、西日本全体の精神異常者に青い紙が渡された。政府による召集命令である。そこには自身の名前と短い文が載っていただけだった。強制ではなかった、しかし当初は十代後半から四十代まで約2500人が集まった。政府が送った約5000人分のほぼ半数である。因みに公式のデータにはないがその中には青い紙が届いていない者までもが集まっていた。政府が把握している精神異常者はすでに診断がくだされているものだけであってそうであっても病院へ向かっていないものもいたという。政府はそのものも快く受け入れた。だがその人数も最終的には半分に減ってしまうことになる。

 戦術の教育自体がそもそもの問題であった、日本人にはそういった教育官がいようとその教育を受ける側が問題である。何度でもいうが精神異常者は普通の人間とは違う、理解の仕方も、まともに話を聞く人物などほとんどいないようなものだった。その様子に頭を悩まし、この作戦が上手くいくかどうか疑うものもいた。しかしそういう疑いも思いもよらない出来事によって裏切られることとなる。

 実技教育の時であった、各AからTチームの番号ごとで手合わせをすることになった。教員は戦法を軽く数種教えただけである。ある人物はそれだけで完璧に相手をなぎ倒して見せたのだ。教育官が問う。

 「お前、番号は」

 「Fの2番」

 教育官が名簿を確認する。Fの2番、名前はGrouch(グラウチ)。孤児であり実名がない代わりに偽名を名乗っているらしい。年齢は21。肌は白いが髪は日本人らしく黒髪で短く切り揃えられている、襟足の部分は伸ばしているのか軽くゴムで縛られていた。体は線は華奢ではあるがそれなりの筋肉の鎧を纏っており、身長は160近くといささか小柄である。その容姿から男か女かは不明。病名はADHDとなっており、いつもイヤホンをつけていないと落ち着かないらしい。元々このチームには規則なんてないものだがその中でも異質な存在であった。

 「へぇー見せつけてくれるじゃないの」

 そんな彼に賞賛の声をかけるものがいた、…もちろん皮肉であるが。

 「俺、Fの3番、矢嶋っていうんだ。お前さんは?」

 「…」

 「話聞いてる?」

 矢嶋の声にも反応せずGrouchは視線を横にやる、その目線を辿っていけば矢嶋の番号を呼ぶ教官の姿。

 「行けっての?」

 「…」

 「へいへい、わかりましたっての。お前さんが派手にやってくれたせいでこっちも頑張らなくちゃいけなくなったしな」

 矢嶋はゆっくりと教官の元へと向かい練習相手と対面し相手が構えると矢嶋は無防備なまま相手に向かって近づいていく。間合いに矢嶋が侵入してきた瞬間、相手は矢嶋の腹部に拳を決めようとするが矢嶋はその攻撃を見切り手を出してきた方の腕を攻撃の流れのまま引っ張り相手の態勢を崩した瞬間、首付近に肘鉄を食らわせた。そのまま相手は倒れ意識を失ってしまう。

 「アニメでこういうのよくあったよな、実際出来るかどうか結構練習してさー。手刀じゃ無理だったからよ、こうやったら倒れてさ。うまくいったって感じ?」

 教官は矢嶋にも目を付ける。Fの3番、名前は矢嶋(やじま)。実はこのデータにはすべて名前の情報は名字しか記されていない。主に番号制を取っているので名前自体にはそれほど意味はない。年齢は35。奇抜なオレンジ色に髪を染めており、寝癖のようにあちこちはねている。…いらない情報だが本人曰くチャーミングな顎鬚がトレードマークらしい。彼は元犯罪者、幾人もの人間を病院送りまたは殺人を犯している。しかし彼はアスペルガー症候群、自己責任能力は乏しいと判断され隔離施設に入院

していた所に青い紙が届きここにやってきたという。

 「どう?俺もイケてるだろ?なんせ犯罪やコウイウコトに関しては大の得意なんだよね。」

 「…別に、自分には関係ないだろ」

 「いいじゃん、同じ穴のむじなだろーつれないなー」

 「あんさんは分かりやすい嫌な顔で答えないといけないのか。それに自慢することじゃないし、はっきりいおう邪魔だ。」

 Grouchはしつこく話かけてくる矢嶋を片手で追い払い、ポケットからキツイ甘味料のついた粗末なグミを取り出しそれを噛み締める。過食症というわけではないがいつも口に何かを入れている、イヤホンと同じ彼なりの安定剤であろう。ぎちぎちとゴムのような食感を味わいながら口を閉じた。そしてまた別のところで騒ぎが始まる。今度は異常なほどに気を放った屈強な男が相手の腕を捻じ曲げていた。教員が必死に止めに入り相手はなんとか命拾いをする。その瞬間屈強な男は先ほどの気を収め急に態度を変え相手を心配し始めた。その様子に周辺にいたみんなも戸惑いを覚える。

