122 大吉大凶
願い事を終えて、次に並んだ人達と交代するように横に逸れた後、「何を願ったの?」と優に聞かれた。
すかさず「言わなくていいよ」と大樹が言ってくれたので「内緒」と優に返すと、「そっか。あ、おみくじあるよ!引こうよ!」と一瞬残念そうな顔を見せたと思ったらすぐに、簡易設営されたようなおみくじ所を指差し、明るい声を出した。
布を被せた長机の上に、年季の入った正方形の木箱、「おみくじ」と書かれ、箱の天井には丸い穴が開けられていた。
「おみくじかあ。」昨年は引かなかったと思う。
「普段は無いけど、正月だからか。久し振りだな。」
「そうなんだ、普段は無いんだ?」
境内には甘酒と看板を出した、自治会名の入ったテントがあった。
「甘酒、ってどんな味?酒なの?」大樹はおみくじよりも甘酒が気になる様子。
「あっちで破魔矢売ってる。絵馬も。買って行く?」優は甘酒とおみくじの間にあるテントの方向を見ている。
「おみくじどうする?」
折角だから引いてみたくなったので二人に聞くと、
「引きたい?」
「引けば?」
と、おみくじに興味がなさそうな答えが返って来た。
「引こうよ。」
皆で引きたいと思って食い下がると、「100円?あったかなぁ?」大樹が先に歩き出した。
「あるよ、100円。」優が大樹に駆け寄った。
並ぶ二人の背中を見ると、胸の中に温かい気持ちが込み上げた。
二人に追い付き、100円玉を探した。
先ず大樹がお金を入れて、一枚引いた。
そして優、俺の順に引くと、それぞれ手にしたおみくじをゆっくり開いた。
昔から緊張する。今年の運勢を知るのは。
勿論、すべてがその通りになる訳ではないけれど、書かれていることを読むと、その通りになるかもしれないと思わせられる。
どきどきしながら目にした文字は、”末吉”だった。
多分、三人の中で一番悪い運勢かもと思った時、
「うわわ!大樹、それ・・・・・・」優の驚く声が聞こえた。
「何?”大凶”?」それがどうしたと言わんばかりの大樹の声に、
「えっ?大樹が?」と俺も反応してしまった。
“大凶”って、”凶”よりも・・・・・・
「お前らは何だったんだよ?」
「俺、”大吉”だった・・・・・・」優が暗い声で言ったのは、大樹に遠慮してなのかもしれない。
「俺はこれ。」二人に見せた。
話題にもならない”末吉”、中途半端に感じて、”大凶”の方が良い、訳ではないけれど、何故おみくじを引こうと思ってしまったのだろうと、おみくじを引かなければ良かったと後悔した。
「別に気にしないけど。こういうのいつも”大吉”だったけど、良かった年なんて全然ないし、当たらねぇ。”大吉”だろうと”大凶”だろうと、俺や周りには何の影響もない。書かれてる通りになんてならない。これ以上、良くも悪くもなりゃしない。」
家族の事で苦労した話は少しだけ聞いた。
“大凶”にも驚かない程、良くも悪くもない事を沢山経験して来たのだろう。
そういえば俺も”凶”を引いた事があったかも。その年の運勢はどうだったかな。
おみくじに書かれていた運勢が悪かったとしても、今死なずに生きてるという事は、良かったという事になるのか。
“大凶”を引いたからといって”命が危ない”とかではないのだから、大騒ぎする事もない。
「向こうの紐にみんな結んでる。行こう!」
優は大樹の手を引っ張った。
大樹が素直に手を引かれている姿を見て、意外だと驚きつつ、俺の口元が緩み出した。
俺が笑ってる所を見られたら、大樹に怒られそう。
“大吉”でも”大凶”でも、心の持ちようなんだなと思えた。
当たるも八卦、当たらぬも八卦、お師匠様の占い?というか直感?の方がピタリと当たるから、
「今度お師匠様に占って貰おうよ。」と思い付いた事を二人に言ってみると、
「嫌だ」
「それはちょっと」
と二人は乗り気じゃない。
「どうして?」
「師匠のは占いというより予言・・・・・・怖いって。」
「そうそう、未来が見えるのかな?これから何が起こるとか分かるのって、”勘”の域を超えてるから怖ろしいよね。魔女っていうのか、巫女っていうのか。」
「えっ、そうかなぁ?」
二人がそんなにお師匠様を怖がっているなんて、初めて知った。