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7 自殺願望

「ナガイさんは自殺したいと考えたのはいつ頃ですか?よろしければ原因も教えて頂けませんか?」



何も言えなくなった俺は、所長に訊かれた問いに、素直に答えるしかなくなっていた。



「俺が自殺したいと思ったのは、大学中退した五年前くらいです。理由は解らないけど、六年前突然電車の中で倒れて、それから乗れなくなって、心の病気だって診断されて。原因も解らず、毎日気分が落ち込んで、何も出来なくなって・・・大学も辞めて、生きる意味とかないんだったら死んだ方がいいんだろうなとか、でも死のうとする行動も起こせなかったから今、生きてる感じで。その当時、いい自殺方法を知ってたら死んでたかもなとは思います。」



「いい自殺方法ですか。それは私も知りたいです。何を以って”いい”というのでしょうね。」



「迷惑掛けないで、コロッと苦しまずに死ねる方法とかじゃないですか?例えば線路に飛び込んで電車に()かれたら死体の処理とか困るでしょう?電車の運行を乱すと莫大な費用を請求されるというのは聞いた事があったし・・・だから、人に迷惑を掛けないで楽に死ねる自殺方法、それをこちらで教えているのかと、初めは思いました。けど、そうじゃないみたいで・・・」



何だか調子が狂う。相手が丁寧な言葉だと、ぞんざいな口が()けなくなって来る。



「あなたは”それ”を知りたくてこちらにいらしたのですか?」”それ”とは、”いい自殺方法”の事?



「違います。今、フリーのライターしてて、って言っても殆んど記事を書いた事は無くて金にもならなくて、そんな事どうでもいいですけど、とにかくここって何なんですか?って事を知りたかったんです。」



「ですから、皆さまの相談を聞く所です。」



「そういうカウンセリング?みたいなものって、行政とか、医者とかに任せた方がリスク低いと思います。何かあって、ここのせいにされたら困るのは所長さんじゃないですか?」



「行政で行っている無料相談の精神科医師に、知人の付き添いで会ったことがあります。医師と一緒に、知人宅に引き籠もる家族の所へ向かったまでは良かったのですが、物騒なことが何かあっては怖いからと、医師は自分の命の心配ばかりして、話をして欲しい本人に会わずに帰って行きました。当たり前と言えば当たり前かもしれません。医師は、例えお金を貰ったとしても、自分の命をその人一人だけに懸けられる仕事ではないと思っているからです。私達はお金は要らない。そして命は懸けてもいいと考えています。危険だから助けに行かない、と二次被害を恐れていて助けられなかったら相談所の意味がないと思いませんか?ただしそれは国の機関でもなく民間の企業でもないから出来る事です。お金で人は救えないとは、お金が絡むと救えない命もあるということです。お金で買える命はお金で買えばいいのです。ここは、お金で買えない種類の命を繋ぐお手伝いをする場所です。もしも、あなたが”自殺”以外の方法を私達と一緒に提案して下さるなら、手伝って頂けませんか?」



「えっ、だけど、俺は・・・」お金も貰えない上に、命を懸ける仕事って何だよ。そんな仕事、引き受ける奴なんていないよ。



「お金にならないから相談員になれない、そういうことでしょうか?月に一日でもよろしいですので、お仕事がお休みの日に、来て頂けませんか?」



何で俺が・・・どちらかというと、人の相談に乗れる方ではなく、相談に乗って欲しい方だと思った。



「仕事らしい仕事はしていません、から、俺は手伝うとか出来ません・・・一応、働かないといけないから・・・」



と、仕事を盾に断る俺は卑怯だと我ながら思う。仕事らしい仕事はなく、現在収入ゼロで親のすねかじり中だっていうのに。



「人が生活して行くのにはお金がかかりますから、確かに、無給でお願いするのは難しいですね。」



「・・・・・・」そうだよ。世の中の人が働く目的はお金の為だ。お金を得て、生活する。



「ここの相談員は皆、別の仕事でお金を得ながら、無償で働いてくれています。」



マズイ・・・俺、巧く丸め込まれそう。



駄目だよ。人の自殺相談なんかに乗っている精神的余裕だって俺にはない。



「俺も、鬱が、いつぶり返すかわかんないんで・・・人の話を聞いてる内に、俺も死にたくなるかもしれませんから。」



そうだよ。人の自殺動機を聞いたら、自分も死にたくなるかもしれない。



よく考えたら、人の心の深い所を聞く事は、危険な仕事なんだ。


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