 「君!番号を言え!大切な人材になんてことするつもりだ!」

 「Bの78番です…。あの…すみません。大丈夫なんでしょうか、彼。つい、うっかり」

 大きな熊のような男が体を縮こませている様子を眺めていたGrouchにまた矢嶋は近づいてくる。

 「アイツ知ってるぜ、同じ隔離施設にいたやつだよ。殺人とかは犯してはいないけど幾度となく器物損壊で訴えられてたやつさ。」

 Bの78番、名前は溪山けいざん。年齢は28。2mはある熊のような巨体に反して性格は大人しい、だが時折まるで別人かのように性格が変わり暴れだしてしまう。双極性障害である。本人曰くテンションがあがっているだけらしいが…。

 「困るよなーああいう奴って、無意識ってのもおっそろしいぜー」

 「…それ、あんさんにも言えるといえるが」

 矢嶋の余計な一言に噛んでいたグミを飲み込み思わず口を挟んでしまう。「おっ構ってくれる気になった?」と矢嶋は身を乗り出すが再びポケットからグミを取り出し噛み締めた。どうやらグミは安定剤というより喋りたくないという主張なのかもしれない。矢嶋がGrouchとじゃれあっている間、しょんぼりと落ち込んでい溪山に青年が歩み寄る。

 「溪山。落ち込んでいる暇があったら元の場所に付け、お前は大きい体なんだから隅にいろ。練習の邪魔だ。」

 「でも御鳴。またおいやっちまったよ…。折角御鳴にしっかり教えてもらったのに…」

 「相手が貧弱なのが悪いのだろう。お前が悪いんじゃない。ほらこっちに来い。」

 そういって御鳴と呼ばれた青年は溪山を連れ整列し始める。しかしそれは教官によって呼び止められた。

 「おいAの1番!勝手にBの78番を連れ出すんじゃない。そいつはあっちだ!」

 「こいつには僕がいなければいけないんだ!別に規則なんてないのだから。だったらちゃんとルールブックでも作ればいいだろう」

 「それを守る奴がここにいるならやっている…!」

 そう教官に強く反発するのはAの1番、というよりこの人物しか教官に当たるものなど少ない。名前は御鳴(みなり)。年齢は18。日本人の父とアメリカ人の母を持つハーフ。ブロンドの髪をなびかせて整えられた端正な顔は人形のよう。合わせて肉体は軍人なみで180cmの高身長である。はっきり言おう、すごぶるモテる。政府の重役の息子らしいが、自ら志願して召集に乗った。一応この異端者ばかりの中でも優等生のほうだが、自閉症を持っており基本的な事は守るがあるものに関してはすごい執着心を持つ、現在その矛先は溪山にあるようだ。その様子が幼い子供が大きいテディベアを大事に握りしめているようなものだ。

 「おい、向こうにいくよ、御鳴。また休憩時間に会おう、ね」

 「溪山は僕がいないと何もできないのに…、わかったよ。また、ね。」

 べりべりと教官に離される二人。お気に入りのテディベアは没収されたようだ。大人げなく頬を膨らませ溪山を引き離した教官に睨みを利かせる。このように子供っぽい御鳴であるが、その実力はかなりのやり手である。Grouchほどの実力、矢嶋ほどのセンス、溪山のような怪力はないけれども彼の本領は知能にある。以前授業にアメリカ軍の戦況指揮官がゲストとして現れ、戦術の知恵比べを行った。そして見事指揮官がしいた陣を退かせ策を披露したのが御鳴である。その実力にこっちに来ないかと推薦されたが御鳴自身はこの場所を選んだのである。父と共に日本を守りたいという気持ちが、彼の信念に強く残っているのである。

 また歓声が上がり始める。今度はなぜか黄色い、いや茶色い歓声が響いた。その中心には文字通り男を尻に引いた女性がいた。周りには「羨ましいぞー」「そこかわれー!」と男共が群がっている。矢嶋がそこに目をつけるとGrouchはその中心へと向かっていく。

