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103/121

103 誕生日

12月25日、クリスマスの前に、俺の場合は誕生日という文字がカレンダーに書けた。



でもそれは、子どもの頃の話で、大きくなってからは、一年に一度しかない誕生日を特別なものとしなくなって居た。



俺を含め、大半の”大人”と呼ばれる人は、誕生日を特別なものとして居ないように思う。



両親もそうだし、周りの大人の大半は”今日誕生日なんだ”と自ら発したりしなかった。



それを察してという訳では無さそうだけど、12月25日は、毎年、家で、家族だけのクリスマスパーティーをして、静かに終わる・・・・・・と言うのがここ十年程、定番のクリスマスの過ごし方だった。



生まれた日を祝う────子どもの頃は疑問に思わなかった。



“お誕生日 おめでとう!”



何がめでたいのだろうか。



生きて居る事に対して、しあわせな気持ちを抱く事が出来なくなった頃、反発心が芽生えた。



死ぬ事に対して、正反対で、それから”死”とは”生”と、どのような関係にあるか考えたりもした。



“死”と向き合う事は、”生”に反する訳では無く、自分の人生を深く考えるからこそであると言うのは、相談所に来てから分かった。



今年のクリスマス、いや、誕生日は、自分の”生”と”死”を考える日になると思う。



25歳、これまで生きて来た事と、これから死まで、どの位の間、どう生きるか考える。



誕生日、アルバイト先で誕生会を開く事を母に話したら、喜んでくれて、父と妹を連れて来ると言った。



そして、二台のケーキを持ち込んでいいか聞かれた。



それは店長の許可を貰ってあるから、いいよと返事をした。



「ただ、当日俺はバイトだけど」とも言ったら、「遼大が働く所を見て見たかった」と母に笑顔で返されて、今更照れくさくなって、誕生会をバイト先ですると言った事を少し後悔した。




いよいよ、誕生日当日を迎え、俺は25歳になったけれど、昨日と何も変わらず、朝から相談所へ赴き、夕方からバイト、といつも通りの日。



「おはようございまーす。」

ロッカー室でポンと背中を叩かれた。



「おはようございます。」振り向くと優くんで、

「遼大、お誕生日おめでとう!」と黄色いビニール袋に白いリボンの包みを渡された。



「何?」

「プレゼント。先に渡して置く。」



「いいのに。ありがとう。気になるから、開けてもいい?」

「どうぞ。」



リボンを解いて袋の口を開けると、両手に収まるサイズの塊が現れた。



白の薄紙で丸くなったそれを、ベりべりと剥がして行くと、、出て来たのは、銀色のマグカップだった。



「保温マグカップ、蓋付きだよ。落としても割れないから。」



以前、マグカップを落として割った話をした事がある。優くんは憶えててくれたみたいだ。



「ありがとう。嬉しいよ。」

「使ってね。」



「うん。大事にする。」

友人からプレゼントを貰うなんて、過去にもあったかもしれないけれど、今年が、一番嬉しいと思った。

帰ったら使おう、と袋に戻してロッカーにしまった。



「ありがとね。来年の優くんの誕生日にお返しさせて。」

「じゃあ、期待しちゃおうかな。」



二人でエプロンの紐を結びながら、フフフと顔を見合わせて笑った。



店が開き、宴会の予約客が揃っても、うちの家族はまだ店に現れなかった。



店内を忙しなく動き回って居ると、やがて母、父、妹が来店した。



「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。」



家族を座敷へ案内する。掘りごたつ式テーブルの上の予約席の札を取って、「こちらのお席になります」なんて、畏まって言うと「ありがとうございます」母も畏まって返した後、にやりと笑った。



父と妹は表情を崩さないからどう思って居るのか分からなかったが、来てくれただけで驚きだった。母がどう言って連れて来たのか気になりつつ、おしぼりとメニューを渡した。







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