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62話 最終話

 右足が素足のまま森を移動している。

 俺の後ろの木は轟々と燃え、これは自分が起こしてしまったのだと実感し軽く自己嫌悪に陥っていた。


 マリシア達の元に戻ろうとしていると、『索敵』に3人の反応があった。

 あっちも俺に気付いて合流した。


 「おっ、勝ったみたいだな」


 ノールがいち早く反応してきた。


 「ボスもな、ずいぶん派手にやったみたいだけど」


 ノールが俺の後ろを覗いて森の惨状を告げてきた。

 今だ鎮火する目途が見えていない。というより、誰も消火していない。


 「なに?あそこまでする必要があったの?」


 アイビスも環境破壊をした俺を責めてくる。あれどうする?誰か消せる?


 「……俺と同じ奴が居てな。右脚吹っ飛んだわ」


 「「「……」」」


 クラウンも俺に何か暴言を吐こうとしていたが、素足になった俺の脚を見て閉口してしまった。

 それでも言葉を発するのは流石だ。


 「てめぇ、人間なのか?なんで脚が生えるんだ」


 ノールもアイビスも同様の思いをしている。

 トカゲじゃないんだから。


 「『生命力』だよ。言ってあるだろ」


 「お前の事なんてどうでもいいわ。……それよりアイビス大丈夫か!?殴られてるじゃないか!!

 どいつだ!?どいつがやった!?俺が殺してやる!」


 暴走する兄貴は妹に任せて先を急ぐことにする。

 騒いでいるシスコンに声をかけて移動した。


 

 まだ後ろでギャーギャー騒がしいが、視界の先に数人人がいるのが見えた。

 そこでようやく静かになり、最後の一人から遠回りして全員と無事合流した。


 アイラとシズクがノールとアイビスに駆け寄って、無事を祝っている。

 マリシアとゾイグさんが近づいてきて、状況を説明しようとした。


 「それで、あいつは?」


 「ん~、それが名前しか喋ってくれなかったんだ。確かにシズクちゃんの未来は会話だったけど、これだけ?、みないな感じだったよ~」


 ゾイグさんが追加補足をしてくれた。


 「名はゼーロだそうだ。お前たちが合流してくるのを待ちたいと」


 「何だそりゃ?仲間が殺られる前提?」


 そこでまで説明されたところで、ゼーロという青年とはいかないが、ある程度の歳をとった人物が口を開いた。


 「揃ったみたいだね。じゃ、約束通り喋ろうか。……その前に殺さないでくれてありがとう」


 確かに。マリシアだったら何も情報が得られないなら、即刻殺してもおかしくなかった。


 「まぁね。シズクちゃんの未来は絶対だ。喋るだけというなら喋る。手は出さないよ。

 そっちが何かしようとしても、こっちにはアイラちゃんがいる。何しても無駄さ」


 アイラはすでに矢をあらかた回収している。

 こいつらが来る前にそれが出来ていれば、労せずにウーノだって殺せたのに。

 未来が絶対だとは言え、何か釈然としない。


 ゼーロはうんうんと首を振って納得しているみたいだ。あんま緊張感無いな、コイツ。

 状況分かってんのか?この後絶対殺されるぞ。


 「じゃあ、自己紹介だ。私はゼーロ。『照魔鏡』のリーダーだ」


 にっこりと笑いながら爆弾発言を投下する。

 リーダーが前線に出てきて、敵地のど真ん中に一人でいるだと?

