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第100話(了)

京 礼庵の診療所―


東はその夜、縁側に座り月を見上げていた。今、みさは東のために風呂をわかしている。


東「なぁ、礼庵…。みさちゃん、お前と同じように袴はいて、医者やってるぜ。…そうしたら、おまえが怒って帰ってくるかもしれないって、思ったんだってよ。」


東はそう言って、寂しげに笑った。


東「…確か、血はつながってなかったよなぁ。…でもよ…なんだか、おまえの若い時に、とても似てるような気がするよ。…おまえも…別嬪べっぴんだったもんなぁ。俺ぁ…ずっと、おまえに惚れてたんだぞ。だけどよ…なんだか照れくさくて、お前を男扱いまでしてさ…。結局、告白することができなかった…。それに、おまえ…まじで沖田さんに惚れてたからな。」


東は両足を投げ出して、仰向けに寝転んだ。


東「あの世では、ちゃんと女やってるかなぁ…。」


この7年いろんなことがあった…。新選組が京を出てから、皆、ばらばらになってしまったが、それぞれいろんな思いを抱いて生きている。そして、死んでいったものもいる…。

東は、みさとの思い出話の中で、いろんな話を聞いた。


ばばのこと…明治2年の大赦免を受け、みさと一緒に里から京に戻った。が、3年前に風邪をこじらせ肺炎で死んだ。死ぬ直前まで、礼庵が生きていると信じていたという。


九郎のこと…一緒に婆の里へ行ったが、里へついた後、礼庵のところへ行くと言って、そのまま行方知れずだという。江戸へ戻ったのなら、東のところへ来たはずだが…。


総司の想い人、可憐のこと…総司が京を出た後、若くして死んだらしい。しかし、どうして死んだのかはみさも知らない。ただ、本人の遺言で壬生寺の近くの寺に埋葬され「沖田氏縁者」という名で墓が建てられているという。しかし、それもどこまで本当なのかはわからない。


……


東がいろんな思い出を頭の中で巡らせていると、みさが東を呼んだ。


みさ「東せんせー!お風呂沸きましたえ!入っておくれやすー!」

東「おうっ!先入らせてもらうよ!」


東は、飛び起きた。


東「ああ、みさちゃん!なんなら一緒に入るかー?」

みさ「あほなこと言うてんと、さっさと入っておくれやす!」


東は苦笑した。


東(礼庵だったら「あずま!」ってどなりつけてるな。)


東は、ふと月を見上げた。


東「…そういやぁ、あいつ…ここからよく、月を見上げてたっけなぁ…。」


そう呟いて、東は立ち上がり、中へ入っていった。

月は煌々と輝いていた。まるで、診療所を見守っているかのように…。


(一番隊日記(最終章)-千駄ヶ谷暮色- 了)

……


皆様、最後までお読みくださり、ありがとうございました。

総司さんが100話にならないうちに亡くなってしまったので、その後はあまり関心がないんじゃないかなぁ…と思いながらアップしましたが、なんのなんの!嬉しいことに、最後までアクセスがありました!本当にありがとうございます。


そして、今回もお気に入りにご登録いただいた方、評価をつけてくださった方、本当にありがとうございます!また「沖田」様「まめ」様!この度も、ご感想をありがとうございました!(まめ様、ご希望に添えなくてごめんなさい!(m_ _m))


……


さて、今回のお話ですが…。総司さんの江戸での様子というのは、本当のところはわかっていません。小説などでも、そうそう詳しく書かれたものはありませんね。

また、黒猫ちゃんも子母澤先生の創作…と言われています。それでも、ほとんどの小説で黒猫ちゃんは総司さんに斬られかけています。

でも、どれも、黒猫ちゃんは悪いように書かれ、ここの総司さんのようにかわいがったようには書かれていません。

創作ではないとしたら、総司さんはどうして黒猫ちゃんを斬ろうとしたのか…という疑問がでます。

ある小説家さんは、自分のかわいがっていた仔猫をいじめる役として黒猫が出てきます。その小説は、死を直前にした総司さんが、黒猫をとうとう斬るわけですが、実際に斬られたのは、かわいがっていた方の仔猫ちゃんだった…という、哀しい終わり方をしています。

私自身は、堂々とした黒猫ちゃんの様子を総司さんが見て、これまで制裁してきた浪人たちの姿と重なり、斬ろうとする…としましたが、これ以外に、黒猫ちゃんを斬ろうとした理由は、私のすかすかの脳では思いつきません(--;)


