第12話
総司の療養所―
総司は目を覚まし、あわてて閉じてあった障子を開いた。
すずめは来ていなかった。
が、その代わりに黒猫が中庭の真中にちょこんと座っていた。
総司はほっとして微笑んだ。
総司「おはよう。黒猫殿。」
黒猫は目を細めて見せると、安心したようにその場へ寝そべった。
総司は縁側へ出て、あぐらをかいて座った。
総司「ここへおいでよ。」
総司はそう言って、膝を叩いて見せた。
が、黒猫はじっと総司を見つめたまま、動かないでいる。
総司「…こないのかい?」
黒猫は顔をあげ、体を起こした。そして遠慮がちに縁側に足をかけようとするが、それ以上あがろうとしない。
総司「あっ!そうか!」
総司はあわてて黒猫を抱き上げた。
総司「足を怪我していたんだったね。ごめんよ。」
総司はそう言って、黒猫の怪我をしたところを見てみた。だいぶん傷が癒えていた。
総司「…すごいなぁ。…舐めるだけで治ってしまうんだ。」
黒猫は総司の膝に顔をこすりつけている。
総司「…君の声が聞きたいなぁ。…いつか聞かせてくれるかなぁ…」
黒猫はちらっと総司を見たが、やがて体を丸くして目を閉じてしまった。
総司「…気が向いたら…ってわけだね。」
総司はくすくすっと笑って、黒猫を撫でた。