【幸福】
青い空、白い雲
いくつもの命が散った『大陸』 そこで仕事を始めてどれ程だろう
傭兵を始めて数年、想いを伝えてから一年弱、大陸から離れて数ヶ月、大陸に名前が付いてから数日
今日は、ミシェル・レイクと死神にとって良い一日となるだろう
「ふう、キツいぜ・・・ネクタイ緩めてもいいか?」
「親愛なる友人二人の大事な日の雰囲気をぶっ壊したいなら構わんが」
「お前の方がキツいぜ」
最初に現れたのは正装の男二人 体はがっちりとしていて、手のひらはタコだらけ
片方は明るいが、もう片方は知性的な印象を感じさせた
「わあ!サラのドレスかわいいわね!」
「セーナのもせくすぃーだよぉ~」
二人の男の後ろから甲高い声が鳴り響いてきた 若い女二人組のそれは、男二人が危惧していた『雰囲気破壊』を見事にやってしまっていた
モデル体型と幼女のような体つき 対照的な二人組だが仲はとてもいいらしく、手を取り合ってはしゃいでいる
「こういうイベントってのはもうなかなか立ち会ってねえもんだ 俺のバカ息子の時以来ってとこか」
「あら、アンタ子供いたの?意外ね」
「嫁も健在、悪くねえ家庭だよ」
同じように正装の二人組がもう一組訪れた 初老の男性と、快活な女性である
二人とも大理石の床の上で静かに並んでいる
とても静かに、他の連中とは違うアピールを続けている
「・・・っと、煙草はだめだったか」
初老の男性は胸ポケットから手を抜き苦笑いする それを冷えた流し目で睨み付けると女性は口を開いた
「私達、ここまで運ぶのにケッコー苦労したよねぇ」
運ぶ、とは物理的な意味ではない 例えば、物事を運ぶという活用例がある
彼女はそれを指している
「ああ、まあ・・・結果オーライだろ」
「その通りね~、素晴らしいわ」
何組かが談笑しながら教会へと歩いていくのを目撃し、駐車場にたった今たどり着いた青年が慌てる
「始まっちまう!」
ハンディカメラ片手に車を飛び降りたアレックス・ジョンソンは、すぐさま車のキーを操作した
すると、車の後部のドアがゆったり開き、車椅子をそこから降ろした
「メアリさん、行きますよ」
「支度が遅れるから私を置いていっても良かったのに、全く」
そう言いながら、満更でもない表情のメアリは、車椅子の上からアレックスに言った
「間に合わせろ!アレックスッ!」
「了解です!」
そよ風が囁き、色とりどりの花が笑顔を振り撒くなか、純白の建物が来客を出迎えてくれていた
白い、ただひたすら白い
ウェディングドレスとはここまで純白だったのかと、ミシェルは赤面する
お化粧も、服装も、普段庶民的な暮らしをしてきた彼女からすれば二段三段上のものばかり 慣れないのも無理はない
しかし、その不馴れ感が、今は心地よくあった
「うん、よし、さて」
短いことばを三つ これで自らの中の緊張を解してしまう
オペレーターとは比べ物にならないくらい大変だ これなら戦場にいるのも楽かもしれない でも、幸せだ
これが、幸せだ
今までこの日をどれ程待ちわびたか
想い 想いが無駄じゃなかった
そのとき、新婦が登場する合図の鐘が鳴った
「あれ?」
ミシェルは間抜けた声を出してしまった
「これ、お葬式の・・・」
そう、この幸せまっしぐらな大イベントで、結婚式の鐘を葬式の鐘と打ち間違えられていたのだ
不吉なことこの上ない
にわかに教会の雰囲気がざわつく
「・・・こっちの方が『らしい』ね」
ドアが開き、ステンドグラス輝く大聖堂に一人の女が招き入れられる
このアクシデントも気にせず、むしろ上機嫌な足取りだった
その向こうには、タキシード
タキシードなのに黒いフルフェイスを被っているが、間違いない あのひとが・・・
「・・・ありがとう」
死神を見付けたとき、ミシェルはそう呟いた
ヘルメットが微かに頷いた
「では、誓いのキスを」
神父の厳かな声が、二人の耳に入ってきた
迷わず二人は、
愛を重ねた
大陸がたとえどんな姿になっても、誰か一人が幸せになっても、たいして変わらない
全てが丸く収まっただなんて、そんな風には考えない あの争乱で不幸になった人も、これから不幸になる人も、死んだ人もいるのだから
しかしこう考えよう
世界平和などどうでもいいから
自分の意見を世界に押し付けるなど不可能だから
この小さい視点だけで、精一杯幸せになりたい
ミシェルはそう思う
たとえ慕うひとが、死を呼ぶ神みたいな人でも関係ない
「私は今幸せです」
そう、心から言えるなら、いい
戦場駆動
(…fin
足音が響いていた
懐中電灯の光のみが闇を食い破る中、その場所に一人の男が入ってきた
その場所は正常な人間ならまず入ろうとしない場所だった 何故なら兵器が置いてあるから
しかもその兵器が尋常ではなかった
男は懐中電灯の先端を右に向ける 光は、何か巨大なものの一端を照らす
光は這うように上へ登った そして、その機体の顔相に反射された
赤い、血のような赤
そこには闇に溶け込む黒いボディと血のような暗い赤のヘッドをした、禍々しい金属の巨像が屹立していた
それを見た男は、踵を返して去っていった 辺りが一気に暗くなる
足音が響いていた
その瞬間、タナトスの瞳が、刹那だけ輝いた




