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113 喜怒哀楽

ゴホッと咳のような音が厨房の入口から聞こえた。



振り向くと、マスクを着けた店長とバイト仲間が立って居た。



店長はジャンパーを脱いで、マスクを外した。



バイト仲間の彼は、マスクを着けたまま、コートを脱いだ。



彼は相談所でも一緒で、”イヌ”または”ネコ”の時もある。



姉弟、または兄妹で、”イヌ”、”ネコ”のぬいぐるみを来て、相談員もして居る。



彼と彼女、二人はいつも一緒だ。居酒屋バイトのシフトの時も。



それなのに今朝は一人。彼女の姿はない。後から来るのだろうか。



相談所に入った頃はおかっぱ頭だった彼の髪は伸びて、後ろで一つに結んで居る。



馬場タイジュさんと、馬場オウカさん。



名前の漢字は知らない。年齢は俺より上らしい事を店長から聞いた。



ペットロスの相談や、ハンディのある人の相談を主に受け持って居る。



相談員としても、バイト仲間としても先輩だ。



ただ、あまり親しく話した事は無い。



仕事の都合上の必要最低限の会話のみ。業務連絡というものかな。



オウカさんの方は、無口、というか喋れないのか、相談の時は、手話や筆談を用いる。



タイジュさんはフロアも厨房もこなす。相談所でも受付、相談、両方だ。



オウカさんは厨房、昨日優くんがしてくれたような裏方業務。



相談所では受付が多いけれど、タイジュさんの補佐につく事もある。



小柄で色白な女性。時間はかかるけれど、仕事は丁寧。



タイジュさんは時間を守る方。完璧を求めないタイプだ。



店長は、バイト仲間みんなの個性を熟知して居て、それを考慮した上で采配を振る。



所長は、相談員みんなの心を信じて見守り、困った時は助ける。



店長、所長、二人に思う事は、みんなの事をよく見て居る。



そして自分の事以上に、考えて居る。



俺達が気付いて居ない事も気付いて居そうだ。



お師匠様は間違いなく、俺達の心が読めて居る。



だから相談者の心に寄り添えるのだろう。



俺は、自分の心も分からない時がある。相談者の心も見えて居るとは言えない。



でもこれからだ。相談員は難しいけれど、やりがいがある。ボランティアでお金は貰えない。



それでも真剣にやりたいと思う。



「おお!鮭おにぎりか。いいチョイス!それじゃ、みそ汁でも作ろうかね。わかめと豆腐でいいか?」



「店長、俺やりますよ。」



鍋を掴んだ店長の横に、すっと並んだ優くんが言った。



「ああ、いいっていいってすぐだから。それよりおにぎり頼む。」



「分かりました。」



「リョウタ、コーヒー淹れて。えー、俺とタイジュと、ユウは?」



「貰います。」



「で、リョウタも飲むなら四人分。」



「あ、はい。えっとコーヒーはどこに。」



「あー、そっか。いいや、説明面倒だ。俺やるから。」



「やります。」



手を洗った彼は、ロッカーのある方へ向かった。



コートを掛けて来るのだろう、そう思って居たら、小ぶりの段ボール箱を抱えて来た。



「リョウタくん、お湯沸かして貰える?これ、やかん。」



彼はそう言って、段ボール箱の中から取り出した。



覗き込むと、コーヒーを入れる道具一式が入って居る。



「豆、冷凍庫ですよね?」



「そうそう。タイジュ分かる?」



「多分、分かります。」



彼は、いつもにこりともしない無表情。けれど怒って居る風には見えないから、怖くはない。



嘘や意地悪を言わないから、いい人なのだろうと思う。



優くんとみたいにくだらない事を話して、笑い合える仲になるのは難しそうだけど、仲良くやって行けたらいいなとは思う。



タイジュさんがどう思って居るか分からないから、あまり踏み込めないけれど、もしも困った事があって、俺が力になれるなら、いつでも手伝うつもりで居る。



勿論、オウカさんにも。



先輩だから、後輩に対して”助けて”とは言い難いかもしれないけれど、頼られたら嬉しいなと思って居る。




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