100 善用
過酷、怒涛、疲労困憊。
ピークは20時過ぎ、19時から忘年会の予約二組のお客40名弱が続々とやって来た。
しかし、来る筈の従業員二人は中々やって来ない。
連絡も取れない。
「何かあったのかな。」
店長と俺、そして優くんも心配して居たが、やがてそれも出来なくなる位忙しくなって、厨房は店長と優くんの二人で、俺は接客をひたすらし続け、22時半頃、終電が無くなる前にと最後のお客達は帰って行った。
23時になる今、やっと座って温かいお茶を啜れるようになった。
「いやー、お疲れ様!今夜は久々に想像以上だったなぁ。」
「ほんとに・・・・・・」
「そんなに、だったの?まあ、確かにキツかったけど・・・・・・」
「けど?何?優くん。」
「やり切った感じ。」
「気分いいだろ。」
細く切った切餅を焼いて、チーズ、大葉、生ハムで巻いたものを更に並べながら店長が言った。
「はい。」
「ほら、食べて。」
「いただきます。」俺と優くんは、ピックを刺した餅を一つずつ持った。
「はー、どっこいしょ。」
店長もようやく、丸椅子に腰を下ろした。
「ほんとに助かったよ。ありがとう。」
「いえいえ、お役に立てたら良かったです。」
「これ、少ないけど交通費。」
店長は懐から茶封筒を優くんに差し出した。
「え、いえ、いいです。」
「交通費だけだ。貰ってもプラスにならないから。」
「それなら、ありがたく頂きます。」
一度断った優くんだったが、店長に圧されて受け取った。
「年内にまた頼むかもしれないな。」
「俺、皿洗いしか出来ないですよ?」
「丁寧だし早いし、次の段取りも良かった。初めてなのに勘が良いのか、優が居なかったら回らなかったよ。」
「ほ、褒め過ぎですよ。何も出ませんよ。」
「いや、またちょちょいっと来てくれたらいいなぁ。」
店長が猫撫で声で言った。
「店長、駄目ですよ。優くんを扱き使おうとしないで下さい。」
「見どころあるしさぁ、正社員にならない?」
「店長!」
「ははっ、まあ本気だけどな。」
「そうやって誰彼構わず勧誘するのやめて下さい。」
「飲食業界は、人がすべてよ。なのに中々定着しないからさぁ、大変だよ。」
「確かに、遣り甲斐はありますけど、体力がないとキツイですね。」
優くんが言った。やっぱりキツイと感じてたんだ。
引っ張り込んで申し訳ないなという気持ちと、同じく疲れを見せてくれて安心した。
「そーそー。給料安いしね、って、ヤバイ、言っちゃったよ!」
「もー、店長。飲んでます?」
「飲んでないよ。真面目、大真面目!」
「確かにいつも通りですね。」ふっと笑ってしまいながら、俺は頷いた。
「いいね、遼大。楽しい職場で。」
「キツイ日もあるけどね。」
「今日はイレギュラーだって。リョウタ、フォローしといてよ。」
「まあ、確かに今日は、来る筈の二人も来ませんでしたし。」
「ほんと、ヤバかったわー。二人共、ありがとさん!ほんとに助かり過ぎた。」
「プッ、助かり過ぎたって何ですか。」
「リョウタと二人だけだったらって考えると恐いだろー?」
「無理ですね。二人では完全に回せません。」
「だろー!」
「どうしてこんな状況に・・・・・・俺が来なかったら店長一人でしたよ?」
「マジでそれ。」
「俺以外に四人居る筈で、本当なら今日は五人態勢でしたよね?」
「ほんとにねー!何でだろうねー?」
「知りませんけど、明日は大丈夫なんですか?」
「わからないー!」
「店長。」
「俺、明日暇なので、手伝いに来ましょうか?」
「それは助かる!」
「ちょっと店長!優くん呼ぶなら正式に雇うとかしてからにして下さい!」
「じゃあ、採用!」
「ちょっと、店長!」
「手伝いでいいですから、明日も来ますよ。」
「マジで助かるー!ありがと、優!」
「はい。」
「ちょっと優くん、駄目だよ!俺が来るから。」
「やったー!働き手二人確保!」
「えー・・・・・・?」
店長が喜んで居る所、水を差すのが嫌だとそれ以上は言わなかった。
ただ、今夜急に四人も来なかった理由が偶然なんかじゃなく、何かあるんじゃないかと心配になった。