ラブ・アナザーワールド1
ちょっと!世界が砂に埋もれそうなんですけど…。どうすんの?鬼剣士×魔女のラブコメ
そんな世界に住む三人組の若者が、余り目的意識も無く進むお馬鹿冒険物語。
うん。多分、きっと、適当にやってりゃ、世界も救うんじゃ無いかな?
サクサク読める短編小説で御座います。
少々、謎仕掛けでも有ります。注意深く読んでみて下さいね♪
★あぁ。又、砂降ってるよ。
……雨じゃ無くて。
吸い込むと咳が出そうな形状の、サラサラの砂が空から降って来る。この国。
「又、砂降りですか。
天気予報が要らないね。この国は。」
何だか、小難しそうな分厚い本を片手に、王宮のバックリと開いた大きな窓の外に目を移す彼。
傍らの深紅のソファーに深く腰掛けた彼女は、彼を少し睨みつけた。
「相変わらず、怖いんですけどルナルナ姉さんは…。」
分厚い本をパタリと閉じて、彼は、ゆっくり立ち上がった。
所変わって、町外れに連なる砂丘。
「ぶしょえ~~~~!」
もの凄くおかしな悲鳴を上げながら、一体の白い簀巻きもどきが砂丘の山から転がり落ちた。
簀巻きもどきとは、白いターバンで顔面グルグル巻き、首には白いストール、首から下も白布尽くしの格好をした人間だ。
(…阿呆は、ほっとくか…。)
簀巻きもどきは二人居て、一人の男の方が、その光景を冷静に見て居た。
転がり落ちた方は、砂まみれに成ったターバンを顔から引き剥がすと、泣き顔を露わにした。あ。女だ。
「デビッド酷いよ~!
助けてくれても良いのに!」
「自分で上がって来い。」
デビッドと呼ばれた簀巻きもどきは腕組みしたまま動かない。
★いい加減にしなさい。
「さて。ルナルナ姉さんも冷たいし。僕は、そろそろ城を出ますか。」
「ルナルナ姉さんって言うな~~~~~~~! 」
バシッ!白髪の彼の頭に思い切りドロップキックが入った。そのまま、床に突っ伏した彼は何事も無かったかの様に、ムクリと起き上がる。
「はいはい。ごめんね。ルナルナちゃん。」
ルナルナは、気持ち悪い物を眺める様に目を細めた。その時、白い簀巻きが二人部屋の扉を開けた。
「ただ今。
あれ?ドンファン。何してるの?」
「お帰り~。君達こそ何してんの?」
デビッドは、砂にまみれた白い布を顔から、剥ぎ取ると、ムスッとした表情のままで、手に持った袋をルナルナへ差し出した。
傍らで女も、顔の布を剥ぎ取る。此方は満面の笑みを浮かべて居た。
★ボクたちの出発時間
「麗し苔の株を買いに行ってたんだよ。」
彼女は相変わらずの笑みで、ドンファンに顔を向けた。
「ああ。ルナルナ姉さんに、こき使われてたんだね♪」
「お前の姉貴じゃね~。」
「おっと。何だよ。この兄弟。偉く呼び方にこだわるなぁ…。面倒くさい二人だなぁ。」
デビッドは、ぶつくさ言う彼の頭にある、タンコブを見て、全てを悟った様だ。
ルナルナは袋の中身を確認すると、デビッドに少し怒った様な表情を向けた。
「何?これ?少なくない?たったこれだけしか売って無かったの?」
「ああ。しかも高価。
地道に緑を増やすのも楽じゃ無いって事。
しかも、コイツを連れて行くなんて、足手まといも良い所だろ。」
隣でニコニコしていた彼女をデビッドは、軽く小突いた。
ルナルナは短めの髪の毛をかきあげると、深く溜め息をついた。
「仕方ないわね。
三人で仙人の里にでも、麗し苔を貰いに行って来たら?」
て。この人。自分が行くのは嫌らしい。気侭な奴だね。
その言葉に三人は顔を見合わせた。
「ああ…。」
「「「又、遠い所まで行かされるのね。」」」
三人は渋々、出発の準備を始める。そう。何たって、ルナルナは、このグリナイア王国を治める女王様。命令は絶対で有る。
★リスクは付き物ですか?
