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勇者(ピエロ)は神の掌で踊る  作者: 愚道の探求者
勇者は試練に放り込まれる
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第十話 ラッキースケベ〈前編〉

あれからさしたる出来事もなく、無事に次の階層へたどり着いた。


階段を上がると、そこは最初に目覚めた部屋くらいの大きさで、部屋の中央には腰ほどの高さの台座があり、その上に直径30センチくらいの水晶玉が乗っていた。


なんだこれ?


「………この部屋には特別な結界が張ってあり、魔物は入ってこれません。ここで休息をとりましょう」


俺より先に入っていたソフィーティアがそう言い、


万納(アイテムボックス)


虚空に穴を開け、その中からレジャーシートのようなものと皮袋を取り出した。


万納はそのまんまだな。生活魔法と書いてあるくらいだから誰でも使えるのか。


あれ?となると『アイテム』は一体何なんだ?機能が被っている気がするが…


「………あの、すみません」


物思いに耽っていると、控えめな声がかけられた。


見ると、レジャーシートのようなものの上にパンや干し肉や飲み物っぽいものが並べられ、ソフィーティアとルーナが座ってこちらを見ていた。


ルーナのお腹が鳴っている。俺は「すまん」と謝り、慌てて席に着く。


「………あまり贅沢なものではないですが」


そう言ってソフィーティアは食べ物を勧めてくる。


礼を言い、俺はあまり食べ過ぎないように食事を始めた。元々量がそんなに多くないし、ルーナがもし大食いだったら申し訳ないからな。




―※―※―※―※―※―※―※―




あらかた食事が終わったところで今更だがソフィーティアとも自己紹介をした。ちなみにの味は普通だった。俺があまり食に興味がないからかもしれんが。

あとルーナは意外と大食いだった。ソフィアに悪いので月涙樹の粉末を渡しておく。


「そう言えば聞きたいことがあるんだが」


食ったあと直ぐに動くのはよくないとのことで腹休めの最中、手持ち無沙汰なのでソフィアに質問をしてみることにする。自己紹介が終わった後、彼女の方から「………ソフィアと呼んで下さい。敬語も要りません」と言われたので今はため口である。


ちなみに俺は記憶喪失でこのダンジョンで目覚め、ルーナとはついさっき出会ったことにしてある。我ながら杜撰で稚拙な設定であるが、他に思い付かなかったし考える暇もなかったしほぼ真実なのでしょうがない。ソフィアはかなり怪しんでいる様子だったが、追及はなかった。


「………何でしょうか」


後片付けを終えたソフィアがこちらに向き直る。


俺はまず何から聞くべきか考え、


「さっき言っていた『迷宮魔核結晶(ダンジョン・コア)』とか『魔窟迷宮化ランダミング・シャッフル』って一体何の事だ?」


先程気になったワードを聞いてみる。ソフィアは「………そう言えば記憶喪失でしたね」と呟き、


「………『迷宮魔核結晶』とはその名の通り、魔物と化した迷宮、『混沌魔窟(カオス・ダンジョン)』と呼ばれるダンジョンに存在する結晶です」


「魔物と化したダンジョン?それってダンジョンそのものが魔物ってことか?」


「………はい」


「その結晶を壊した場合はどうなるんだ?

まさかその時点で崩落するとかないだろうな」


「………流石にそれはありません。『魔宮迷路化』が起きなくなり、出現するモンスターが減るくらいです」


「『魔宮迷路化』っていうのは?」


「………『混沌魔窟』に起こる現象で、ダンジョン内の構造や出現するモンスターが変化します」


「それは文字通りのランダムなのか?中にいる奴はどうなる?」


「………文字通りのランダムです。ダンジョン内にモンスター以外の生物がいるときは起きないことが確認されています」


それなんて不〇議のダンジョン?