 「てめーらぁ、うっせぇよ!!ピーピー騒ぐなじゃかしい!!はぁー。もっとましなのはいないのかよ。話になんねぇぜ。さっさと実践に向かいてぇ…」

 「庵樂っ」

 「ん?あぁ、お前は確か…。Grouchじゃない!久しぶりねぇ、元気にしていたぁ?」

 女性の言葉とは思えない怒号が美人の口から発せられギャラリーは息を潜めた。そしてその間を割るように駆け寄ってきたGrouchを見るなり"人が変わったように"急変し声色を変え、彼に抱き着いた。彼女の豊満な胸にGrouchの頭がうずくまり息ができないと背中をタップする。

 「~~~っっ」

 「あらごめんなさい、会えてうれしくって。仕事にも嫌になったったからここに来たのだけれども…Grouchもここにいたのね。それにしても別のチームってやぁねぇ。まったく不便ったらありゃしないわ。ちなみに私Eの45番なの。」

 「ここで会えるなんて思っても…。軍は嫌だってあれほど…」

 「こんな男所帯だとは思わなかったのよ!だって女の子なんて私ぐらいしかいなくって、だってみんな他のスパイ部隊にいっちゃったのよー?私も呼ばれてたけれども、誰かに寄り添うのは仕事だけで十分だから追い返して無理やりここにいれてもらったのよ。少し寂しいわぁ…。けれどGrouchがいるなら安心だわ。」

 「えっなになに?こんな美人とGrouch知り合いなの?ねぇー俺にも紹介してよー」

 親しくするGrouchと庵樂との間に矢嶋に割り込み庵樂に声をかける。あ、やばいと小さな声がすれば、庵樂の表情、もとい人格が変わる。

 「庵樂とGrouchとの会話に口挟むんじゃねーよ、このカスが。お呼びじゃねぇんだよ、帰れ」

 「なんだよ、こいつ口わりーぞ、Grouch。」

 「あんさんが気に入らなかったみたいだな。庵樂はこういうのだから。」

 「あーはいはい、多重人格ってやつね。」

 「なんだわかんじゃねぇか。」

 「察しがいいっていってくれよ。」

 「空気は読めないがな」

 Eの45番の彼女の名前は庵樂(あんらく)。女性らしい体付きはどの男も魅了する。背中にまで届いた美しい黒髪をもち、モデル顔負けの美人である。身長は170cm。年齢は30らしいが…実は定まってはいない。先ほど人が変わったようにと表現したがその通りである。隔離性同一性障害、俗に言う多重人格であり、ある時は怒りっぽい男性、大人しい少女、無邪気な幼子、老婆、といったように人格が変わる。今は通常の状態で普通の30代女性、これが本体であるらしい。

 「うふふ、あなたがいるならこれから楽しくなりそう。でもGrouch、あなたの本命はなんなのかしら?あなたの元には青い紙は届かないはずよ。自分から志願するなんて、"あの事"があるからてっきり…。あっここで言わない方がよかったかしら」

 庵樂は隣にいたままの矢嶋を見るなり滑りかけた口を手で押さえる。Grouchは顔を伏せて後ろを振り向く、当然表情は見えなくなる。それと同時に先ほどまで晴れていた空が急に雲が現れ陰り始めた。

 「分からない。ただ、また戻りたくなったのかもしれないな…戦場に。」

 ポツ、ポツと降り始める雨。戻ろうと矢嶋は声をかけるがまるで聞こえていないように反応しない。みんながみんな建物の中に戻る中、Grouchはそこに暫く佇んでいた。髪や服が濡れるのは気にせず、胸中の想いにぐるぐる頭を支配され、過去の膿がじくじくと心臓を蝕んでいく感覚がGrouchに襲う。すると雨が急に止んだことに気づき、ッハと目を覚ます。いや止んでいたのではない、誰かが傘をさしてくれているのだ。

 「風邪を引いてしまう」

 「そうだな。すまない、今戻る。迷惑をかけた。名前は?」

 「Uの125番、屋敷小路(やしきこうじ)だ。」

 「初対面に聞く話じゃないが、お前はどうしてここに来たんだ。」

 

 「死に場所を探しに来た」


 屋敷小路の迷いのない答えに心の中の異物がすとんと何処かに落ちた。するとGrouchは口角をあげ、笑顔らしき表情を作る。

 「お前とは気が合いそうだよ」

 「それは嬉しい話だな」

 屋敷小路から傘を受け取り、Grouchはみんなのところへ戻り始める。


 





 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