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ツインテール

作者: 枝津切悠

 私が何故、高校生にもなってツインテールなんて子どもっぽい髪型をしているのかを語ろうではないか。

 それは私が幼い頃、とある男の子に言われた言葉がきっかけだ。

 いつもはお母さんが髪を結ってくれるのだが、その日は自分で結んでみた。

 確かアニメか何かのキャラクターの真似をしてみたのだと思うが、詳しくは覚えていない。

 子供心にその髪型が可愛いと思ったのだろう。覚えていないが。本当に本当に覚えていないが。

 そんな訳で私は自分で髪を結び、そしていつものように男の子の家に遊びに出かけた。ルンルン気分で出かけた気がする。早く男の子にこの髪型を見せたかった様な気もする。

 自分で決めて──そして自分で結った髪型を見て、男の子はどんな反応をするのだろうか──なんて事を考えてたんだろうなぁと、今となっては思うのだけど。

 まぁそんな訳で、一刻も早くこの髪型を見て欲しかった私は、いつものように男の子の家の扉を開ける。

「おじゃましまーすっ」

 鍵など勿論かかってない。男の子の家は常時開放型なのだ。

──とは言っても、毎日遊びにくる私が来る事を見越して、おばさんが開けていてくれてたのだろう。

 私の挨拶が聞こえたらしく、ドタバタと二階から降りてくる男の子。そして私の姿を見た彼はこう言った。

「うわっ、なんだそれ可愛いな。紗姫ちゃんその髪型超可愛いな」

──そう、これだ。

 この言葉がきっかけなのだ。

 そしてその時の私の心情は──確かこんな感じ。

『褒めてくれてた褒めてくれた褒めてくれた!可愛いって言ってくれた可愛いって言ってくれた可愛いって言ってくれた!嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!』

──自分で可愛いと思って決めた髪型を褒められて、それはそれはもう心底嬉しかったのだ。その場で踊りだしたいくらいだった。

 だけど実際に言った言葉は──確かこんな感じ。

「ふ、ふんっ。別に普通でしょ、ふつう」

 か、可愛くない……。なんで私は昔から、こう素直じゃないのだろうか……。

「いやー、普通じゃないよ。普通じゃない可愛さだよ。うーん、なんだろう……もう紗姫ちゃんはその髪型にする為に生まれてきたのかと思う程似合ってるよ」

 私が照れて可愛くない態度をとっても、男の子は怯まない。滅茶苦茶褒めてくる。

 うーん……こいつもこいつで、なんで昔からこうゆう事を平気な顔で言えるのだろうか。

 素直じゃない私と、素直過ぎる男の子。対照的だなぁ……。

「ふ、ふんっ。私は別にこの髪型普通だと思うけど……あ、あんたが気に入ったのならずっとこの髪型にしてあげてもいいわよっ」

 か、可愛くねぇ……なんだこいつ……。

 何故ここまで面倒な性格なのだろう……全くもって謎だ……。

「マジで!?うんっ!じゃあ紗姫はずっとその髪型なっ!他の髪型にしたら駄目だからなっ!きゃっほーいっ!」

 ……という訳で私はこの日からずっと、ツインテールにしているのだった。

 おわり。

──っていやいやいや。終わらない終われない。こんな馬鹿なエピソードを垂れ流したまま終わってはイケナイ。

 まぁ……そんな訳で、私は今でもツインテールにしている訳だけど……。

 いや、うん……。

 私だって分かってるわよ。こんな小さい頃の事、どうせあいつは覚えてないだろう。

 別に髪型を変えたって──まぁ不満がるだろうが──特に怒ったりはしないだろう。でも私は──嬉しかったのだ。

 とってもとっても嬉しかった。可愛いと褒められて嬉しかった。私がずっとこの髪型にしてあげると言って、それを無邪気に喜ぶ彼の姿がなによりも──なによりも嬉しかった。

 彼の喜ぶ顔が嬉しかった。彼を喜ばせる事が出来て嬉しかった。彼を喜ばせる事が出来る自分が──嬉しかった。

 きっとだからなんだろう。だから私は──今日もツインテール。

 朝起きて支度を済ませ、そして自分で髪を結ぶ。耳よりも少し高い位置で髪を二つに結ぶ。

 そしていつもの時間に家を出て、いつもの道を一人で歩く。

 そして暫くすると──いつもの様に、あいつが声をかけてくる。

「おはよう紗姫っ!今日も可愛いな!」

 その声に惹かれ、私は振り返る。二つに結んだ髪を揺らしながら。

 二人が結ばれる日は来るのだろうかと──そんな事を思いながら。

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