 何がしたいんだ。


 マリシアが怒りを必死に抑えてゼーロに話の続きを促す。


 「そうだね。何て言えばいいのか。あれだ。凄いね、君たち。あの4人全員倒しちゃうなんて。 

 結構強かったと思うんだけど。特に、ウーノが負けるなんて思ってなかったよ」


 全員俺の方を向いて言葉を求めてくる。


 「……『強奪』だろ?悪いな。俺も同じスキルだ。それにあいつアホだしな」


 「あはは、そうなんだ。それだったら納得だよ。じゃ、君がネクロだ」


 「……!何で分かる」


 「そりゃね、調べるよ。とっても苦労したさ。どこ調べてもスキルなんて無いか、『剣術』持ちくらいの情報しかないんだ。

 でも、家にはウーノがいたからね。あらかた予想出来たんだ。

 これはネクロと言う青年はウーノと同系統のスキルをもって『天』を倒した、とね」


 「それを教えなかったのか?」


 「何であんな屑共に貴重な情報を上げなきゃいけないんだ。あいつらは死んで当然さ。ま、私もだけど」


 仲間のクズ発言で何がしたいのか分からなくなってきた。

 満面の笑みで自分を、仲間を貶める。


 マリシアが耐え切れなくなってイラついた声を上げた。


 「要領を得んな。それでお前は何しに来た?後で殺すのは確定だ。それが私の目的だからな」


 「おっ、いいね。私の目的と合致してるよ」


 マリシアは怪訝な顔をして再度質問をする。


 「……どういう意味だ?」


 ゼーロは優しい笑みを浮かべて、こう言った。


 「私を殺して欲しい」


 これには一同困惑の声を上げる他無かった。

 一瞬静寂が訪れ、森がパチパチと燃える音が聞こえる。

 早く消えないかな?何もしなくてもいいのかな?

 いや、そんな事では無く。どうでもいい訳では無いけどさ。


 ようやくマリシアだけが口を開く事ができた。


 「……どういう事だ?」


 「復讐だよ。この社会に対するね」


 そこからはゼーロは語った。


 「私は元々奴隷でね。それも貴族のさ。あいつらは本当に糞だ。糞だよ。糞。分かる?

 平気で王国法なんて破る。奴隷なんて余裕で15歳未満を何人も囲ってるんだ」


 「……そうなのか?」


 勝手に口が開いてしまったが、良く考えればそうだ。

 アイビスだって下手したら4歳から奴隷だ。


 「私は運が良くて契約者が死んだから解放されたが、それでも必死に命からがら逃げたに等しい。

 そんな情報を持つ私を野にさらす事なんて自分の首を絞めるようなものだ」


 確かに。


 「逃げ回った。それは必死に。でも、追いかけるという痕跡を貴族は残さない。

 『警邏隊』の詰め所には貴族関係者が目を光らせて俺の侵入を拒んでいた。」


 そこで一呼吸おいてまた喋り始める。


 「奴らは狡猾だった。自分たちは全く痕跡を残さず、他人を利用して保身に走る姿。

 憎い、とても憎かったよ。私にも力があればと思ったさ」


 でも、と一言置いて声高に言う。


 「でもね、私には力が無く、奴らには『譲渡』がある!これは何だ!

 貴族などという訳の分からない称号を持つだけで、何の努力も必要なく『力』が手に入るんだ。

 おかしくないか?お前たちは何もしていないはずだ。何も偉くない。ただそこに生まれただけだ」


 少し冷静さを取り戻して、大きく深呼吸をした。


 「ま、それでもね。何もできないわけさ。凄い悔しかったよ。私にも貴族のように人を自由に動かす力があればって。それはもう、死ぬほどね(・・・・・)


 そこでこれがコイツの本性なのかと言うほどの強烈な笑みを浮かべる。

 まぁ、それはいいが。この流れは。

 

