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第1話

慶応四年 冬―

江戸 千駄ヶ谷のとある植木屋―


総司は縁側に座り、ぼんやりと庭を見ていた。

そして、暮れていく空を見上げた。


総司「そろそろ暮六つかな…。皆が帰ってくる刻だ…。」


そう呟いてはっとし、ふふっと笑った。


総司「ここは屯所じゃないんだな…。」


それを悟ったとたん、寂しさが総司の背にのしかかってくる。


総司「私はここで…独りで死ぬのかな…。」


そう思いうなだれた。そして自分の手を見た。何か小さくなっているような気がした。

すっと、袖を持ち上げて、肘から二の腕を見た。

…やせこけていた。骨の流れがうっすら見えるほどだった。


総司「…刀…持てるかなぁ…」


そう呟いて、部屋へと振り返った。ひいてある床の横に総司の愛刀「菊一文字」が鎮座している。


総司「あ、いけない。…姉さんに床の下へ入れておけと言われていたんだった。」


総司はそう言うと、四つん這いになって床まで歩いた。

普通ならば、さっと立ち上がって行けるのに、ここへ来てからは、立ち上がることもおっくうになってきていた。


総司は、菊一文字をそっとなでてから、床の下へと押し込んだ。


総司「ごめんよ…いつも一緒に外を歩いていたのにね。」


そう呟いた。そして、四つん這いのまま再び縁側へと戻り、あぐらをかいて座った。


総司「ああ、暮れていくなぁ…。また1日が終わってしまった。」


日が暮れていくたびにそう呟く癖がいつの間にかついていた。…まる年寄りのように…。独り言も普通に出るようになってしまっている。

そして総司にとって、暗くなっていくこの時間は、自分の死が一歩一歩と近づいてくることを実感する瞬間なのである。


その時、部屋の外から「宗次郎そうじろう様」と言う声がして、障子がすっと開いた。

総司の身の回りのことをしてくれている、老婆であった。


総司「おかあさん…」


老婆にそう言って、総司は微笑んだ。

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