1章 桜舞う出会い
晴天快晴。そんな言葉が似合う今日の空。
俺はいつもそんな空を眺めている。
もし、俺と彼女が出会わなかったら、俺の人生はこんなにも苦しくて辛いモノにはならなかったと思う。でも、彼女に出会えて俺は嬉しかった。
―生きる力を沢山貰ったよ。だから、そいつは全部お前に返そうと思う―
1巻 1章 桜舞う出会い
桜の木の下。四月を過ぎ花びらが散る木の下。
俺はいつも此処で待っている。別に誰かを待っている訳ではない。学校のチャイムが鳴るのを待っているのだ。
朝のホームルームの終わりを告げるチャイムを待っている。
でも、今思うと本当に誰かを待っていたのかも知れない。彼女を待っていたのかも知れない。
「あの……もう学校は始まっていますよ?」
「ん?」
そこに居たのは小さな小柄の女の子。俺が通っている学校と同じ制服、という事は……この紺色のリボンだし同級生らしい。でも、こんな奴初めて見た。
「すみません! でも学校はもう始まっています。急いで行かないと……」
「あぁ、俺はいつもだから。それよりお前が早く行けよ。遅刻は進学の敵だぞ」
「私も、いつもの事ですから……」
「お前もか? 学校はちゃんと行かないと駄目なんだぜ?」
俺は態と意地悪に言ってみた。こういう静かで天然っぽいキャラの奴を弄るのが楽しいからだ。
「そうですよね……やっぱり学校はちゃんと行かないといけませんよね……」
「あぁ、そうだ。だから急いで行けよ」
「はい、頑張ります! ってあなたもじゃないですか!」
今頃気付いたのか? やっぱり天然という生き物は面白い。
俺は寄り掛かっていた桜の木から離れ立ち上がり、彼女を見ないで歩きだした。
「ほら、そろそろ行かないと授業にも遅れるぞ」
「はい!」
そう、彼女は元気良く返事をして俺の後ろを追って歩いている。珍しい子だな。素直にそう思った。
この出会いが俺の人生を変えるきっかけになった。
良い方向にも、悪い方向にも。
そのまま会話も無しに学校に辿り着いた。
俺は高校二年生。二年専用の下駄箱に行く途中、彼女が止まって呟いた。
「ありがとうございます……」
「何だよ、急に改まって」
「私、今まで此処に来る事がなかなか出来なかったんです……」
「何故だ?」
「何故でしょうね」
それは俺が聞いたんだよ。分からないから聞いたのに当本人まで知らないとはね。まぁこの話は無かった事にしておこう。今はね。
「じゃあ、早く行こうぜ」
「はい!」
―そして俺達は歩き出す。出会った運命の分、それらを返すために―
彼女は俺のクラスの二つ隣のクラスらしい「私はこっちなので……」と言って廊下を歩いていったから。学校では見た事無かったんだけどなぁ……
「おい、正晴。また遅刻か?」
「実は朝、小さい女の子が急に目の前で倒れて病院に運んできたんだ。そしたらなんと、その女の子が生き別れの妹だったんだよ!」
「マッ、マジかよ! お前……そんな複雑な家庭だったのか。それより妹だったって本当かよ?」
「嘘だ」
「この野郎! いつから嘘なんだ?」
「始めから全部嘘だ」
「チクショー、騙された……」
この、あまりにも馬鹿な奴が俺の親友、隅原幸助。唯一の友人と言っても過言ではないだろう。俺は人付き合い悪いからな。
「お前だって今日、遅刻してない事は珍しい事だろ」
「まぁそうなんだけどねぇ〜」
俺達は似た者同士だ。こいつを見ていると「俺ってこんな感じなのか……」とショックを受ける事も多々ある。
授業を受けに来たと言っても話は全く聞いてない。聞く気がないという理由でもあるし、とりあえず面倒だから。
国語の教師が何だか分からない古文を読んでいる中、俺は校庭を眺めていた。
二年の教室は四階建ての校舎の四階、つまり一番上の階に位置する。だから、教室の窓際に席を置いている俺の位置からは校庭が良く見える。
今は何処かの二年のクラスの体育らしい。知らない顔の奴が何人もいる。知っている顔も少数人ながらいた。
その校庭の端、サッカーか何かやっている横の方で知っている顔が膝を抱えて座っていた。
今日、朝会った彼女だった。どうやら見学をしているらしい。
どっか怪我でもしているのか? そんな事を思ったが俺には関係のない話だ。別に気にする事もないだろう。
何も考えず寝たりして過ごした午前の授業。終了を告げるチャイムが鳴る。という事は……昼食だ。
「幸助、この五百円玉をやる。だから、カツサンドを買って来い! 釣りはいらねぇ」
「よっしゃー、任せとけ! 俺の分も買って来てやる!」
そう言い残し、幸助は購買部へと走っていった。この時間が一番混む頃だろう。そう考えていた俺は予め、朝コンビニでパン一つ買って来てあった。予備に、と思っていたけど、どうやらこちらが主になりそうだ。
なかなか幸助が戻ってこないから俺はその辺を歩き出した。外に出たり、廊下を周ったり、結局本当に暇になったから屋上に行った。偶然だろうね。俺は屋上に行く事を予定などしていなかった。だから偶然だと信じたい。そこに彼女がいた事を……
―今思うと、偶然では済まされない出会いを俺はしていた―