 「その時だ!私の中で何かが変わった。調べたよ。そしてわかった」


 一拍おいて恐ろしい言葉を発する。


 「『眷顧隷属』」


 やはり、スキルが発現したな。死ぬような思いをしたのか。死に目に会ってないのにスキルが発現するほど悔しかったのか。

 良く考えれば隣にいるマリシアの『覚醒』発現の事は聞いていない。

 こいつにだって、何か理由があって『覚醒』が発現したんだよな。

 俺の『スナッチ』然り。 


 「何だそれは?」


 マリシアが問い返す。


 「俗にいう眷属と言う意味だ。私は契約に同意した人間の身体能力を著しく向上させることができる」


 なるほど。それでウーノの力はあれほど強かったのか。

 戦った3人も何かしら思う所があるような顔をしている。


 だが、重要なのは。


 「契約というのは?」


 疑問に思った事をゼーロに問う。


 「良い所に気が付くね。そう、このスキルの肝はこの契約部分だ。

 力を向上させる事を餌にしたらね、クソ共がウジャウジャ寄ってきた。

 契約自体は人それぞれだ。重ければ重いほど力は向上する。

 そして、俺は他人を契約の元に支配する。『照魔鏡』の完成だ」 


 マリシアがまた言葉を口にした。


 「……なぜそこで『照魔鏡』になる?」


 「私はね、この力が手に入った時一つの計画を思いついたんだ。

 それには多くの人間が必要だったし、獣人も必要だった」


 獣人が必要という言葉を聞いて、マリシアの顔がゆがむ。


 「ある程度人間が集まったら、怪しまれない程度に15歳未満の獣人を誘拐した。

 そこで私は子供の獣人たちと契約して、貴族の元に送り込んだ。

 そこの3人の顔も覚えているよ。そっちは覚えていないだろうけど。

 黒猫ちゃんは大分成長したみたいだ。嬉しいよ」


 ノール、アイラ、アイビスの顔が驚いて、必死に思い出そうとしている。


 「無理だよ。契約で俺の事は覚えていないようにしてあるんだ」


 ノールがあっそ、ともうどうでも良くなったみたいだ。

 アイラとアイビスはまだ思い出そうとしている。


 「……という事は」


 ゾイグさんがここで初めて口を開いた。

 いや、静かに聞いてくれてただけ。それに体も痛いだろうし。


 「ええ。他の獣人の子たちも同じです。契約して今か今かと契約が発動するのを待っています」


 「……身体能力を向上させてないのか?」


 『眷顧隷属』の能力をフルに活用していない。

 何が目的だ?


 「条件を重くしてるんだ。その時になって色々契約は履行される」


 「……契約の内容は?」


 マリシアが切り込んでくる。ここが重要だろう。

 何人の獣人たちが契約されているのか……。


 「まずは僕の事を忘れる。ばれたら面倒だからね。

 あとは計画が終わったら嫌な事は全て忘れるようにしてあるよ。せめてもの罪滅ぼしだ」


 「……そうか」


 マリシアは少しだけだがホッとしたようだ。

 それでも許されるような事では無い。


 「そして、ある条件を満たした時に一斉に『眷顧隷属』の能力が爆発する」


 そうか。


 「お前が死ぬ事だな」


 「その通り。正確には他人の手で、ていうところが重要だ。自殺じゃ意味が無い」


 付け加えて奴隷解放されていたらその限りではないと。

 ノール、アイラ、アイビスは能力の範囲外。

 しかしそんな奴は他にいないらしい。全て把握しているそうだ。


 「で?お前を殺したら獣人達はどうなる?」


 「私の命という最大の重い制約の元、身体能力が爆発的に向上する。

 獣人というアドバンテージに加え、『眷顧隷属』の向上で『スキル持ち』すら凌駕するはずだ」


 「それで何をする気だ?」


 唇が吊り上がってようやく話の終わりが近づいてきたと実感する。


 「全員が最寄りの『警邏隊』詰め所に飛び込む。この意味を理解してほしい」


 『警邏隊』は王国の自治組織。主に前線を引退した義勇兵が務める。

 昔は騎士団が自治もしていたが、貴族たちが横暴な事をしまくり国民の反感を買いこの組織が生まれた。

 『警邏隊』には貴族関係者が所属することが許されず、完全に独立していると言っていい。

 しかしこれだけでは『警邏隊』団員と貴族が癒着しそうだがそうはならない。

 『契約』持ちが所属するに当たり、団員に厳しい契約を課す。

 この『契約』により、庶民から貴族、果ては王まで処罰する権限を得る。

 絶対公平。

 誰であろうと罰する。

 権力・利権とは無縁の組織である。

 そしてこの組織に15歳未満の獣人の奴隷が同時多発的に殺到する。

 これなら……。


 「貴族が軒並み『断罪』される?」


 「その通り。それに加えて貴族社会すら疑問の対象になるんじゃないかな?」


 制度を決める側の貴族たちが率先して破っている。

 一人くらいならそいつを『断罪』して腕の1本を弾いた後、牢獄にぶち込めばいい。

 しかし大人数。しかも同時に。

 不満と怒りと不信感。

 王と貴族はどうなる?

 人の人生を狂わせた罪とは?

 人権とは?

