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100/121

100 善用

過酷、怒涛、疲労困憊。

ピークは20時過ぎ、19時から忘年会の予約二組のお客40名弱が続々とやって来た。

しかし、来る筈の従業員二人は中々やって来ない。

連絡も取れない。



「何かあったのかな。」



店長と俺、そして優くんも心配して居たが、やがてそれも出来なくなる位忙しくなって、厨房は店長と優くんの二人で、俺は接客をひたすらし続け、22時半頃、終電が無くなる前にと最後のお客達は帰って行った。



23時になる今、やっと座って温かいお茶を啜れるようになった。



「いやー、お疲れ様!今夜は久々に想像以上だったなぁ。」

「ほんとに・・・・・・」

「そんなに、だったの?まあ、確かにキツかったけど・・・・・・」



「けど?何?優くん。」

「やり切った感じ。」



「気分いいだろ。」

細く切った切餅を焼いて、チーズ、大葉、生ハムで巻いたものを更に並べながら店長が言った。

「はい。」



「ほら、食べて。」

「いただきます。」俺と優くんは、ピックを刺した餅を一つずつ持った。



「はー、どっこいしょ。」

店長もようやく、丸椅子に腰を下ろした。



「ほんとに助かったよ。ありがとう。」

「いえいえ、お役に立てたら良かったです。」



「これ、少ないけど交通費。」

店長は懐から茶封筒を優くんに差し出した。



「え、いえ、いいです。」

「交通費だけだ。貰ってもプラスにならないから。」



「それなら、ありがたく頂きます。」

一度断った優くんだったが、店長に圧されて受け取った。



「年内にまた頼むかもしれないな。」

「俺、皿洗いしか出来ないですよ?」



「丁寧だし早いし、次の段取りも良かった。初めてなのに勘が良いのか、優が居なかったら回らなかったよ。」

「ほ、褒め過ぎですよ。何も出ませんよ。」



「いや、またちょちょいっと来てくれたらいいなぁ。」

店長が猫撫で声で言った。



「店長、駄目ですよ。優くんを扱き使おうとしないで下さい。」

「見どころあるしさぁ、正社員にならない?」



「店長!」

「ははっ、まあ本気だけどな。」



「そうやって誰彼構わず勧誘するのやめて下さい。」

「飲食業界は、人がすべてよ。なのに中々定着しないからさぁ、大変だよ。」



「確かに、遣り甲斐はありますけど、体力がないとキツイですね。」

優くんが言った。やっぱりキツイと感じてたんだ。

引っ張り込んで申し訳ないなという気持ちと、同じく疲れを見せてくれて安心した。



「そーそー。給料安いしね、って、ヤバイ、言っちゃったよ!」

「もー、店長。飲んでます?」



「飲んでないよ。真面目、大真面目!」

「確かにいつも通りですね。」ふっと笑ってしまいながら、俺は頷いた。



「いいね、遼大。楽しい職場で。」

「キツイ日もあるけどね。」



「今日はイレギュラーだって。リョウタ、フォローしといてよ。」

「まあ、確かに今日は、来る筈の二人も来ませんでしたし。」



「ほんと、ヤバかったわー。二人共、ありがとさん!ほんとに助かり過ぎた。」

「プッ、助かり過ぎたって何ですか。」



「リョウタと二人だけだったらって考えると恐いだろー?」

「無理ですね。二人では完全に回せません。」



「だろー!」

「どうしてこんな状況に・・・・・・俺が来なかったら店長一人でしたよ?」



「マジでそれ。」

「俺以外に四人居る筈で、本当なら今日は五人態勢でしたよね?」



「ほんとにねー!何でだろうねー?」

「知りませんけど、明日は大丈夫なんですか?」



「わからないー!」

「店長。」

「俺、明日暇なので、手伝いに来ましょうか?」



「それは助かる!」

「ちょっと店長!優くん呼ぶなら正式に雇うとかしてからにして下さい!」



「じゃあ、採用!」

「ちょっと、店長!」

「手伝いでいいですから、明日も来ますよ。」



「マジで助かるー!ありがと、優!」

「はい。」

「ちょっと優くん、駄目だよ!俺が来るから。」



「やったー!働き手二人確保!」

「えー・・・・・・?」



店長が喜んで居る所、水を差すのが嫌だとそれ以上は言わなかった。



ただ、今夜急に四人も来なかった理由が偶然なんかじゃなく、何かあるんじゃないかと心配になった。





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