2話
傷ついた体を引きずりながら家に帰ると、母が迎えてくれた。
「おかえりなさい。ネク。今日もまたたくさん汚してきたわね。」
「ただいま。今日も頑張ったからね。洗濯頼むよ。」
親にはいじめられているのは隠しているが、正直ばれているのではないかと思う。学校の成績も悪くて、今後騎士団にも入団できない。穀潰しになること請け合いだ。それなのに優しい。優しすぎる。
「……ご飯の時に話があるんだ。父さんも母さんにもだよ。」
「……ええ、わかったわ。早く着替えてきなさい。終わったら父さんも呼んできてね。ごはんもうできてるから。」
「うん」
言葉少なに、2階の自分の部屋で着替える。動きやすい格好に着替えた後、工房にいる父さんに声をかける。
「父さん。ごはんできたって。」
「ん?もうそんな時間か。分かった、すぐに行く。」
父さんは鍛冶屋だ。武器や防具は作らないが、調理器具に関しては一級品だ。ドワーフにだって負けないと豪語している。父さんが作ったと言えば飛ぶように売れるし、そのお金のおかげで騎士養成校にも入れたわけだけど、正直複雑だ。
「早くしてよ。母さん怒っちゃうから。」
足早に工房を出て、食卓に戻る。
「ネク。そんなとこに突っ立てないで、ごはん出すの手伝ってよね。」
「わかったよ」
さっさと準備して食べよう。この後言わなくちゃいけないこともあるし、じっとしているより、何かしている方が楽だ。
準備が終わるとちょうど父さんも戻ってきた。……くそ。緊張してきた。
絶対反対されるような提案だ。でも言わないと……。
「「「いただきます。」」」
食べ始めは、父さんも母さんもちょこちょこ話していたが、そのうちみんな黙ってしまった。……今言うか。
「父さん、母さん。話があるんだけど。」
「……なんだ?」
なんで今日に限ってそんなに低い声出すんだよ!ビビっちゃうじゃん!
「いや、……今後のことでさ。その、なに?俺さ、騎士団に入れないわけじゃん?……それで。その。……。」
「だからなんだ?」
ああ、もうやけくそだ!!
「義勇兵になろうと思うんだ!!」
「なっ……!?」
「……」
母さんは分かりやすいな。父さんだんまりするの怖いんだけど。
「そんな!わざわざ義勇兵にならなくたって!!お父さんに鍛冶を教えてもらえばいいじゃない!」
必死だな母さん。ていうかやっぱりここで働かせようとしてたか。
「けど、せっかく騎士養成学校を出るんだ。義勇兵になればその技能を少しは活かせる。」
「でも……」
「お前には何のスキルもないじゃないか。どうやって魔物と戦うつもりだ?」
くそ。やっぱりそうなるよな。
「お前の学校の成績は知っている。学校に入れておいてなんだが、お前には戦う才能がなかった。違うか?」
「そうだけどさ。あれだよ。……そうだ!レベル!レベルを上げるよ。そうすれば魔物にも負けない。」
自分で言っといてなんだが、矛盾しまくりだな。
「だから、レベルを上げるためのスキルがないんだろうが。」
「……でもさ、義勇兵になる人も全員が最初から『スキル持ち』だったわけじゃないんだってさ。がんばって魔物を倒してレベルを上げているときに、スキルを覚えるらしいんだよ。」
「……だからといってだなぁ」
やっぱり無理か。この状態で何言っても認められるわけがない。俺に実績がないわけだから当然だけど。
「まぁ、今すぐに義勇兵になるってわけじゃない。まだ1ヶ月学校には行かなくちゃいけないしね。騎士養成学校卒業の肩書があれば、後の人生何とかなる。」
まだ母さんが心配そうにこっちを見ている。
「大丈夫だよ、母さん。俺だって死にたがってるわけじゃない。『スキルなし』で魔物と戦おうなんて、自殺行為だってくらい。でも、一応騎士養成学校に通っているんだ。魔物と戦って倒したいという願望があるのも知っておいて欲しい。」
母さんが下を向いてしまった。父さんも若干下むいっちゃたかな。本当に心配していることが分かっただけでも、うれしい。
「あと1か月ある。俺だって努力はしてきたんだ。知ってるでしょ?」
どちらもうなずいてくれる。
「それでもスキルが発現しなければ、大人しくしてるよ。」
「……分かったわ。」
「……分かった。」
「ありがと。じゃ、ごはんたべようよ。」
どうしよう、この条件めちゃくちゃ不利だ。
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