第9話 臨時パーティーメンバー加入による両手に華状態(見た目だけ)
女の子は俺に見つかったことに気がつくと、柱から飛び降りた。
スタッ、と身軽に着地を決める。
ぱっと見る限り武器は何も持っていないが、皮の胸当てなどの装備をつけていることから、おそらくゲームでいうところの冒険者とかだと推測される。
そしてそのまま、彼女はこちらに向かって歩いてきた。
いきなりの展開に戸惑いつつ、俺は対応を考える。
何かこちらに用があるんだろうか?見たところ敵意はなさそうだが、かといって友好的であるとも限らない。
どうしようか考えているうちに、
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ソフィーティア・クレイドル
Lv:21
クラス:アーチャー
ランク:C
ギルド:黒翼の大鷹
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なんと詳細表示が出た。人物にも適用されんのかよ。ってか21レベルって。高っ。
「すみません。少しお伺いしたいことがあるのですが……どうしました?」
とても落ち着いた声音で少女は問いかけを発したが、俺の表情を見て怪訝そうな顔をする。どうやら驚愕が顔に出てしまっていたようだ。
「いえ、すみません何でもないです。ご用件は何でしょうか?」
俺は慌てて取り繕い、少女に続きを促す。そして、今度は不自然に感じられないように少女を見る。
背は俺より低く、ルーナよりちょっと高い。焦げ茶色で裾の短い服に身を包んでおり、胸から腹、肩から肘、膝から足首に皮の鎧のようなものをつけている。右の腰にはホルダーに収まったナイフががベルトに固定されてぶら下がっており、左腰には袋がつけられている。矢筒や弓はどこにあるのだろうか。謎だ。
「………何か?」
さりげなく観察しているつもりだったのだが、少女からしてみればバレバレだったようで、眉をひそめてとても不機嫌そうな顔で聞いてきた。声も先程よりさらにトーンが落ちている。完璧に不審者を見たときの反応だ。
「あ、いや、何でもないです。すみません」
肝が冷えるのを感じ、俺は今度こそ少女を観察するのをやめて話に集中する。
少女は瞑目して大きなため息をついたあと、気を取り直して、
「………まあいいです。それより、聞きたいことがあるんですが」
心なしか、彼女の態度がワンランクダウンした気がするが、自業自得なので割り切る。
そして、
「怒れる王者熊を討伐したのは、あなた方ですか?」
予想だにしていなかった質問を投げ掛けられた。
俺は彼女の顔を改めて見る。そこには先程までの感情は見受けられず、ただただこちらの胸の内を探るような、真意を見定めようとするような目で俺を見ている。
どうやら確信を持っているわけではないみたいだ。多分だが、カマをかけているのだろう。
問題は、俺が倒したのがわかった場合どうなるかである。
ただの勘でしかないが、面倒になりそうな気がする。
だがシラを切るにしても、上手い言い訳をしないと墓穴を掘ってしまう。
さて、どうしたものか…
俺が何か上手い言い訳はないか考えていると、
「………ちなみに、今した質問に深い意味があるわけではありません。私としては、今このダンジョン内に対象がいるかいないか、それがわかればいいので」
少女は真剣な表情を消し面倒くさそうな顔をして、そう付け加えた。
「…そうですか。申し訳ないですが自分たちは見てないですね」
どうやら見たか見てないかが重要らしい。倒しちゃいけないとかの理由じゃなくてよかった。
だが、目立ったり目をつけられたりするのは嫌なので嘘をついておく。
「………そうですか」
俺の言葉を受け、少女は少し考えるようなそぶりを見せたが、最終的にはそう答えた。
「………ではついでに、一つお願いをしてもよろしいですか?」
「あ、はい、なんでしょう」
どうしよう、俺にできることならいいんだが。
彼女はこちらに頭を下げて、
「どうか出口まで連れていってください」
想定外かつとても難しいお願いをしてきた。
