プロローグ
おめでとうございます。
貴女はパラレルの住民『感情』に認定されました。
―予知をした。
私が死ぬ未来を。
泣いている。
私が、私の愛する人が、血塗れになって泣いている。
未来は変えられない。
今まで予知してきたものもそうだった。
いつのこと?そこまでは分からない。
でも私は老いていなかった。きっと近い未来。
いつも通り彼がやって来る。
相変わらずの無愛想な態度。
「あのね。」
どうした?と彼は首を傾げた。
「………なんでもない。」
言えなかった。私が死ぬなんて。
別れを告げようか。それなら苦しみも減るだろうか。
でも分からない。
私がいつ死ぬのかは分からない。
彼と別れたくない。愛しているから。彼が悲しむから。
「………………。」
見上げた空は紅く、足元には黒い猫がこちらを見ていた。
私は死が近いことを悟る。
「じゃあね。」
そう言って私はそっと彼から離れた。
また明日とは言えなかった。
多分私に明日は無いから。
「待って。」
彼は言った。
私は耳を塞ぐようにイヤホンをつけ、大音量で音を流した。彼の声を聞きたくなかった。
彼の声を聞くと寂しくなってしまう。
私は歩いた。
何処へ向かうでもなくただ、歩いた。
予知した通り、それはやって来た。
腹部に鋭い痛みを覚える。通り魔だ。
通り魔は何度も何度も私を刺した。
「―!!」
彼が走ってくる音が聞こえる。イヤホンは外れていた。
朦朧とした意識の中で彼の声が聞こえる。
―××を××して。
私は手元に転がってきたカッターナイフを振りかぶった。