8章 授かる想い
8章 授かる想い
凪との晩を過ごしてからもう半年が経とうとしている。
新学期、クラス替えだ。偶然にも俺と凪、幸助、瑞希は同じクラスになった。
高校生活最後の1年だし、このメンバーが揃って良かったと思う。
まぁ、何よりも凪と同じクラスになれた事が嬉しい。
今はもう俺達が付き合っている事は殆んどの生徒が知っているらしい。それから、凪も女友達が出来たり学校生活を有意義に楽しんでいるみたいだ。
俺はというと、男子生徒から「凪を俺にくれよ」や「あんな可愛い奴と付き合いやがって……」など俺への批判・苦情・いじめ(笑)が度々飛んできた。
お前等は今まで凪を無視してきたんだろ? 何を今更。
そんなこんなで初めて充実した1年を送れる気がした。送れる気がした……
新学期が始まっても俺達の生活リズムは変わらず、桜の木の下で俺は待ち、凪は来る。たまに遅刻してきたり。その時は初めて会った時の事を思い出して、つい笑ったりもする。だが、気になる事が1つ、偶然かもしれないが、月に1回凪は学校を休む。それは習慣のように退院したその月から続いている。俺の思い込みだと信じたい。信じたい。
そんな事を思って寝た夜は明け、休日の日。
俺の携帯にかかってきた1本の電話。それは幸福を俺に与えてくれた。今は……
プルルルル……プルルルル……着信は凪からだった。
「もしもし……」
「正晴くん?」
「あぁ、なんだ?」
「お話があるんですけど……」
「話って何だ?」
「今から病院に来てくれませんか?」
「あぁ……分かった」
悪い予感を頭の中に浮かべながら俺は凪が入院していた病院を目指す。予感を消そうとするがまた自分で産んでしまう。
到着。ロビーには凪と凪のお母さんが座っていた。
「はぁ……はぁ……話って何だ?」
「赤ちゃんが出来ました!」
「えっ?」
「だから……正晴くんと私の赤ちゃんがお腹の中に……」
「それは本当か?」
「はい!」
「そうか……」
「嬉しくないですか……?」
「ちょっと突然すぎて……凪は嬉しいか?」
「はい! とっても嬉しいです!」
「じゃあ、俺も嬉しいな」
「良かったです!」
突然すぎて驚くしか出来なかったけど、後から考えると本当に嬉しい事だ。何よりもあの凪の笑顔が嬉しかった。
聞いてみると、凪が月1回休んでいたのはどうやら妊娠のせいだったらしい。お腹の調子が悪くなったりして、もう病院に行こう。という事になって今日行く事にしたらしい。
そしたら、「妊娠しています」だってさ。高校生で妊娠か……
この先、俺は凪と赤ちゃんを守っていく存在となるのか。じゃあ、就職しなきゃいけないし、学校は行けなくなるか……まぁいい。凪と赤ちゃんの為なら何だってしてやるさ。それが男って者だろ。少なくとも、俺はそんな男になりたいね。
「じゃあ、愛子。産む事にするのね?」とお母さんが言った。
「うん! お母さん、いろいろ教えてね」
「分かりました!」
と、親子らしい会話をしていた。本当に仲が良いらしいな。姉妹のように見えるよ。お母さんは若いし童顔だからね。
「俺に何かする事はあるか?」
「する事……お母さん、男の人は何をすればいいの?」
「そうね……私が愛子を産んだ時はね、お父さんずっと側に居てくれたの。ずっと、ずっと。見守ってくれてて、それで安心して産む事が出来たんだと思うわよ」
「じゃあ俺は……」
「はい……私の側にいてください」
「あぁ、分かったよ」
そんな会話をしているとお母さんが「じゃあ、これから家に泊まってくださいな」と言ってくれた。俺に両親がいない事を知っているらしい。俺は迷う事無く了解した。
それから、また数日。
俺達は一日中一緒に居る生活にも慣れ、何とか上手くやっていた。
凪が妊娠している事は誰にも言っていない。陽介や瑞希に言ったら大変な事になると思うから、言える訳無い。
それでも、俺は今最高に幸せだった。
でも、これからの物語が全てだった。
今までの俺の人生が、凪との生活が夢物語のように……
終局の時、近く。
〈何か守る物がある時 人は命すらも懸けられる でも、何をしても守れない物もある〉