 貴族社会。血統主義。

 この意味なんて……。


 「……なるほどな」


 マリシアが一人納得した後、続けた。


 「それなら、私にとっては貴族も敵だ。

 お前のした事は許されるとは思わないが、覚悟だけは認めよう」


 ゼーロは驚いた顔をして、下を向いた。

 声を震わせ返答する。


 「……そう」


 小さく「ありがとう」、と呟いて顔を上げた。


 「それじゃ、殺してくれないかな?」


 と、言ったらシズクの体が跳ね上がった。

 ウンザリしてシズクの方を向く。


 「……晩飯何だった?」


 「ちょっ!違うッスよ!誰か来るッス!ネク兄ぃとそこの人が追っかけられてるッす!」


 ゼーロに視線を変えて無言で責める。


 「違う。もう『照魔鏡』の構成員はいない。これは―――」


 そうか。来てしまったか。やっちまったなぁ。


 「「貴族だ」」



 やはりそう思うか。


 「同意見のようだね。ネクロ君。何かやった?」


 「ああ、少しばかり貴族からスキルを奪った。それに2人ぶっ殺した」


 キョトンとしてそれから笑い始めた。


 「あははははは!!そりゃヤバいね!」


 「同感だ」


 俺も笑ってしまい、変な空気が出来上がるがこうしてはいられない。

 困っているシズクに質問する。


 「それでいつ来るんだ?」


 「ボス、もう来てるぜ」


 こりゃ本格的にヤバいな。寂しくなるな。


 「分かった。お前ら世話になったな。またどこかで会おう。おい、ゼーロ」


 「いいよ」


 後ろからかかる静止の声を振り切って、ゼーロを背負って駆け出した。

 くそ。泣きそうだ。





 大分走った。後ろからは誰も来てないな。

 さすがに疲れて休憩中だ。

 ゼーロから声がかかった。


 「良かったのかい?」


 「しょうがないだろ。あいつらが狙うのが俺達なら巻き込む必要はない。

 未来が追いかけられているなら、そろそろ来るな。実際近くにいたみたいだしな」


 「うん、いるね。めっちゃ近いと思うよ」


 「なに!?」


 『付与魔法』(ブースト・ソナー)


 『索敵』が俺を中心に波紋のように広がる。

 

 くっそ!いやがる。距離にして100m。

 数が20!?


 「やばい。居るぞ。どうする?」


 「いや、何もしなくていいんじゃない?」


 「ハア!?」


 「だって私は死にたい訳だし」


 「ふざけろ!俺が死ぬわ!」

 

 こうしている間にも少しずつ近づいてきている。

 くそ。『索敵』と『広域』を持ってる奴が居る。

 完璧に把握された動きをしてやがる。


 「……しょうがないなぁ。契約しようか」


 「……どういう事だ」


 「この状況を切り抜けるための力をあげるよ。『眷顧隷属』はそういう能力だ。

 契約内容は「私を殺す」、でどうだい?」


 ふざけた事言いやがる。

 

 「乗った」


 「『眷顧隷属』」


 体中から力が漲り、『強化』以上の能力を感じる。

 これなら行けるかも。


 「じゃ、頑張ってね。私を殺してよ」


 「殺してやるから待ってろ」


 もうすぐそこだ。黙って殺されてたまるか。

 最初に『索敵』持ちを排除だ。これで『隠密』と『隠蔽』が効果を発揮できる。


 『付与魔法』(キーン・エッジ)


 剣と投擲用ナイフにかけて全てを貫通するナイフが完成する。

 

 木陰から飛び出し、30m先の集団が目に入る。


 『解析』!


 いた!後方にいる。あいつさえ殺せば……!


 『強化』『剛腕』全開!!からの『誘導』!


 「オラァ!!」


 『眷顧隷属』の身体能力の向上も合わさって、一本の光が『索敵』持ちの頭に吸い込まれた。

 人形の糸が切れたように力が入らなくなって、絶命した。


 「「「なっ!??」」」


 犯罪者の反撃に騎士達に動揺が走った。


 俺は動く。いつもより早く。疾く速く。


 「うおおおおおぉぉおお!!」


 敵中央に突撃して、魔法を使わせないようにする。

 ここで俺に撃てば味方同士で相打ちだ。


 俺の剣技は冴えわたっている。

 いつもより。速い。

 振り下ろし、切り上げ、回転切り、突き、払い、薙ぎ、抉り、俺を止めれる奴なんかいない。

 殺す。蹂躙していく。命を奪いに来たやつらを。


 「クソオオオ!!」


 一人の騎士が後ろから襲い掛かってきた。


 「それでも騎士か!?」


 『体術』!!!!


 後ろ回し蹴りが相手の顔面を捉え、首を一回転させた。

 脚に何かが折れる感触が響き、さすがに気持ち悪い。死んだ。知った事か。


 ここで1分。キーン・エッジが切れる。9人殺害。残り11人。


 全速力で距離をとって、退避する。


 あっちから声がかかってきた。


 「貴様ぁ!!何をしているのか分かっているのか!?」


 「あぁ!?知らんわ!!」


 「ネクロだな!付いてきてもらうぞ!ゼーロはどこだ!?」


 馬鹿なのか?行く訳ねーだろが。

 どっちが上かも分かって無いみたいだな。


 「馬鹿だろ!何で付いていくんだ!?」


 「貴様らにはとある嫌疑がかかっている。我らについてきて貰おう。それでなくても貴様は今9人も殺害した。」


 アホか。じゃあなんでお前らが出張ってきたんだ。


 「何で騎士団についていくんだ。『警邏隊』連れてこい!それだったら付いて行ってやるよ!

