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4章 スライド、画の訳

 4章 スライド、画の訳


 今日、また一週間が始まる。

 いつものように学校へと歩いて行く。後ろに凪を付けながら。

 学校内では、何やら俺が凪と付き合ってるのでは、という噂が出回っているらしい。

 まぁ、はっきり言うと俺も凪も目立った存在ではないので、その話はスルーされる程どうでもいいような話だ。話題になっても興味を示す者が居ない。

 付き合ってない。幸助には良く言い聞かせている。あいつが一番うるさいからな。

 凪はお前の物では無いと思うぞ。女好きは仕方ないか。

 

 休み時間。

 特にする事も無く、席から外を眺めている。今日は生憎の雨だ。校庭には大きな水溜りが幾つも出来ている。学校って暇だよな......

「古河!」

「ん?」

「古河正晴!」

「何だよ、委員長」

「アンタ、今日、日直でしょう? なのに遅刻してきて仕事もしない。委員長の私がアンタの代わりに仕事をしている。学校に来ているのに仕事をしない。おかしいと思わない?」

「あぁ、なんせお前は委員長だからな。仕事の出来ない奴の代わりは当たり前だ」

「ふざけるなっ!」

 痛ぇ......この野郎、腹蹴りやがって......

 こいつ、俺のクラスの委員長、橘瑞希(たちばなみずき)

 何かと几帳面な性格で他人に厳しい。見た目はこう、ツインテールで身長はそこそこ高くて、体育会系って感じ、平均よりは可愛い。っていうか周りから見るとかなり可愛いと思う。性格さえ良ければね……

 まぁ、これこそ人は見た目に寄らず。ってやつだな。その言葉はこいつの為に作られた言葉なのかもしれない。

 仕方ない……

「わかったよ、やればいいんだろ、やれば!」

「私に逆ギレなんていい度胸ね。まぁいいわ、やればいいのよ。しっかりね」

「はい、はい……」


 面倒臭い……

 そんな事を言いながらも日直の仕事を遣り終えた。

 俺はそろそろ帰ろうか、と思い、下駄箱へと行き靴を取った。その時。

「正晴く〜ん!」

「なんだ?」

 そこには凪が居た。俺の目の前。玄関から出ようとした俺を拒むように立っている。

 その手にはインスタントカメラが握られていた。大事そうに、両手でぎゅっと。

「これから写真を撮りに行こうと思うんですけど……」

「それは良かったな。早く行って来い、陽が沈まない内にな」

「正晴くんも一緒に行きませんか?」

「俺も、か?」

「はい! 正晴くんも是非!」

 俺が行く意味はあるのだろうか。写真は一人でも撮れるだろう。逆に一人の方が邪魔者は居ないし、撮り易いと思うんだけどな。それは俺だけか?いや、皆、それが大多数だろう。

「何故、俺も行くんだ?」

「それはですね……見ていてもらいたいですよ」

「何をだ?」

「写真を撮っている私の姿を」

「姿って……」

「じゃあ、行きますよ!」

「ちょっと、待てよ!」

 そうして俺は誘われたのに強制という形で写真撮影に同行する事となった。

 その理由。一番気になる所だ。詳しくは聞いていない。聞き出せない。姿を見ていて欲しいって? 何だその理由。理解が全く出来ないぞ。

「今日はまだ一枚も撮っていないんです! だから、これから選びに選んで、特別な三枚を写真に残したいと思います!」

 そういえば、何故三枚なのかも聞いていないな。全く、理解が出来ない事が沢山積み上がっていく。崩れないように支えるのが精一杯だ。

 そんな事を考えながら、仕方ない。俺は凪について行く事にした。どうせ、俺は暇な人生を送っているんだ、このくらい暇潰しで持って来いだしな。

 外は雨も上がり、晴れていた。

「まずは……このタンポポを撮ります! 今、アリが乗っていて可愛いです!」

 そう言ってから、パシャリ。凪はタンポポに乗っているアリ、をフィルムに納めた。俺もその姿を頭の中に自然と保存する。いつかは消えるだろうけど。

 外は気付かぬうちに紅く染まりだした。綺麗な紅色。俺でも見惚れそうだ。

「二枚目はこの空にします!」

 凪は芝生に寝転び、仰向けでカメラを構えた。そして、パシャリ。また一枚良い写真が撮れた、そんな満足そうな顔をしている。

「あと一枚、何を撮るんだ?」

 俺がそう言って凪を見た瞬間!

 パシャリ。

「何やってんだ!」

「最後の一枚は正晴くんです!」

 撮られた……写真を撮られたのは二度目だ。凪は万遍の笑みを零して、俺を見ている。可愛い顔しやがって、肖像権ってモノを知らないのか?

 

 それから、何分か経った。

 俺と凪は、空を撮ったときの様に仰向けになっていた。隣同士、距離は少々あるが。

 そして無言のまま。きっと俺も間がさしてしまったのだろう。凪にある質問をしていた。

「なぁ、凪」

「何ですか? 正晴くん」

「何で毎日、三枚しか撮らないんだ?」

「それは……」

「教えてくれ、そうしないとお前の写真を意味が分からないんだよ」

「でも……」

 凪は落ち込んだような声を出し、また沈黙。顔は見えずとも想像が付く気がした。きっと、暗い顔をして空を見ているのだろう。

「分かりました。少しなら……」

「あぁ」

「私が三枚しか撮らない理由、それは……一日を確かに示す物を残したいからです」

 ??

「意味分かりませんよね……私は一日一日をとても、とても大事に生きています。目の前にゴールが近いから、他の皆さんと比べてゴールが近いから……使い捨てカメラ、枚数は27枚。一日三枚で9日間です。区切りよくしたいから、私の証拠を残したいから……9日間、それが私の毎日の記録。カメラ代も笑いものではないんですよ」

 

 何を言っているか、今の俺にはまだ、理解が出来なかった。

 その先背負う、人の心、存在、命。

 それに気付けていたら大分心も落ち着いただろう。

 もしかしたら、気付いていたのかも知れない。

 ―茜空、その赤に染められた言葉の形、本当は分かっていたのかも知れない。

   彼女の真実を。俺が焼き付けた姿、それはいつかは消えるけど……―

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