第15話
総司の療養所―
雨が降っている。
今日の総司は、床に入ったままだった。
降る雨を見つめながら、ぼんやりとしている。
総司「今日は黒猫殿は来ないだろうなぁ。」
そう呟いた。
姉も、夫の用事で来られないという。
時々咳が出た。すぐにおさまるときもあるし、しばらく続くこともある。
いつもは姉が背をさすってくれるが、今日は誰もいない。
老婆も買い物に出ていた。
総司「寂しいな…」
そう呟いて、体を横にした。
総司は、目を閉じて屯所にいたころを思い出していた。
……
屯所にいる時は、部屋では一人でも、大部屋にいけば平隊士達がいた。だから寂しいと思ったことはなかった。
大部屋では、談笑しているものもいるし、将棋をうつものもいる。巡察から帰ってきたばかりのものは、大抵体を横にしていた。
総司はよく、そんな隊士達のところにいき、話の輪の中へ入っていったものだった。
「沖田先生。甘いものがお好きだと聞きましたが、いい店を知りませんか?」
そんなことを聞かれたことがある。総司が「どうして?」と聞き返すと、聞いた隊士が顔を赤くして黙り込んでしまった。
総司「!…ああ…そうか。ごめんごめん。…今度、連れて行ってあげるよ。」
そう言うと、その隊士は照れくさそうに頭を掻いた。きっと好きな女性に、菓子でも買ってあげようと思っているのだろう。
今思えば、皆、若かった。その若い隊士達は、ほとんどが鳥羽伏見で命を落としたのだった。
……
総司は閉じていた目を開いた。
その目から、涙が零れ落ちた。
総司「…いつか皆に会えるかなぁ…。会いたいなぁ…。」
そう呟いた。