 できねーだろ馬鹿が!お前らがやっている事が万が一にでも明るみに出れば困るのはお前らだからな!!」


 「ぐぬぅ……!」


 「ぐぬぅ……!、じゃねーだろ!屑が!もう死ね!」


 『付与魔法』(キーン・エッジ)

 『付与魔法』(ブースト・ボイス)

 『付与魔法』(フィジカル・アップ)


 フル装備だ。輝いていない場所なんて無い。

 これで殺す。


 「ガアアアアアアァッァァァァアアアアアアアア!!!!」


 空気振動が騎士団を襲い、完璧な威嚇が成功した。

 さらにフィジカル・アップで強化した肉体はもはや自分の物ではないようだ。


 動く。


 刎ねた。


 首を斬られた騎士は何が起こったのか分からなかっただろう。

 周りも同様。

 『スキル持ち』が複数いる状況でも、もはや今のネクロには敵わなくなっていた。


 斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬り倒す。


 華麗に森の中を舞い続け、斬り続ける。

 光る人間がただ突っ立てるだけの人間を殺し、最後の一人を残して全滅させた。


 『付与魔法』の効果が切れ、残った一人の人間を見下ろす。


 「わ、私の『剣術』、返してよ!!」


 「はあ?」


 誰だ?覚えがない。見た事ある気もするし、そうでないような気もする。

 たぶんその昔の大昔に『剣術』を奪った一人の女性なのだろうが、誰だっけ?


 「はっ!生きてたんだ。一応騎士になったんだね。スキルでも『譲渡』してもらったのかな?」


 「何を白々と……!私がどんな目に会ったか……!」


 「知るかよ。お前ら貴族なんて本当に嫌いだったんだ。ゼーロの奴も良い働きだ。

 貴族社会も終わるな。ま、死んでよ。告げ口されたら困るんだ。

 俺はね、あいつらの前だったらこんな事しないよ。ホントさ。嫌われたくないからね。優しいな俺は。

 慈愛に満ちている。ああ、どうしよう。見逃してあげようか?でも困ったな……」


 「何を言ってる!?ここには他にもお前の被害者がいるんだ!!お前だけのうのうと……!!」


 ん?だからか。さっきから殺したやつらに見覚えのある奴らがいた。

 それなりの抵抗をしていたから、スキルがあるんだろ?

 楽だね。ホント。ゼーロの言いたい事も分かるよ。不条理だ。これで腐りきってるんだから救いようがない。


 俺もか。糞だ。


 やっぱやめた。鬱陶しい。昔の事がフラッシュバックしてくる。

 見てるだけでイラつく。


 「やっぱり死ね」


 その女は二度と口を開かなかった。


 



 全ての死体を燃やしてゼーロの元に戻った。


 「すごいね。皆殺しだ」


 「うるさい。俺だってやりたくてやったわけじゃない。あいつらが俺達に害意を示していたから、追い払っただけだ」


 ゼーロは惨状を少しだけ見たが、それ以上の感想は無いみたいだ。


 「そうだね。じゃあ、契約を履行して貰おうか」


 「どうする。一発で消し飛ぶか?」


 「その前にお金あげるよ。今はあそこに戻れないでしょ。移動費にどうぞ」


 無駄に気が利くな。


 「お言葉に甘えて」


 ゼーロの手から少しだが金を受け取る。

 これが全財産か。


 「一発で頼むよ。派手に頼む」


 「了解、ボス」


 面白いような顔をして、ゼーロから距離をとった。


 「残す言葉はあるか?」


 「ごめんね、って言っといてくれないかな」


 「……会う奴にはそう言っておこう」


 「頼むよ」


 「じゃあな」


 「地獄で会おう」


 確かに、俺は地獄行きだ。


 今日二度目の特大の音と、大火事が発生した。






 あれから2年以上経っている。

 ゼーロを殺した後、実家に向かっていたが王国内は大パニックだった。


 ほぼ全ての貴族から奴隷が脱走し、それも15歳未満が多かった。

 それ以上もいたが、15歳未満で奴隷になった者が全てだった。


 さらに言うなら王からも奴隷が出た。

 酷い。クズ野郎だ。死ね。


 これで国民の怒りは大爆発した。

 