「『混沌魔窟』はどれくらいあるんだ?」


「………確認されているだけでも100以上はありますね」


「『混沌魔窟』は普通のダンジョンと比べてモンスターが多いのか?」


「………多いだけでなく、一度倒したモンスターの復活も早い上に普通の個体よりも強力な「フロアボス」や、『迷宮魔核結晶』を守る非常に強力な「ダンジョンボス」なども出現します」


「そいつらは外に出てきたりはしないのか?」


「………ボスは出てきませんが、通常の個体は稀に出てきます。人里を襲うこともあります」


「『迷宮魔核結晶』を壊したりはしないのか?」


「………そういうわけにもいきません。『迷宮魔核結晶』は破壊されると時間の経過と共に場所を変えてより強力になって復活します。転移すると再び発見するのに時間がかかり、通常の個体を含む全てのモンスターが強化されます。すると…」


「…人里が被害に遭う確率が上がる、か?」


「………その通りです。それに、『混沌魔窟』は悪いことばかりでもありません。利点もそれなりにあります。その一つが『宝箱』と呼ばれる存在す」


「宝箱?」


「『宝箱』もその名の通り中にアイテムの入った箱の事です。詳しい事はまだ解明されていませんが、『魔宮迷路化』が起きた後探索をすると、『魔宮迷路化』が起きる前には確かになかった箱が出現することがあるそうです」


ますます不思〇のダンジョンじゃねえか…


「…じゃあ、それを目当てにダンジョンに潜る奴もいるのか?」


「………そういった人達は『探索者』と呼ばれています。『探索者』は一つの国に十万人ほどおり、ここファルティアス国では雇用形態や仕事の斡旋率の安定、各種保障制度の普及、分業による新法案の整備等もあって今では一つの職業として確立されています」


なんかいきなり難しそうな話が出てきたぞ。


「…お、おおう…なんかよくわからんけどすげーんだな」


そう言うとソフィアは露骨にため息をついた。


「………一生懸命説明したのがバカらしくなりました」


「すまん、真面目に聞いてはいたんだが、何せ頭の出来が悪いもので」


「………もういいです、さっさと先に進みましょう」


ソフィアはそう言って、宣言通りさっさと準備を済ませて歩き出してしまった。申し訳なさでいっぱいである。





―※―※―※―※―※―※―※―





上の階層に進むに連れて、モンスターはどんどん弱くなっていく。


5階層に辿り着いた頃には、群体で吸血攻撃を仕掛けてくる『黒蝙蝠(ブラック・バット)』以外は素手で倒せる程になっていた。


『黒蝙蝠』も、螺旋爆裂弾一発でまるごとまとめて消滅させられる。


「さっきの話の続きなんだが、『探索者』以外にモンスターを討伐する団体や組織はないのか?『探索者』はモンスターを倒すのが専門なわけではないんだろ?」


「………一応あります」


機嫌を損ねたのか、あれからソフィアは極端に口数が減ってしまった。こちらを見ようともしない。


そんなに怒るようなことだろうか…


「じゃあそれとはまた別に、人間同士のトラブルや犯罪を取り締まる組織があったりするのか?それともかなり大きな秩序を守る組織なんかがあって、そこの管轄毎に分かれてたりするのか?」


俺の問いにソフィアは少し驚いたように振り向き、


「………まるで知っているかのような聞き方ですね」


少しじとっとした目を向けてきた。


「いやいや、少し考えてみれば行き着くだろ」


ソフィアの疑惑の眼差しに俺はそう答える。『探索者』だけでモンスターの増加・侵攻に対応しきれるわけがないし、そんな荒事の多そうな仕事で揉め事や問題が起きないわけがない。となれば、練度がどのくらいかはさておき、警察や軍にあたる組織があって然るべきだろう。ファンタジーの定番としては国軍や騎士団とかが妥当な線だ。漫画やラノベでもよくある設定だしな。


「………確かにあなたの言うとおり、モンスターと他国の脅威に対抗するための王国軍と国内の問題に対応するための王立騎士団、そして地区毎に自警団があります。ですが…」


「ですが?」


「………いえ、何でもありません。それよりも、貴方のことについてですが」


「俺のこと?」


露骨な話題逸らしが非常に気になる。しかし、今は何を聞かれるかの方が重要だ。


俺の予想が正しければ、こういうとき聞かれる内容はほぼ決まっている。


「………貴方は、その娘と付き合っているのですか?」


おそらく、俺の使った魔術について…




「………は?」


今何て言った?


