5話
パレス決戦が始まって少し時間がたった後、ネクロはようやく目を覚ましていた。
嘘!?何時?どれくらい寝てた!?と、意識が戻り、周りを見渡すと暗くなっていた。遠くから戦いの音が聞こえ、まだ戦っているのかと思ったと同時に、視界の先50mほどに子供のようなシルエットが見える。
なんで学校の敷地内にいるんだ?とも思ったが、状況も状況なので子供に近づいて行った。
「おーい!なんでこんな所にいるんだ?あぶな…いぞ…」
身長は目算で130㎝、ここまでならただの子供だ。ただ、肌が緑色だ。ゴブリン?うそ、なんで。
武器がない。スキルがない。レベルもない。
死ぬ
「うわああああぁああ!!」
「ガアアアアァアア!!」
追ってきてる!?なんでこっちくるんだよ!!
ネクロは元来た道を爆走して、逃走を開始した。普段からは知っててよかった、とかどうでもいいことを考える余裕はない。視界に入ったのも偶々だろう。
青年ネクロの成り上がりの始まりである。
木刀だ!サウロが持ってきてたやつだな!?
勝てる!
そう確信したネクロを誰も責めることはできない。10レベルあれば倒せるゴブリンに対して、木刀が手に入ったのだから。
木刀を拾い、体をゴブリンに向けて迎え撃つ体制に入った。
「行くぞ、ゴブリン!」
「ガアア!」
相手は徒手空拳だ、対してこっちは武器を持っている。素振りもしてきた、レベルは13ある。
相手が不用心にも攻撃範囲に入ってきた。頭を砕くため、上段の構えから一気に振り下ろす。
いった!!
そうネクロは思った。しかし、現実は無情である。
ゴブリンは左手を盾にして、右拳を引いている。立ち止まるネクロに対し、動き続けるゴブリン。
どっちが優勢かは明らかである。
「ギャラアァ!」
「…ッ!」
とっさに木刀を盾にしたネクロであったが、さらに衝撃がネクロに襲い掛かる。
一撃で木刀が折れた!!馬鹿な!
ゴブリンの適正は10だろ!?それがたったの一撃で木刀を折れるわけがない!
過去の演習で、ネクロはゴブリンと戦闘をしていたことがあるが、ここまで強いゴブリンは初めて見た。
上位種のゴブリンかとも考えたが、装備が明らかにボロい。下位だ。確実に。
ここで、2度目の衝撃がネクロを襲う。殴られたわけではない。気づいてしまった。
「まさか、『スキル持ち』?」
絶望である。今日この日まで、ネクロが見下されていたのは、スキルがないからである。『スキル持ち』と『スキル無し』では、天と地ほどの差があり、絶対に勝てないと言われている。だからこそ、ネクロはサウロ達に反抗せず、今日この日まで生きてこれたのだから。
逃げるしかない。背中を向けて走り出したが、あっという間にゴブリンが回り込んできた。
完全に遊ばれている。後ろから殴り掛かれば何もできずに死んでいたのに。
木刀で殴った左腕も全く問題がないように見える。ネクロにアドバンテージがない。
死ぬ、本当に死んでしまう、何か何かないのか!?
ネクロは腰を落として、ゴブリンに見えないように後ろに手を回して、砂をつかんだ。ゴブリンは動かない。
完全に油断しているな、倒すのではなく、逃げることに集中する!校門側をゴブリンが立ち塞いでいるが、突撃して砂を顔面にぶちまけて逃げ切る!
決まれば早い。ネクロはゴブリンに突撃した。ゴブリンは驚いたような顔をしている。
馬鹿め!誰が背を向けて走るか!さっきので経験済みだ!
ネクロが砂を投げつけようとした瞬間、ゴブリンが消えた。
「は?」
つい間抜けな声を上げてしまったが、次の瞬間には宙に浮いていた。
今までに味わったことのない衝撃を、腹に受けたことだけは分かった。
まったく声が出ない。背中を打ち付け空気が出てしまったこともあるが、痛みに驚愕していたことが大きい。
ゴブリンがゆっくりこちらに歩いてくる。攻撃された場所から5mは吹き飛んでいたのか。
逃げたい、死にたくない、必死に逃げようとするが恐怖で体が動かない。
ゴブリンが足を頭に乗せて、何度も踏みつけてくる。
ああ、いつも通りだ。3人組に蹴られ殴られ、それがゴブリンに変わっただけ。
こんな訳のわからない殺され方をするのか?俺は?義勇兵は?騎士団は?死んだら……終わり?
「いやだ……!」
ゴブリンの足をつかんで見上げる。やつの顔を!目を!
「その力があれば、俺だってお前を殺せるんだ!!調子にブッ!」
ゴブリンが再度踏みつけてきた。けど、おかしい。あまり痛くない。さっきより手加減した?
ゴブリンを見ると、なぜか慌てているように見える。
なんで?お前が優勢じゃないか。いつでも俺を殺せるのに。
もういい。なんでもいい!!奴は今足をどけている。今がチャンスだ。突き飛ばして逃げてやる。
「オオオオォ!!」
「!!!」
よし、突き飛ばした。逃げてや痛えええええええええ!!!
腹が!痛い!無理!……ってゴブリンどこに行った?
見失った?やばい、どこだ。何やってんだ俺。と思ったらずいぶん遠くからこっちに来てやがる。
何やってんだあいつ?あいつ、肩はずれてないか?ブランブランだよ。
「ガルァァァァ!!!」
超怒ってる。そりゃそうだ。脱臼したんだもん。怒るよ。
何悠長に考えてんだ、逃げなきゃ。てゆーかもう目の前にいる。
「ウソオオオ」
????あれ?攻撃してこないの?えっした?いつ?
何で倒れてんのコイツ。自滅?油断を誘ってる?
「……ギャウゥ」
何その声?ビビってんの?なんで?何回質問してんだ俺。
いや。落ち着け。なんか知らんが俺が優勢になってる。勝てる。レベルでは勝ってるんだ。
一方的に攻撃する。馬乗りになる。殴りまくる。これだ。作戦にもなってねえや。
「行くぞオラアアア!!」
よっしゃっ成功!!今の俺はム・テ・キダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
「死ね!死ね!死ね!死ね!」
立場が逆転してる。いつもやられる側なのに。しかも調子がいい。努力が報われてる感じがする。いつもより力が出てる。
「早く!死ね!速やかに!死ねよおおおお!!!」
最後に両手を組んで振り下ろす。やった、倒した。さっきまで抵抗してたのに、全く動いていない。
弾みで生徒手帳がでっちゃた。貴重なものだし拾わなきゃ。
名前:ネクロ
歳 :18
性別:男
レベル:14
スキル:スナッチLv1
強化Lv8
「えっ……」
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
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