外伝 明日この愛の中で
外伝 明日この愛の中で
私の名前は、古河愛。普通に学校に通う、女子中学生。
お父さんと二人暮らしで生活している。特に困った事も起こらないから、私はこの生活がすごく好きだ。お父さんが大好きだ。
私は、お母さんの事を知らない。小さい頃は何回もお父さんに「お母さんはなんでいないの?」と聞いていた。でも、お父さんは「いつか、愛が大きくなったら教えてあげる」と言ってから、まだ、教えてくれない。もしかしたら、忘れているのかもしれないと思ったけど、私はまだ我慢する事にした。
「お父さん、ご飯出来たよ!」
「おぅ」
私は中学に入学してから、毎朝、朝食を作るようになった。お父さんは毎日毎日、仕事で忙しくて、そんな余裕はないと中学生になってから気付いた。だから、お父さんのお弁当も作るようになった。
「じゃあ、仕事に行ってくるな」
「いってらっしゃい!」
私も学校に行く準備をして、家を出る事にした。
学校まで歩いて行き、教室を目指して、まだ生まれたての太陽の下を心地良く歩く。これは、私の生活の「いつも」だ。これが、当たり前になっている。
学校に入って、教室に行く。そして、友達と話をする。それは、とても楽しい事だった。
「愛ちゃ〜ん! おはよう!」
「おはよう! 朋子」
この子は、私の親友の柳川朋子。とても明るくて、話やすくて、最高の友達だ。
他にも友達は何人もいる。朋子と他の子たちが私の席に集まってきた。いつもの朝の集会の始まりだ。何でも無い事を話しているだけなのに、それすら楽しく感じられる。
「私ね、明日お母さんとデパートに洋服買いに行くの!」
一人の子が言った。
「私も! お母さんと遊園地に行ってくるんだ!」
皆、明日の休日はお母さんと出掛けるらしい。少し、嫉妬感が込み上げる。
「私はね、お母さんと東京に行く! 田舎じゃあ買い物出来ない物があるからね」
朋子もお母さんと出掛けるらしい。
私の嫉妬感は徐々に徐々に、怒りへと姿を変えていった。
そして。
「何よ! みんなお母さんの話ばっかりして! 嫌がらせなら辞めてよ!」
私は教室を出て行った。登校してきてまだ、数分しか経っていないのに。鞄も全部学校において、私は走って逃げた。
走り続けて、川原の近くの土手の桜の下まで来た。
息を切らして必死に走ってきたから、もう、足はグダグダで歩く事も間々ならない。
本当に疲れたから、もう座ろうと思って先の方にある桜の木の下を見た。そこには、寝そべっているお父さんの姿があった。
「……お父さん」
「よぉ、愛じゃないか。どうしたんだ? こっちは学校の方向じゃないだろ? ランニングでもしてるのか?」
「お父さんこそ、仕事行かないで何をしてるの?」
「ただ、寝てるだけだ」
「いつもこんな事してるの?」
「あぁ、早く家を出て、時間ギリギリまで此処にいるよ」
「どうして?」
お父さんが何故此処にいるのか、すごく不思議で疑問に思った。まるで、他人を見るような目でお父さんに質問をした。
「ここは、思い出の場所だからな」
「思い出の場所……?」
「あぁ、そうだ。愛こそ何でこんな所に来てるんだ?」
「それは……」
私は、朝の事をすべて話した。
友達と話をしていて、皆にはお母さんがいるのに、私には居ない事がとても悔しくて、飛び出してきたと。
その話を聞いたお父さんは、ゆっくり立ち上がって言葉を吐いた。
「此処はな、俺と愛のお母さん、凪愛子と出会った場所なんだ。俺がさっきみたいに寝てたら、愛子が来た。まだ、愛が小さかった時、俺は、大きくなったらお母さんの事話してやる、って言ったよな?」
「うん……」
「お母さんが居なくて悔しいと思ったのなら、もう大きくなった証拠だ。しっかり、全部教えてやるよ。凪愛子の事……」
そして、お父さんは話し始めた。お母さんの事を。
桜の木の下で出会った事。一緒に昼食を食べていた事。お母さんと写真を撮っていた事。お母さんは病気だったのに、それを隠して最後にお父さんとのモノを残そうとした事。そして、私が産まれた事。全部教えてくれた。
私は泣き始めてしまった。今までずっとお母さんの愛なんか感じた事が無かったのに、今は新鮮にそれを感じられる。それが、嬉しくて、嬉しくて。
「愛、分かったか? お前は俺だけの愛で育ったんじゃない。ちゃんと二人分の愛で育ったんだ。だから、お母さんがいなくても、もう、胸を張って生きていけ。悲しみを溜め込めるほど、お前の中は空いてない。お母さんからの生きる力が沢山入っているからな。お前は『愛』で沢山なんだ」
「うん」
「じゃあ、早く行くぞ。もう、完全に遅刻だろ? 早く行かないとヤバイぞ!」
「そうだ! じゃあ、お父さん行ってくるね!」
「あぁ、行ってらっしゃい」
私はまた、学校に向かって走り始めた。
学校に着いたら、ちゃんと朋子達に謝ろう。
皆は休日をお母さんと過ごすらしい。
それは、とてもとても素晴らしい事だ。憧れないなんて事ははっきり言うとない。まだ、嫉妬感は確かに一握りある。
でも、私だって、休日過ごせる場所がある。
私は、明日この愛の中で過ごそう。
思った以上に読者の方々の数が多くて驚いています。なので、今回はその後の『愛』の話を書いてみました。本当にちょっとの話ですが、これを読んで「明日また空の下で」の『愛』知ってください。そして、皆さんも一人ではない。と知ってください。貴方の両親は貴方に悲しみが溜まらないくらい、『愛』を注ぎ込んでいます。読んでくださり、ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。では、またどこかで……