120 大きな存在
「まあ・・・・・・」褒められたのかな、少し照れくさい。
「新年会、何かお料理持って行く?」
うちはおせちを全部作る文化がなく、食べたい品だけをその年によって買ったり、作ったりする。
「うーん、どうしようか考え中。」
「明日でしょう?今から考えるのじゃ遅いでしょう。昆布巻と煮物ならあるわよ?」
「じゃあ、少し分けて貰って、あとは適当に買うよ。駅前のスーパーって明日、開いてる?」
「元日休みだったと思うわよ。2日からじゃない?」
「あー、そっか。今日の内に何か用意しておけば良かったな。」
後悔しても遅い。コンビニで何か買うかなと思ったら、
「お餅持って行きなさい。沢山買ってあるから。お雑煮とかきなこ餅とかお汁粉も作れるでしょう?」と言われた。
「あー、そうだね。確かに。」
「海苔で巻くのもいいし、チーズかけてトースターでピザ風もいいわよ。」
「・・・・・・太るよ?」
「うるさい。はい、蕎麦出来た。」
大樹の家で新年会をやるというのは、29日、バイト納めの時に約束した。
桜花さんが入院しているから、家に一人きりになる大樹をうちの年越しに誘ったけれど、
「年越しは家族でしろよ。俺は家で、まだやる事あるし。」と、断られた。
「寂しくないの?」
優が泣きそうな声を模して揶揄うと、
「うるせぇ、寂しくねぇよ!」と優の頭を拳で掠めた。
「ははっ、じゃあさ、初詣行って、その後、新年会しようよ、大樹の家で、食べ物持ち寄ってさ。」
優の提案に「それいいね!」俺も乗った。
「はっ?お前ら、うち来んの?」
「いいじゃん。綺麗にした俺達を労ってくれても。」
優にそう言われた大樹は一度黙った後、
「分かった。初詣、何時?どこ神社?」ぽつりと言った。
「午後からにしよう。14時頃に食べ物持って行くよ。酒は大樹に任せる。新年会は夕方からで、朝まで飲む!」
「え?ちょっと待て、朝までって何?」
優が俺の肩に腕を回して大樹に宣言した。
「俺達泊まるから!」
「泊まる?!」
俺と大樹の声が揃った。
「いいじゃん、修旅みたいでさ。俺達、同学年だし。」
「そういう問題じゃあ・・・・・・」
「決まり!行くから!」
優の横顔は今まで見た事ない位、わくわくして見えた。
対照的にぽかんとする大樹の顔を見て、俺はそっと笑った。
なんかいいな。本当に学生時代に戻ったみたいだ。
俺は途中で大学に通えなくなったから、こういうの高校以来だし、多分大樹もそうなんだろう。
優の決断力、行動力はすごいなと改めて見直した。
家族で年越し蕎麦を食べて、除夜の鐘を聞きながら、年が明けた。
新しい年。
今日は昨日の次の日というだけだと、昨年の元旦は、年を越しても何も変わらないと思って居た。
今年は違う。年が変わる。俺も変わった気がするから、新しい年も今までとは変わると期待して居るのが分かる。
仲間、友達、家族の存在が大きくなって、俺の気持ちを変えて行く。
だから俺の存在もきっと、みんなに大きく影響を与えて居るのだろうと思う。
俺一人居なくても世界は変わらないと思って居た。
そんなことはない。俺の世界は変わった。だから誰かの世界も変えられるという理屈を知った。
貰ったものは返す。
俺がみんなに貰ったもの、それを少しずつ返して行く。
みんなに、みんな以外に。
世界は繋がって居るから、巡り巡ってまた俺の所へ還って来る。
良い事も悪い事も、形を変えて繋がって、また出逢うんだ。
それをみんなで受け止めて行く。今年は、一人じゃないって気付けたから心強い。
初詣、新年会、そして今年も相談所で俺は、みんなの話を聴いて、この世界を知り、広げて行こう。
今はそれが、人としての成長に繋がると思って居る。
昨日の次の日、新しい今日、特別になるかもしれない日、嬉しい日、楽しい日、苦しい日、悲しい日、晴れの日、雨の日、曇りの日、ただ生きて行く、変わりながら、受け止めながら、続けて、気付いて、生きて行く、明日に向かって生きて行く。