第17話
総司の療養所―
総司は姉が帰ったあと、ぼんやりと中庭を見ていた。
姉が言うとおり、黒猫が来ていない。
総司(…愛想つかされちゃったのかなぁ…)
総司はそう思い苦笑した。
猫だって、いろんなつきあいがある。
会わねばならない友人もいるだろう。そして恋人も。
総司「…いいなぁ…私も自由に動き回れればなぁ。」
そう呟いた時、中庭に黒猫が現れた。
総司「!…黒猫殿…!」
総司は嬉しさに思わず両手を差し出した。…が、驚いて、その手を下ろした。
総司「黒猫殿?…それは?」
黒猫は口に魚をくわえていた。
体には争った痕がある。
総司「…まさか…」
総司が思わず腰を浮かせた時、黒猫は縁側に両前足をかけて、魚を置いた。
もちろん、生魚である。
総司「…黒猫殿…」
総司の目に涙が溢れた。
総司「…ありがとう…。私に持ってきてくれたんだね。…ありがたくいただくよ。」
黒猫は前足を下ろし、行儀よく座って目を細めた。
総司「…でも、その前に…こっちにおいで。…その乱れた毛を整えなきゃね。」
総司が涙を払いながらそう言うと、黒猫は不思議そうにこちらを見た。
総司「ほら、ここへおいで。…ここだよ。」
総司は両手で膝を叩いた。黒猫はしばらく迷ったようだったが、魚をよけるようにして、総司の膝へと近づいた。
総司はその黒猫の体を抱きあげた。
総司「…ありがとう…。本当にありがとう。」
総司は黒猫を抱きしめながら言った。