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「………あなたたちは、なぜ…いや、どうして…というか………いえ、何でもありません…」
正直に出口がわからないことを告げると、彼女は最初何を言ってるのかわからないといった顔をした後、俺の言葉を理解して、信じられないというような顔になった後、俺とルーナを交互に何度か見て、大きなため息の後にそう言った。
「いやまあちょっと事情がありまして…」
曖昧に言葉を濁す。本当の事を言っても信じてもらえるはずがないからな。
「………まあいいです。私は道はわかるので、道案内をします。お二人は出てきたモンスターの対処をお願いしたいのですが」
聞くところによると、彼女は先程モンスターの大群に囲まれ、どうにか全滅させたはいいものの矢を切らしてしまったらしい。
「………それにしても、普通は地図くらいは用意すると思うのですが………」
少女は微妙な目でこちらを見る。遠回しに「お前頭おかしいの?」と言われている気分だ。
「いやだってさあ!目が覚めたらいきなり真っ暗でわけわかんない場所でわけわかんない服着てて、脱出しようとしたらわけわかんない女の子に出会ってわけわかんない化け物に襲われて!地図どころの話じゃねえよ!」
と、言いたかったがぐっと堪える。今よりも冷たい目で見られること間違いなしだ。
「………その上、武器や防具はおろか探索に必要な装備品や食料すら持ってない始末………もしかして自殺志願者ですか?」
なんだこの娘、何でこんなに傷を抉ってくるんだ。もうやめて!俺のLPはもう0だよ!
俺が内心で悶えていると、マップに赤い点が突如現れた。
「………あなた方にどんな事情があるか知りませんが、自殺したいのなら他の方法にしてください。いかに『迷宮魔核結晶』がないから『魔宮迷路化』が起きないダンジョンと言えど、ダンジョン内で死なれると非常に面倒なことに…」
「待て、モンスターだ」
俺は彼女の説教を遮り、二人を庇うように一歩前に出る。
「………え、そんな、さっき全部倒したのに………?」
少女、ソフィーティアが後ろで何か言っているがそれはさておき、彼女が戦えない以上俺が一人でどうにかせねばなるまい。
幸い、マップに映っている光点は一つだけだ。サクッと倒してしまおう。
そう思い螺旋爆裂弾を発動しようとしたが、急にとても嫌な予感がした。
何だ、この感じ…?
『スキル・第七感が発動しました。予想される危機に備えてください』
表示されたメッセージの意味を理解した瞬間、咄嗟に魔術結界を発動する。
半透明のドームが俺たち三人を包み込み、一瞬遅れて何かが結界に当たって弾けた。
パァン、と結構大きな音を立て、結界が振動する。しかし結界が破れる様子はない。結界の展開が間に合ったことと、強度が足りていることにほっとする。
しかし安堵したのも束の間、第二弾、三弾と次々に敵の攻撃が飛んでくる。まだまだ結界が破れる様子はないが、代わりに飛来する敵の攻撃も全く見えない。
「………この攻撃は、トレントですね」
後ろでソフィーティアがポツリといった。
「トレント?」
「………見た目が木にそっくりで、近づいたものは蔓で巻き取って精気を吸い、遠くにいるものには当たると弾ける木の実を飛ばして攻撃するモンスターです」
木の実の攻撃は意外と激しく、一向に緩まる気配がない。
「対処法とかは?」
「………盾役が攻撃を防いでいる間に火炎魔術で焼き払うのが一般的ですが」
火炎魔術か…スキルポイントが残っていればとれたんだが…
あと火に関するスキルといったら『種火』くらいしかない。
そうだ!『種火』をスキルカスタムすればいいんじゃないか?
俺はスキルカスタム画面を開いてみる。
しかし『種火』はあったのだが文字がグレーになっていて選択できない。なんでやねん!
『カスタム条件を満たしていません。該当スキルをあと一回以上使用してください』
俺の心の声に反応したのか、突っ込みを入れた瞬間にメッセージが表示された。
お、おおう…すんません…。
何となく心の中で謝りながら、『種火』を唱える。
「種火」
すると、右手の人差し指にライターくらいの大きさの火が灯った。
しょぼっ!しょっっっっぼっ!!なにこれ!
