第八話 新たな遭遇者
間が空いてすみません。なかなか上手く書けず何度も書き直しをしていました。筆力が欲しい…
ルーナを抱えて歩きながら出口を探す。
だが、先程と同じく、扉らしきものはどこにもない。
マップをを確認してみてもやはり見つからない。
となると残るは落ちてきた穴だが、天井まではとても遠く、到底届きそうにない。もしや八方塞がりか?
ぐぅうぅ。俺の腹がなる。それに呼応したように
「おなかへった」
ルーナがぽつりと呟いた。
実に困ったことになった。出口を探すにしても食料を探すにしてもとりあえずこの部屋を出ることができないとこのままでは餓死してしまう。なんとかしないと…
俺は何か使えるものはないか『スキル』をもう一度再確認する。
すると、『探求者の心得』が点滅していた。
疑問に思い注視してみると、『カスタマイズが可能です』と表示された。
マッピング機能の向上は今一番大事なことなので俺は期待しながらカスタム画面を開く。
項目は3つ。『画面の拡大・縮小』『詳細表示』『未探索領域の表示』だった。
現状打破に繋がるかもしれないので、全部にチェックを入れる。
すると、マップの表示が変わり、右上に『古代の遺跡跡 B11』と表示され、今まで部屋の大きさと自分とルーナしか表示されていなかったのが、壁や瓦礫や宝箱なども表示されるようになった。
これは地味にかなり便利だ。
だがやはり、現状打破に直結はしなかったか…
すこし残念に思いながらマップを眺めていると、壁が不自然に途切れている箇所があった。
ん?なんだこれ?
マップを拡大してみると、そこだけ壁を表すグレーの線が途切れている。
もしや穴でも空いているのか?
とりあえずその場所へ向かってみる。
「このへんか…」
しかしそこには普通に壁があるだけだった。
だが、何か違和感を感じる。
近づいてよく見てみると、壁にわずかな凹みがあった。
さらに、かすかに線のようなものが2本、縦に真っ直ぐ天井から床まで走っている。
線と線の間隔は三メートルほどあり、その中心にへこみがある感じだ。
もしかしてこれは…
『オブサーバーズアイが発動しました。隠し扉を発見しました』
やっぱりか。というかもう隠し扉を発見できるのか、便利すぎるな…
しかしどうやって開けるんだろうか?
とりあえず押してみたが、動く気配はない。
うーむ、このくぼみが何か意味がありそうだが…考えるのがめんどくさい。破壊してしまおうか?
俺はルーナをいったん降ろし螺旋爆裂弾を発動する。あんまり強すぎると崩落してしまうかもしれないので威力を控えめにして壁にぶつけてみた。
何発か必要かと思ったが、一発目で簡単に壁は破壊できた。
線が走っていた位置に沿ってきれいに壁がくずれる。
壁が崩れた先には通路があり、通路の奥には上に続いている階段があった。
通路は今までと同じく土壁だが、階段からは高さも形も揃った石段で、壁や天井も石でできており所々に紋様が刻まれていた。
さらに、左右の壁に宝石のようなものが一定間隔で埋め込まれていて、照明みたいに鈍い光を放っている。
明らかに人の手が加わっている、人工的な通路だ。
(よし…!)
ようやく脱出に少し近づけたことに、歓喜と安堵を感じる。
一層がどれだけ広いかはわからないが、これで残りの階層はあと10だ。最低でも餓死は免れるだろう。
俺はルーナを再び抱き上げ、階段を上った。
ー※ー※ー※ー
階段を上りきった先は、大きめの部屋だった。
階段と同じく壁には光る宝石があるが、結構広いためやや薄暗い。
とりあえずマップを開いてみる。
どうやらこの階層は部屋が六つあるようだ。部屋の大きさは全て同じくらいで、今いる部屋から通路を挟んで一方通行になっている。
部屋の並びは縦に3つ、横に2つで、それらが全て一本の通路で繋がっている感じだ。直角的な「S」の字を描いていると言えば分かりやすいだろうか?
