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101 誕生

「お疲れ様でした。」

「おう!お疲れ様。二人共、気を付けてなー!」



店を出た俺達は、厨房の鍵を閉めた店長と挨拶を交わして、エレベーターに乗り込んだ。



扉が閉まり、クンと一階まで下りて行く短い間、何か言葉を掛けようか迷う内に止まったエレベーターの扉は開き、優くんが開のボタンを押したまま、俺に先に降りるよう左手で促した。



ビルから外に出た途端、気温が一気に下がったのを感じ、思わず「寒いね!」と漏らした。



「ほんと、寒いね。」



店の中は暖房が効いてて暑かった。それに忙しなく動いていたせいもあっただろう。



身を縮ませる程の冷気が、俺達を包んだ。



はーっと吐く息が白くなるのを見て、また寒さを感じる。



「冬だね。雪降りそう。」駅まで歩く道、俺は優くんにぽつりと話し掛けた。



「ほんと。降るかもね。予報ではホワイトクリスマス?」



疲れているかもしれないから遠慮しようと思っていたのに、返って来ると嬉しくなった。



「そうなの?」

「遼大、誕生日でしょ?ホワイトバースデー。」



「ホワイトバースデー?聞いた事ないよ。」

「俺も。」優くんはふふっと笑った。



「何それ。誕生日、憶えててくれたんだ?」

「前に聞いたから。」



「何かの行事と重なる日って憶えられやすいんだよね。」

「誕生日とクリスマス、一緒で嫌だった?」



「小学生の時、クラスメイトにいいなあって言われた事もあったけど、俺は不満だったな。」

「何でか聞いていい?」



「想像出来るでしょ。」

「誕生日ケーキと誕生日プレゼントがクリスマスと一緒になって一個になる、とか?」



「ご名答。」

「やっぱりそうなの?」



「その家によると思うけど。まあでも今は、誕生日とかクリスマスとかやらなくていいから、関係無いけど。」

「遼大の家ではクリスマス、やらないの?」



「あー、母親が仕事先の付き合いでケーキ二つ買わされるから、今年食べ切れないって言ってたな。優くん、うち来て一緒に食べてくれない?」



「えー?光栄だけど、家族水入らずにお邪魔するの気が引ける。」



「それはいいけど、誘われても優くん迷惑だよね?」

「それは無いよ。ただ────」



「何?」

「クリスマス、店手伝っていいかな?」



「えっ?」

「遼大には黙っててって店長に言われてたんだけど、従業員の人達、色々事情があって、しばらく勤務が厳しいみたいなんだよね。」



「だから優くん、明日も来てくれるって言ってくれたの?」

「まあ俺も、役に立って嬉しかったから。久々に働いたー!って感じも悪くなかったし。」



「疲れたでしょ?」

「まあね。でも、楽しかった。」



「えー?楽しい?」



「うん。必要とされてたし、無駄な事だと思わない。俺のしてた仕事と大違い。達成感も無いし、褒められたり感謝されたりも無い。何の為に誰の為に続けるんだろうって思いながら、褒められない感謝されないのは自分のせいだって自分で自分を責め続ける。それで仕事行けなくなってるんだからどうしようもないよ。」



「優くん。ごめん。辛い事、思い出させて。」



「ううん。バイト誘って貰って良かった。一人の内側でずっとモヤモヤしてたのは間違いだったって分かったよ。こうやって、自分の外側から入って来る刺激が、内側のモヤモヤ打ち消して、間違ってたのはモヤモヤもそうだけど、内側に溜め込んでた自分の姿勢だって分かったから。もっと早く殻割れるような刺激、受けるべきだったって、まあ、受けてヒビ入って割れて見ないと分からないよね。」



「卵みたいに?」

「そうそう、卵。あー、なんかゆで卵食べたいなー。」



「生卵じゃなくて?」

「うお!それいいね。卵かけご飯!家に卵あったかなあ?」



「夜食に食べるの?俺もそうしようかな。鮭茶漬けは昼に食べたから。」

「うわ!それもいいなあ!鮭かあ。」



「夜に食べ過ぎると太るよ?」

「お互い様!」



俺達は、ふふっと笑って、まだ雪の降りそうにない曇り空を見上げた。






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