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8 自殺概念

「自殺したいと考えている人に関わりたくない、そう考えている方が多いのが事実です。中途半端な事を言って自殺されたら堪らない、ですけれど、あなたに相談者が自殺した責任を取れなどと言いません。


自殺は自己責任です。誰かに”死ね”と言われて死ぬというのはすべて自分で選んだ道です。自分の人生は自分で決めなさい、それならば生きるも死ぬも自分で決めて良い筈ですが、大概の人間は仲間と意識する人間を生きる事へ縛りたがります。」



「俺・・・宗教とか、そういうのやらないんで。」



「宗教について私は詳しくありませんが、信仰心が無かったら自殺しているという方はいます。宗教が存在しなければ、多くの人が自ら命を絶つ世界となるかもしれません。」



「じゃあ・・・人って何の為に生きてるんですか?」



「意味は一つだと思いますか?それとも人の数ほど意味があるのなら、私の生きる意味とあなたの生きる意味は違いますから、私の生きる意味を聞いても、あなたの生きる意味にはなりません。


人はそうして、自分と自分以外の人の生きる意味ということを考えずには居られない生き物ではないかと思います。自分と他人を比べて、正解を探したがる人もいます。正しく在りたい、正しいとは何の事でしょう?誰にとって何にとって正しいというのか。


陰と陽、陽が傾けば陰も移動する。


心も同じです。生まれてからずっと変わらないでいる心を持っている人はいるのでしょうか?心は学んで成長します。


善い悪いはあなたの心の中で決められ、どの道を選んで進むかもその心が決めます。生きる道を歩くか死ぬ道を歩くか、楽する道を行くか苦労する道を行くか、それもあなたが決めています。


死への道が楽だと考える人は少なくありません。その望みを叶えようとする人は少数です。苦しみながら生きる道を歩めと、その苦しみを知らない人々は言います。でも私は、生きるのなら苦しまずに生きる方がいいと思います。今ある苦しみを消したら、死へ向かいたくなくなるのが人です。


その人を一番苦しめている重大な何かを探り、それを消すお手伝いをするのが私達の役目です。金銭の報いはありませんが、人の苦しみを一つ消す事が出来ます。ただそれだけです。」



「それってやっぱり宗教みたいなカンジですよね・・・」



「死にたくなるかもしれないと仰いましたけれど、あなたは死にたくなるという気持ちを悪い事と考えていませんか?」



「え・・・だって、ここの人達だって、自殺はいけないって、相談者にそう伝えているんじゃないんですか?」



「いいえ。どうして自殺を選びたくなったのか、お話を伺っているだけです。」



「それって、相談者がどうしても自殺したいって言ったら、どうぞって、止めないって事ですか?」



「自殺は止められる・・・本当にそうですか?止められるのに、どうして毎日自殺する人がいるのでしょう?目の前でその人が自殺しているのを見ている人が何人もいらっしゃるとお考えですか?」



「いや、そんな・・・自殺しようとしている人を黙って見過ごす人なんていないでしょう?」



「大抵の人は、死のうと思ったら一分かけずに死ぬ事が出来ます。特に、死ぬ事しか考えられなくなっている人なら、至極簡単な事です。その気持ちは、あなたにも解りますよね?」



「確かに・・・」



高い場所から飛び降りたり、走る電車や車の前に飛び出したり、致命傷を与える体の一部分を傷付けたり、毒を飲んだり、首を吊ったりも出来る。



死ぬ事しか考えられなかった時は、その時に感じるであろう痛みなんて想像出来なくなっている、感覚が麻痺しているんだ。



ただこの息苦しさから逃れたい、この日常に身を置きたくない、でもその方法が解らないから死ぬしかない、そう考える。



「追い詰められて心にゆとりが持てない人は、何も考えられなくなります。苦しみから逃れられる天国のような場所が死で、そこへ行く手段が”自殺”です。生きて行く苦しみより、死んで楽になりたいとしか考えられなくなる。ここは、そう考える人達の話を聞くだけの相談所です。」



「聞くだけ、なんですか?何かしてあげるとか・・・」



「何をするというのですか?お金がないから死ぬ、そういう人にお金をあげれば、それで終わりですか?では、お金が無くなったら、また死にたくなりませんか?生きるのにお金は必要です。それは働けば手に入ります。働けない人は公的支援を受けられます。


自殺を一時的に防ぐ事が目的ではありません。自殺したいと思う程追い詰められ、苦しさの中で喘ぐ人を楽にしてあげる薬の代わりになりたいんです。


死を苦しい中で迎えるよりも、安らかな中で迎えたいと願う人は多いと考えます。


楽に死にたい、それは体だけではなく、心安らかなままにという意味もあると考えます。」



「なんでそこまでして、自殺相談所なんて開いてるのか解りません。自殺を食い止めたって、突然鬱が再発して、いつ自殺してしまうかも解らないでしょう?」



「再発とおっしゃいましたが、鬱は特別な人が罹る病――――ではないと私は思います。人が誰しも持っている心が熱を失って動けなくなってしまったというだけです。体が熱を出して動けない、風邪と似ていますね。治ってもぶりかえす。風邪を病気という人は少ないですよね。


鬱は、一番に考えてしまう苦しみを綺麗に忘れ、食べて眠って安静にしていれば治るんです。ただし、その期間は体の風邪が治る期間とは異なります。治った途端、別要因の風邪に罹ることもありますから。」



「確かに・・・薬飲んだから治るってものじゃないって、言われました。飲まないよりはいいって、でもそんなのわからないなって。俺は途中で病院に行かず、薬も飲まなくなりましたけど、まだ生きてます。」



「どんな薬でもそうです。特効薬というものが体に合わない人もいます。同じ薬でも、私とあなたの体の細胞は違いますから、同じに効くということはありません。


でも、話ならどうですか?


苦しい心を救うのは薬だけではありません。人は、考えを表現するだけでストレスの値が減る、という研究もされているようです。書く、話す、歌う、踊る、見せる、方法は色々あります。ここは、書く、話すを主にした、相手の心の叫びに耳を傾ける場所です。」



「心の叫び?」



「例えばあなたの心です。あなたの生きる意味を決めるのは誰ですか?神様ですか?」


「それは・・・」



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