パラレルへようこそ
今回の話→シイ目線
遠退く意識。ぼんやりと霞む視界。
何も見えない。
そんな中妙に明瞭に、場違いなくらい明るい声が聞こえた。
「おめでとうございます。貴女はパラレルの住民『感情』へ認定されました。」
気がつけば痛みはなくなり、視界が開く。
目の前には二つの人形を連れた少年が立っていた。
その人形を見てぎょっとする。
人形は動いていた。
片方の人形は包丁を片手にこちらの様子を窺っている。
もう一つの人形は特に何も持っていない。興味津々といった感じでこちらを見ている。
少年は苦笑して言った。
「これのこと?そりゃあ初めて見た人は驚くか。これはボクの分身…というか本体かな。間違ってもこれを殴ったりしないようにね。」
「えぇっと…ここは?私、死んだんじゃないの?何か…色々とついていけないんだけど…。」
ああ、そうだ。と少年は言って説明する。
「ここはパラレル。人間界とは違う、異世界とでも言うべきかな。キミは『感情』としてここの住民になったんだよ。」
少年の言っている事が理解出来ず、首を傾げる。
「あ、今意味わかんないって思ったでしょ。まぁそうだよね。そう思うのも当たり前だよ。ま、とりあえずキミはここで生活するって事さ。キミの居場所となる空間はあそこ。」
少年が指差した場所を見る。
とても見覚えのある、私が通っていた駅が見えた。
「デフォルトは人間界と同じような構成になっているけど、自分の空間は自由にカスタマイズしていいからね。空間は自由にいじれるからね。」
あ、そうそう。と少年は言葉を繋げる。
「今日からキミの名前は『シイ』ついでにボクは『思想』のピヨ。宜しくね。」
うーん…いまいち状況が理解出来ない。
「まぁ、第二の人生とでも思っておきなよ。難しく考える必要は無いさ。キミは生まれ変わったようなものだからね。」
ピヨと名乗った少年はまた私の心の中を読んだかの様に言った。
「そうか、私は生まれ変わったのか………。」
暗くて地味な性格だった私。何だか環境が大幅に変わったみたいだからこれは自分を変えるチャンスではないのか?
「うーん。まぁ、君の説明の大半はわけわからなかったけどとりあえず…あそこで生活すればいいんだね?」
「せっかく頑張って説明したのに分かってくれなかったか。ま、その内慣れてくるでしょ。」
ピヨは苦笑して言った。
「あ、そうだった。キミの空間には人間界への入り口があるから結界張っといて。」
「結界…どうやって張るの?」
聞いてみたけど、直ぐに自分に結界を作る力がある事に気づいた。
「キミの力についてはキミが一番知っている筈。色々力が使えるようになったでしょ?」
意識を足元に向ける。すると足元からはまるで状況が理解出来なくてもやもやした気持ちを表したかの様な雲が出てきた。
どうやら私は予知以外にも変な能力を手に入れてしまったようだ。
「それじゃあまたキミの空間に遊びに来るよ。キミも新たな人生のスタートだと思ってこのパラレルをエンジョイしなね。」
ピヨはそう言って去って行った。
(新たな人生か………。)
明るい人になりたいな。明るい人って言ったら…。
(やっぱボクっ娘だよね!!)
なんかよく分からないままだけど新たな人生としてとりあえず自分自身のカスタマイズをしてから空間のカスタマイズしよう。
そうしよう。
こうして『私』ではない『ボク』としての新しい、パラレルでの生活が始まった。