「………ですから、貴方とルーナさんは交際されているのですかと聞きました」


「…え?お、おおう…?」


俺は思わず首をひねる。何故今ここで、俺に彼女がいるかどうかを聞かれている、その意味と理由がわからない。


ソフィアはじっと俺を見ている。どうやら冗談ではなく、本気のようだ。


なんとなく気まずいので視線を逸らすと、今度はルーナと目があった。彼女もじっと俺を見つめている。


二人の美少女にひたすら見つめられ、どうしたらいいかわからず途方に暮れる俺。



なんだこれ…



「………冗談です」


俺がおろおろしているとソフィアは腕を組み、小さく息をはいてそう言った。


なんだかまた俺の株が下がった気がする…


「………では本題ですが。貴方の使っている魔術は、元から使えたものですか?」


そして、さらっと俺が警戒していた質問を投げ掛けてきた。


「いやわからん。起きたらなんか使えた」


なんか真面目に考えるのもばからしくなったのでこちらもさらっと答える。


「………はぁ………どうやら貴方は知らないか、わかってないかのようですが。貴方が使った魔術は全て、今現在確認されてない魔術です」


ソフィアは額に手を当て、やや顔をしかめて気だるそうに言う。


やっぱりそういうパターンか。んでなんだかんだで持て囃されて、色々あって美少女との出会いやイベントもあってハーレムルートとか突入しちゃう流れか!ついに俺の人生にもモテ期キタコレ!



俺が内心でガッツポーズを連発していると、


「………何をニヤニヤしているのですか。下手したら………いえ、何でもないです」


ソフィアは何か言いかけたが、またもや言葉を濁した。さっきから一体何なんだ?


「おい、言いたいことがあるならはっきり言えよ」


そう言ってもソフィアは「………別にありません」としか言わず、再び会話が途切れてしまった。


…俺以外誰も喋らないからすごい気まずいんだけど…


仕方ないので、ちょっと気になったことを試してみる。


俺はソフィアの後ろ姿をじっと見つめてみた。


しかし、怒れる王者熊の時のような詳細なステータスは出てこない。


あいつの時だけ詳しく表示されたのは何故だろうか?何か条件でもあるのか…


―――――――――――――――

ソフィーティア・クレイドル

Lv:21

種族:翼人族

職業:アーチャー

クラス:C

ギルド:黒翼の大鷹

HP:164/173

MP:128/128

STR:95

VIT:68

INT:107

RES:134

DEX:196

AGL:97

LUK:58

スキル:風読み

鷹の目

速射

魔光矢・火華烙妖(ひからくよう)

―――――――――――――――



と思ったらいきなり表示された。さっきから俺の心を読んでるとしか思えないタイミングだな…


つか、レベルの割には意外とステータスは低い。いや、俺が高いのか?


つーか翼人族ってなんだ?見る限りは翼なんか生えてないが…収納でもしているのだろうか。そして魔光矢とは一体…すげー強そう。


ついでにそのままルーナを見てみる。


――――――――――――――――

グラエルーナ・ディラモンド

Lv:?

種族:?

クラス:?

ランク: ?

HP: ?

MP: ?

STR:?

VIT: ?

INT: ?

RES:?

DEX:?

AGL:?

LUK: ?

スキル:???

???

???

――――――――――――――――


なんじゃこりゃ。ほとんど不明ってどういうことだ?


不思議そうに首をかしげてこちらを見つめているルーナ。こいつは一体何者なんだろうか。


改めて、事態の深刻な不可解さに気が滅入る。わからないことが多すぎてほんとめんどくさい…


俺が深々とため息をつくと、いきなりピコンピコンという音がした。


うお、なんだ?


『特殊個体の敵勢反応が接近中です。迎撃準備をして下さい』





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