 止める者などおらず大バッシング。 

 『警邏隊』が貴族や王族に乗り込んで『断罪』。

 ほぼ全てが四肢欠損という結果になり、『阻害』持ちが治療をさせないようにした。

 さらに無期懲役。死刑でないだけマシだが、長く苦しめという意味合いが大きい。


 王と貴族の不信感から、国民は自分たちで政治を行う事を決心し、暫定政府を設立した後、民主主義となった。


 奴隷制度も全面的に見直され、特権階級などというモノは事実上なくなった。


 保護された奴隷たちは『警邏隊』が責任をもって護送して、獣人たちの地域に送り届けた。



 さて、俺はと言えば頑張って家に帰った。

 一人で迷宮に行ったりもして、お金を稼いだりして何とか帰還。


 正直、騎士を殺しまくったのでヤバいのではないかと思ったが、街の中はそんな雰囲気ではなく堂々と帰った。

 両親はアイラやアイビスが居ない事に不満げだったが、本人たちも国内事情が変わったためてんてこ舞いだった。


 何もすることが無いので、取り敢えず今までは家の手伝いをして、ご飯を食べさせてもらっていた。


 突然話は変わる。いや、変わらないんだけど。


 『スナッチ』はとても強いスキルだ。騎士20人に囲まれても全滅させた。強すぎる。

 これだけのスキルが今までほぼノーリスクで使えていた。


 まぁ、失敗したり体がフラフラする程度はあったが、いやこれでいいの?くらいの使い勝手の良さだ。

 無敵。そう思っていた。


 「そんな時期もあったなぁ……」


 俺は町の中をとりとめもなく歩いている。

 日は傾いて、情勢もようやく落ち着いて活気もまだある。

 そんな中をぶらぶら。一応今日の手伝いは終わっている。


 家の仕事自体は1年前には落ち着いて俺の手伝いなんて要らない。

 じゃあ、迷宮でも行こうかとした時には遅かった。



 スキルがすべて消えた。



 『スナッチ』最大の弱点。

 獲得から1年しかスキルを保持できない。

 日に日に減っていくスキルに戦々恐々としていた。

 最後に『隠蔽』が消えた時には、本当に絶望した。


 俺が今までした事は何だったのか?


 仕方がないとは言わないが、それでも人を殺した。

 その結晶、努力、意味がすべて消えた。


 人を殺した意味が消失した。

 何ら意味が無い。あの女性は何のために俺に殺されたのか?


 消えたスキルはどうなるのか?もしかしたら本人の元に戻るのか?


 今となっては誰も分からない。


 とはいえ、すでにそれは割り切っている。

 曲がりなりにも俺を殺そうとしていた。抵抗しなければ殺されていたのは俺だ。

 正当防衛。そう思い込むようにしている。


 「……これからどうしよう」


 そうなのだ。

 これ以上ここに居ても邪魔にしかならない。


 学校に戻ろうとしても、スキルの無い俺には危険だ。

 『剣術』があれば。『スナッチ』だけじゃ、厳しい。


 迷宮に行って何かから奪うか?

 でもスキルが何かわからない状態で戦うのは怖い。


 ノール、アイラ、アイビスが居れば、と考えてしまう。

 あの3人が居れば何とかなる。

 『スキル持ち』が出てきても、瀕死に追い込んでスキルを奪えるのに……。


 そんな事を考えていると、もう家の前に着いてしまった。


 中を開ければ賑やかな声が聞こえる。

 母さんの友達でも来てたのか?珍しい事じゃない。


 挨拶でもしてくか。


 リビングに移動して部屋を覗いて呼吸が止まりそうになった。

 

 大きくなった一人の狼の少年がこちらを振り向く。


 「おっ!帰ってきたな、ボス。弱くなったんだって?しょうがないから手伝ってやるよ」


 立派に成長した獣人たちの至宝もこっちを見る。美しい。


 「お兄ちゃん!久しぶり!帰ろっか!」


 凛々しくなった黒猫も無愛想な表情で俺の顔を見る。


 「あなたがどうしてもって言うなら手伝っても良いわよ」


 憎たらしい顔をした狐も居やがる。


 「うししししし、感動しちゃったすか?『未来視』は絶対っすからね!」


 


 少しの間黙っていたが、時は動き出す。



 「ああ、助けてくれ」


 

twitterのアカウント作りました。

よろしくです。


http://twitter.com/tempester08

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