第10話
総司の療養所―
総司は、姉の呼ぶ声にはっと目を覚ました。
みつ「総司…大丈夫?」
総司は、自分を見下ろしている姉の心配そうな顔を見あげた。
姉の膝枕で寝ていたのだった。
総司「…うん…大丈夫…」
総司はあわてて体を起こそうとしたが、その時、思わず咳が出た。
みつ「!…総司!…」
みつが総司の背をさすった。総司は必死に咳を抑えようとするが、どうしようもなかった。
ただただ、咳が止まるのを待つしかなかった。
……
みつ「ごめんなさいね。…何か体にかけてあげたらよかったわね。」
みつが床で寝ている総司の横で、すまなそうに言った。
総司「ううん。いいんだ…。…姉さんの膝…気持ちよかったよ。」
みつ「…そう?…」
総司「子守唄もね。」
みつはやっと微笑んだ。
みつ「子守唄なんて、久しぶりに唄ったから…。」
そう言って、頬を赤らめた。
が、ふと思い出して、表情を固くして言った。
みつ「…何の夢を見ていたの?…起き上がる前、なんだかつらそうな顔をしていたけれど。」
総司「…ああ…あの…」
総司はふと言葉をつまらせたが、ふと姉から目をそらし、天井を見つめていった。
総司「私より先に死んだ人達が…たくさんでてきたんだ。…私もその中へ入りたいと思ったんだけれど…。先に死んだ若い子にね…。「まだ来るのは早い」って言われたんだ。」
みつは思わず口に手を当てた。
総司はいつの間にか、みつの膝の上であの世と行き来していたのかも知れない。
みつ「…いい人ね。…その人。」
総司「うん。…私の隊にいたんだけれど、若くて…元気で…でも…あまり笑わない子だった…。」
そう言うと、はっとして体を起こした。
みつ「どうしたの?」
総司「…黒猫が来ていない?…」
みつ「!…また…そんなことを…」
みつは少し不安げな表情をしたが、弟のために立ち上がり、一応庭を見渡してみた。
みつ「来ていないわよ…。…!…」
みつが一点を見つめて驚いた表情をしたのを見て、総司はあわてて床から出た。
そして総司も、みつの見ている先を見て、眼を見ひらいた。
総司「…大変だ!…」
みつ「総司!だめ…!」
総司はみつが止めるのも聞かず、庭に飛び降りた。