「あの黒猫は、今日も来ているんだろうなぁ…」


これが、総司さんの最期の言葉だといわれています。創作でないとすれば…ですが、私はその総司さんの言葉から、黒猫ちゃんに愛情を持っていたのではないか…と思ったことから、黒猫ちゃんをかわいがる総司さんの姿が浮かびました。完全なる妄想ですが。実際はどうだったんでしょうね。


そして…

礼庵は東の思うとおり、死んでしまったのか、それとも、何らかの理由で生きているのか…それは、私にもわかりません。

作者がわからないというのもおかしな話ですが、小説を書いていると、自分の考えている通りに、筆(?)が進むものではなく、本人の意思に反して、あれよあれよと勝手に話が進んでいってしまうことがほとんどです。気に入らなければ書き直せばいいのですが、一部を書く直すと、前に書いたところも書き直さなければならなくなり、結局、収集がつかなくなってしまうんです。…そのため、礼庵の最後も、私の人造人間でありながら、不本意な結末となってしまいました。

例えば、東が京に帰ろうとする礼庵を引き止めるところ。

書きながら「てめぇも礼庵についていけっ!!」と心の中では思いながら、結局、東はついていきませんでした。

そして、京についた礼庵の様子を書こうとしても、どうしても、そのシーンが浮かばない…(--;)無事に帰ってくる礼庵の姿が全く思い浮かばないんです。

それで、ああなってしまいました。

生きているとすれば、労咳の特効薬を探しにどこかへ軌道変更したんでしょう。でも、総司さんのところへ逝ってしまったと思うのも、いいかな…と。

礼庵の最期は、皆様のご想像にお任せするといたしましょう。(無責任(--;))


…などと、いろいろ考えながら書き続けましたが、まずは最終章まで続けられました事に、これまでお読み下さった皆様に感謝感謝でございます!本当にありがとうございました!!(大泣)


……


(おまけシーン)


江戸 総司の療養所-


総司は縁側であぐらをかき、じっと赤く染まる空を見上げていた。


総司「…今日も、もう暮れてしまうのか…」


ぽつりと呟いた時、背中に柔らかい風が当たった。


「総司殿…今日は起きておいでですね。」


礼庵であった。毎日、養生所での仕事を終えてここへ来る。

総司は微笑んで礼庵に振り返り、いつものように手を差し出した。

礼庵もいつものように総司の隣に座り、その差し出された手を取り脈を見た。


礼庵「今日は具合がいいようですね。」

総司「ええ…。咳もね、あまり出なかったんです。だから、ちょっと外も歩いてみようかと思ったんですけどね。ここの人に止められました。」


礼庵は「当然です!」と言った。

体のこともそうだが、官軍などに見つかったら…と思ったのである。


総司「そんな怖い顔をしないで下さい。」


総司は、そうにこにこと笑って言い、再び赤い空を見上げた。


総司「ここへ来た頃は1日が長くて困ったけれど、最近は早く過ぎてしまうような気がします。」


礼庵は何も言わず、総司の隣にあぐらをかいて座った。

2人は沈黙した。が、最近はお互いそれを気にかけることもなくなっている。


…やがて総司が口を開いた。


総司「…この頃、京にいた時のことをやけに思い出してしまうのです。」

礼庵「!そう…ですか…」


礼庵はぎくりとした。人間は死期が近づくと、昔のことを思い出すようになるという話を聞いたことがあるからである。


総司「そして思うんです。…あれだけ、たくさん人を殺めたのに…こんな風にのんびりした時間を過ごしていいのかなぁってね…」

礼庵「…!…」

総司「…きっとろくな死に方をしないだろう…って、ずっと思っていた…。でも、何か今はそうは思えなくて…。」


礼庵は微笑んで、総司と一緒に赤い空を見上げた。


礼庵「それはきっと、殺めた人の数以上に、あなたに助けられた人の数の方が多かったのでしょう。」


総司は苦笑いした。


総司「…そうだろうか…そうならいいけれど…。」


総司は、うなずく礼庵にはにかむような笑顔を見せて、もう闇に変わりかけている空を見上げた。


総司「…ああ…暮れてしまうな…」


また、そう呟いた。


(終)


……


最後に、短い番外編を追加しました。そちらも、お読みいただけると嬉しいです(^^)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


立花祐子

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