あまりのしょぼさに愕然とする。いや確かにどう見てもチャ〇カマンですとか言ったけど…
…まあいい。本番はここからだ。
もう一度スキルカスタム画面を開き、『種火』を選択する。
『スキル・魔術弾〈初級〉と融合が可能です。
融合後↓
・火属性炸裂式範囲制圧型魔術【紅蓮爆炎】』
融合だと…いかにも強そうだ。他に選択肢もないみたいだし、これにしよう。
確認が出たので決定を押し、早速発動する。
「紅蓮爆炎」
ゴウッ、という空気が燃える音と共に、俺の右手に大きさが魔術弾と同じくらいの真っ赤な火の玉が出現した。燃えたぎる炎がギュルギュルと渦を巻いている。
あかん。これめっちゃ強そうやんけ。
しかしこのままだと結界が邪魔で投げることができない。
なのでまず、『瞬歩』で後ろに移動し、結界の外に出る。
このスキルは、物理的な障害物以外はすり抜けられる性質を持っているのでこういうとき便利だ。
ソフィーティアがキョロキョロしている。何故だろうか?
とりあえず彼女は置いといて、その場で軽く跳躍し、大体の狙いをつけて『紅蓮爆炎』を放つ。
火の玉は結構な速度で飛んでゆき、うっすらと見えた木のようなものに着弾。
その瞬間、大きな音と共に大爆発を巻き起こした。
50メートルほど離れたこの場所まで、炎が放つ光と熱風が押し寄せてくる。
………あかん。これはあかんで。
マップの光点は一瞬にして消滅した。これ本当に初級魔術と生活魔術を合わせた魔術の威力なのか?
とりあえず、敵はもういないみたいなので結界を解除し、二人に声をかける。
「怪我とかありませんか?」
「………あ、ええと、はい………」
ソフィーティアはトレントがいた方と俺を交互に見ながら信じられないというような顔で生返事を返す。
ルーナはいつも通りである。
と思いきや、
「……おなかへった……」
小さな声で呟くと、きゅるるるる、とお腹が鳴った。かわいい。
じゃない、忘れてた。
「すいません、何か食料をお持ちではないですか?もしよかったら少し分けていただきたいのですが…」
俺が恐る恐る訪ねてみると、
「………そうですね、私もあなた方にギルドでの依頼に近いお願いをしているわけですし。あまり多くはありませんが、それでもよければ」
渋る様子もなく、快諾してくれた。
「………次のフロアに短時間なら休息を取れる場所があります。なのでそこまで待ってください。ここはまたいつモンスターが出てくるかわからないので、そこに着いたら一旦休憩をとりましょう」
「わかりました、ありがとうございます」
礼を言い、ソフィーティアが歩き出した後についていく。
異世界転生モノの相場では大体飯には期待できないと決まっているが、まあ食えればいいだろう。
お久し振りです。もはや一ヶ月に一本のペースが染み付いてしまいました。内容はぺらっぺらなのですが。
それはさておき第九話、新たなメインヒロイン候補であるソフィーティアちゃんの登場です。が、正式加入はまだなので彼女の属性には触れないでおきます。
次回の話は色々な設定を主人公とソフィーティアちゃんの質疑応答形式でわかりやすく解説するつもりです。スキルやら世界観やらシステムやら人物の強さなどなど。こんがらがってしまう前に整理する予定です。
それと最近、執筆形態について悩んでいます。このまま時間がかかっても毎話4000~5000文字のペースでいくか、短くてもいいからちょこちょこできるだけ早いペースで更新するか。ご要望がもしあれば従いたいと思います。
あと、またまた感想を頂きました。たった八話で
3つも感想を頂けるとは思ってなかったのでとてもめちゃんこ嬉しいです。ご意見ご感想引き続きお待ちしております。