第14話
総司の療養所―
総司は縁側に座り、ぼんやりと空を見上げていた。
今日はよく晴れている。
近藤の夢を見た昨日は、雨だったが…。
黒猫が現れた。
まだ濡れている地面を歩いてきていた。
総司「おはよう、黒猫殿。」
総司がそう言うと、黒猫は目を細めてみせた。
総司「足が冷たくないかい?こっちへおいで。」
総司がそう言って膝を叩いたが、黒猫はその場に座り込んで動かない。
総司「どうしたんだい?」
聞いても、黒猫は動かなかった。
ただ、黙って総司を見ている。
その時、「総司、入りますよ。」という姉の声が聞こえた。
総司「!…ああ、姉さん。」
総司が答えると、ふすまが開いた。
みつ「おはよう。総司。」
総司「おはよう。」
みつ「今日は具合がいいようね。いつもなら、まだ寝ているのに。」
総司「うん。」
総司は中庭に座り込んでいる黒猫を見ながら言った。
総司「…姉さん、またあの黒猫に何かしたの?」
みつ「?…何もしないわよ。…どうして?」
総司「…こっちへ来てくれないんだ。…前は膝に座ってくれたのに。」
みつ「そう?…どうしたのかしらね。」
みつがそう言って、黒猫を見た。
そして「ああ」と言って笑った。
みつ「ちょっと待ってね。」
みつはそう言って部屋を出て行った。総司がきょとんとしていると、すぐにみつが手ぬぐいのようなものを持って戻ってきた。
総司「?…」
みつは不思議そうに見る総司には構わず、黒猫の傍に近寄った。黒猫はさっと立ち上がった。
みつ「足を拭いてあげるわ。さぁ。」
みつがそう言って、猫の足を取り拭い始めた。黒猫はされるがままになっている。
やがて、四本とも拭き終わると、黒猫はみつの方は見ずに、縁側へと飛び乗った。
そして、総司の膝に顔をこすりつけた。
みつ「…この子、女の子ね。あなたを汚したくなかったのよ。それに…私など眼中にないようだし。」
みつが笑って、総司の膝で丸くなっている黒猫を見ながら言った。
総司は驚いて、黒猫を見た。
総司「…足が汚れていたから…上がってこなかったのか…」
みつはくすくすと笑っている。