今いる部屋がSの字の一番左下で、2部屋目から3部屋目への通路が左に2回折れ曲がって繋がっており、逆に4部屋目から5部屋目への通路は右に2回折れ曲がって繋がっている。
ちなみに現在地は明るい白で表示されているが、それ以外の部屋や通路は全てグレーで表示されている。まだ探索してないからだろう。
しかし、部屋の数やフロアの構造がわかるだけでも十分すぎるほどありがたい。
俺は早速フロアの探索を始めようとして、
「…ん?」
マップに赤い点が存在することに気がついた。
見れば、赤い点は部屋の隅の薄暗いところにあり、肉眼では見えづらい場所にある。
俺はマップから目を離し、そちらを見る。
大体30メートルほど離れた位置に、赤く光る何かが2つ、宙に浮いていた。
…なんだありゃ?
そのままじっと見つめていると、
―――――――――――
モンスター:グレイウルフ
ランク:F
レベル:2
―――――――――――
という表示が出た。
うわ、モンスターか!
赤い点はどうやらモンスターの眼のようだ。
俺がモタモタしている間にグレイウルフはどんどん近づいてくる。
「うわ、うわ」
俺は慌ててルーナを下ろし、急いで結界をルーナにかけて、螺旋爆裂弾を発動する。
しかし、グレイウルフのスピードは速く、もうすぐ近くまで来ていた。
グレイウルフが飛びかかってくる。
「っ、このっ!」
螺旋爆裂弾を投げるのは無理だと判断し、代わりに下からかちあげるように掌底を放つ。
「ぐっ!」
ガリッ、と顔の横をわずかに爪がかすったが、グレイウルフは螺旋爆裂弾を直にくらい頭が消し飛んだ。
慣性のままにに吹き飛んだあと、地面に落ちて光の粒子になり消滅する。
「っふう…」
危なかった。もうすこしスピードの速いモンスターだったら間違いなく攻撃をもろに食らっていただろう。
『アビリティ:マジックアーツを習得しました。マーシャルアーツテクニックのレベルが上がりました。スキル:クロスカウンターを習得しました。』
また新しいスキルとアビリティを覚えた。どんどん増えていくな…
マジックアーツは魔術を使った物理攻撃ができるみたいだ。そのうち炎の拳とか使えるんだろうか。なんにせよ攻撃手段が増えるのはいいことだ。
一息つき、マップを確認する。
どうやらこれ以上この部屋にモンスターはいないようだな。
よし、次の部屋に進むか。
俺は結界を解除し、ルーナを抱き上げようとしたら、
「ほっぺた」
ルーナにそんなことを言われた。
ん?なんだ?
「けがしてる」
ああ、さっきかすった攻撃か。でもまあ大したことないし大丈夫だろう。
俺個人としてはそう思ったのだが、
「だめ」
彼女的にはそうでないらしく、却下された。
「治してあげる」
そう言って、俺の頬に手を伸ばす。
まさか回復スキルが使えるのか?だとしたらこれで回復スキルも覚えられるな。
そんな俺の目論見は、
「いたいのいたいの、とんでけ」
無感情な声と共に頭を引き寄せられ、押し付けられた柔らかな感触によって阻まれた。
同時に、思考も停止する。
視界を完全に埋めている壮大な山脈、未知の柔らかさ。甘酸っぱい匂い。
いわゆる、「ぱふぱふ」である。
「………!?」
自分のされている行為にようやく気づいた俺は、慌てて顔を引き剥がそうとするが、逆にもう一本の腕でがっちりホールドされてしまった。
より強くおっぱいに顔を押し付けられ、呼吸が苦しくなる。
両腕で頭を抱きしめ、抱え込んでいる状態なので顔を離すのは無理だと考え、手で胸を押し上げると同時に顔を下に一気に引き抜いた。
「んっ」
ルーナが声を漏らす。幸せ窒息から解放された俺は大きく息を吸い込み、
「いきなり何すんだ!」
精一杯の声で怒鳴った。
しかしルーナは何も分かってなさそうな顔で、
「治してあげようとしたのに」
ぽつりと呟いた。
「いやいやいや、今の行為のどこが治そうとしてたんだよ!」
「だって、エリムはいつもこうしてくれたわ」
誰やねんそれ!
聞いてみると、エリムというのは彼女の家に昔からいるメイドで、彼女が小さな怪我などをしたときにいつも今みたいなことをして治してくれたらしい。
「わたしもやってみたかったのに」
「頼むから勘弁してくれ…」
俺は疲れきった声で彼女に告げる。
「だれかにやってあげるの、はじめてだったのに」
ルーナはちょっと拗ねたような顔をしている。
「それに、痛かったわ」
ルーナが胸を押さえて咎めるような口調で言う。それについては謝ろうと思ったが、
「わたし、はじめてだったのに、乱暴されたわ」
「変な言い方するな!別の表現を考えろ!」
「わたしのはじめて、リュージに奪われたわ」
「余計ひどくなってんだろ!人に聞かれたら間違いなく誤解されるわ!なんでそんなにやばい単語をピンポイントに選ぶんだよ!お前わざとやってんだろ!」
「リュージ、うるさい」
「え、ええぇぇ~…?俺が悪いのか…?」
こんなことを言われる始末である。
「はぁ…もういいよ…行くぞ…」
一気に疲れが増した体を引きずるようにして歩き出そうとしたが、
「ほっぺた」
「いや、だからもういいって!」
「治ってる」
「え?」
触って確認してみると、確かに傷が消えていた。本当に治ったのか?んなバカな。
ルーナを見ると、ちょっとドヤ顔をしていた。マジかよ。
メッセージログを確認してみると、『癒しの抱擁を習得しました』と書いてある。え、習得?疑問に思いスキルを見てみると、
―――――――――――
スキル:癒しの抱擁Lv1<new!!>
効果:異性から抱擁を受けると傷が治る。効果は長時間触れているほど上がる。同一人物に連続で使用すると回復率が下がる。
回復率:100%
―――――――――――
…………いやいやいやいや…………
あまりにも突っ込み所の多いスキルに文句を言う気も失せる。どこの誰が作ったんだよ…
―※―※―※―
次の部屋に進む。
またまたマップに赤い点が表示されている。今度は3つほどで、わりと近い位置だ。
モンスターは全てさっきと同じグレイウルフで、近づかれると非常に厄介だと思ったので気づかれないうちに先頭準備を終え、不意討ちで螺旋爆裂弾を発動し放った。
一匹目と二匹目は気付かずに直撃を受け光の粒子となったが、3匹目は流石に気づいたのか回避された。
しかし、問題はない。
念のため発動しておいた二発目の螺旋爆裂弾を先程と同じように飛びかかってきたグレイウルフに至近距離で叩き込む。
アビリティのおかげか、今度はちゃんとカウンターに成功し、無傷で倒すことができた。
「よし…」
三体くらいなら問題はないな。
マップをもう一度確認してモンスターがいないことを確認し、歩き出そうとしたら、
「お?」
三匹目のグレイウルフが消えた位置に何か落ちていた。近づいてみると靴のようだ。
―――――――――――
装備:灰色狼の靴
レアリティ:普通
効果:装備者のAGLが5上昇する。
―――――――――――
うーむ、いかにも序盤の装備っぽいな。だがルーナに履かせるためにとっておくか。
俺は靴を『アイテム』にしまい、次の部屋に進む。
途中グレイウルフが何匹か出現したが、近づかれる前に螺旋爆裂弾で倒した。
次の部屋では新たなモンスターが登場した。
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モンスター:ゴールデン・ラット
ランク:C
レベル:7
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大きさは普通の鼠と同じだが、全身が金色に光っているそいつは俺を見るなり逃げ出した。
「ってい!」
反射的に螺旋爆裂弾を発動し、投げつける。
直撃はしなかったものの、炸裂した衝撃波に巻き込まれあっけなく消滅した。弱っ。
ゴールデンラットは何かを落としたので拾ってみる。金ぴかの石みたいだ。
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アイテム:黄金の魔鼠石
レアリティ:B
説明:ゴールデン・ラットがごくまれに落とす魔石。保有魔力が少ないため魔道具の作成等には使えないが、衣類の装飾などにはとても重宝されるため、高値で取引されている。
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説明を見る限り、なかなかのレアアイテムのようだ。ここから出れても金がないからどうしようと考えていたのだが、とりあえずの金策の種が見つかったことに少々安堵する。
魔石を『アイテム』にしまい、探索を再開する。
4部屋目にはテントのようなものがあった。人に会えるかもしれないと急ぎ足で向かう。
しかし、中は無人だった。
テントの中はいたるところに蜘蛛の巣のようなものが張り巡っており、埃がつもっていた。
どうやら何らかの事情があって放置していったみたいだな。
何か使えそうなものがないか探す。寝袋のようなものや緑色の液体の入った瓶が数本、巻物、ローブ、革の鎧一式、謎の粉の入った皮袋が2つ、先端にフックのついた縄、タオルのような布などが散乱している。流石に食料はないか…
瓶を拾って注視してみると『低位回復薬』と出たので全部拾っておく。巻物は『風属性初級魔術・真空風刃』とある。巻物を読んだら魔術が発動するのか?とりあえず『アイテム』に入れておく。
2つの皮袋のうち、一つ目の袋の謎の粉は『月涙樹の粉薬』という身体系の状態異常を全て解除するアイテムで、2つ目の袋の『マンドラゴラの粉薬』は飲むと元気を回復するアイテムらしい。一応2つとも『アイテム』に入れておく。
その他のものも全部『アイテム』に収納した。いつどんなものが必要になるかわからない以上、拾えるものは全部拾っておくことにした。『アイテム』にまだ余裕もあるみたいだし。
寝袋とタオルに『洗掃』をかける。いつまでもルーナを裸足でいさせるわけにはいかないので寝袋に座らせ、足を『流泉』で出した水で洗い、タオルもどきの布で拭く。なんの警戒心もなく無防備に足をあげるためパンツが丸見えだが、気合でスルーする。
『アイテム』から取り出した靴を履かせて、準備を完了する。素足に靴は違和感があるだろうが、少しの間我慢してもらおう。
その後も特に問題なく、フロアの探索は続いた。
ちなみに敵の数が増えてきたので、今ルーナには自分の足で歩いてもらっている。
戦闘にも徐々に慣れてきた。今ではグレイウルフ
が四匹いても問題なくノーダメで倒せるようになった。
かわりに新しい発見やめぼしい拾得物もないが、とりあえず今は脱出が先なのでさっさと進む。
そして、最後の部屋の、上のフロアに続く階段についた。
ここまでかかった時間は体感で一時間くらいだろうか。残るフロアはあと9階…少しきついな。俺はまだ行けるが、ルーナの体力が心配だ。未だに食料的なものが見つかってないのも辛い。
せめて次のフロアがあまり広くないことを祈りつつ、階段を上る。
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9階はとても広い部屋だった。
ルーナと出会った部屋の二倍以上の大きさで、所々に高さ三メートル、直径60センチくらいの円筒状の柱がたっている。
部屋が一つしかないのが不幸中の幸いだ。広いとはいえ、階段まで直行できる。ただモンスターがどれくらいいるかによって、さっさと進むか慎重に進むか判断した方がよさそうだ。
俺は見える範囲にモンスターがいないことを確認し、マップを開いてみる。
しかし、モンスターを表す点はひとつたりともなかった。
かわりに、俺たちと同じ人間を表す点が一つ、近くの柱の上に存在している。
俺はその柱の上に視線を移した。
そして、一人の少女と目が合う。
薄暗い部屋のなかでも美しく輝く、長い金髪の少女だ。年は俺やルーナと同じくらいだろうか。柱の縁に片膝を立てて座り、とても退屈そうな顔をして、冷めた目付きでこちらを見下ろしている。
ちなみに、彼女は短いスカートのようなものをはいているので、俺の位置と角度からは白いパンツがばっちりと見えている。
…この世界の女の子は皆、何故こんなにガードが甘いんだろうか。何だか不安だ。