「おらっ!」
砂丘の上から、彼女を蹴り落とすデビッド。
「きゃ~~~~~!」
又、小汚い簀巻きが一丁上がり。
「もう、止めろよ~~。
何でいつも、そんな冷たくする訳?」
デビッドは口角を吊り上げる。
「…………さぁな?」
「まぁね。解ってるけど。君の愛情表情は、間違えてると思うよ?」
黄砂吹き荒れる砂山を、一気に滑り降りて、ドンファンは涙ぐむ彼女に手を差し伸べた。
「もう。やだよ~。デビッドの意地悪ぅ!!!」
ドンファンは彼女の頭を撫でながら、ニヤニヤと笑う。
「え?でも好きなんでしょ?」
彼の言葉に思い切り赤面する彼女。そして、ぷいっと横を向き、頬を膨らませた。
「ふ~~~んだ。ドンファンなんかに言われたくないよ~。」
★嫌よ。嫌よも好きの内。
「ほら。ほっぺた落ちるよ。アイボリー。」
クスクス笑いながら、手を引いて起き上がらせると、又三人はテクテクと歩き出した。
‐‐試練の塔‐‐
歩いて歩いて1時間。砂塵の向こうに、クリスタル造りの塔が3つ現れた。
「はい。到着。
此処が少々問題の塔。
どれにする?」
ドンファンが悪戯っぽく笑い、二人を見た。
「う~ん。私は精神の塔以外で…。」
アイボリーは眉根にシワを寄せた。その様子を見て、デビッドが軽く一笑する。
「じゃ。お前、精神の塔決定。」
「えっ?やだって言ってるじゃ無い?」
はい。出ました。デビッドお得意の無視。酷いわ。
「俺は、アヤカシの塔。
ドンファンは、有るようで無い塔な。
入るぞ。急げよ。」
「げっ…僕が有る様で無い塔なの?
…超難関…。頑張ろ。」
各々の塔に向かいサッサと歩く二人の後ろを、相当、嫌々着いて行くアイボリー。
デビッドは、アヤカシの塔。ドンファンは、有るようで無い塔の入り口を躊躇い無く、くぐり抜けた。
アイボリーは、もじもじしながらも、入り口に飛び込んで行った。
★有るようで無い塔
ぼけ~~~~~~っ。
ドンファンのシルバーの瞳の焦点がイマイチ合って居ない。
それもその筈。この塔。
名の通り、中は、真っ白な壁に囲まれた何も無い真四角な空間。
ひたすら時が経過するのを待つだけ。退屈そのもので有る。
これだけ退屈だと、流石に眠くも成る。
どうすればクリア出来るのか…。
それはデビッドとアイボリーの力量に、かかってるって訳で、仕方なくドンファンは床に寝転がって居眠りを始めた。
「やっぱり、厄介だよね。この塔。面白く無いしさ。
寝よう…。」
★痛みとの闘い
アイボリーが、又メソメソし始めて居る。
彼女の目の前には、デビッドが立って居た。
『何、泣いてるんだ?
本当に、お前は泣き虫だな。
こっちに来いよ?抱き締めてやるから…。』
「だから、この塔は嫌だって言ったのに…。」
大体、本物のデビッドが、こんな恥ずかしい台詞を吐く訳も無く。勿論、このデビッドは偽物でしか無い。
アイボリーの痛い所を突いて来る。それが精神の塔。
「…はぁ。もう、泣くのも疲れちゃったかな。」
『タイタンの微笑み・レベル3!!!! 』
彼女の持つ杖から、小人が飛び出して、透明な床を思い切り踏みつけた。結構な音の地鳴りと共にデビッドの幻は、消え去った。
「嘘でも、デビッドに攻撃魔法なんて、かけたくないのに。デビッドの馬鹿ぁ。」
★試すのか俺を?
「100対1。
ふん。雑魚の化け物が何匹、束に成っても、俺に勝てる訳無いだろ。
来いよ!」
アヤカシの塔。アヤカシ=化け物。名の通り、闘い抜いて、ようやくクリア出来る、手練れの剣士に打ってつけの建物。
身の丈程有る、剣を目先に構える。彼の5方6方から、沢山の醜い魔物が、一気に襲いかかった。
彼はマントを翻し、襲い来る敵を次々になぎ倒して行く。
100匹倒すのに、かかった時間。3分強。
強っ!
「やれやれ。やっぱり雑魚じゃ面白みもねぇな。」
その時、デビッドの背後で、今までは無かった扉が現れて、カチリと鍵の開く音が聞こえた。
時、同じくして、眠りこけて居たドンファンも扉の開く音に目を覚ます。
「ふぁ~。開いた。開いた。結構、時間かかったね。まぁ。勿論、アイボリーは躊躇しまくってたんだろうけど…。本当にデビッドは鬼なんだから。」
アヤカシ・精神をクリアすると、有るようで無いも勝手に扉が開く仕組みに成って居た様子。でも退屈が一番、大変なんだよ。きっと。
★試せ。己の魔力。
「やぁ!」
眠そうな目を、こすりながら白髪を掻きむしる彼。
そう。塔に現れた扉は又一つの道へと繋がって居たのだ。
「ああ。何だか解らないけど、ドンファンは楽な試練だったんだ!ずるいよ~。」
相変わらず語尾がヌルい魔女っ子アイボリー。
「へへっ。楽な様で退屈だった。デビッドは、楽しかったろ?」
「否。生ぬるい試練だったな。足りねぇ。」
三人は、サラサラの砂の降る道の先に視界を向けた。
「橋だね。何だろ。細いよね。一人ずつしか通れ無いみたいだけど?」
「じゃ。お前からだな。渡れよ。」
アイボリーは、デビッドと視線を合わせると、又ほっぺたを思い切り、膨らませてみせた。
デビッドは、口角を吊り上げる。
「行けよ。先にクリア出来たら褒美やるよ。」
その言葉にアイボリーの表情が凍りつく。
(さっきの塔に居た偽物?)
兎にも角にも、まずアイボリーから細い吊り橋を渡り始めた。
すると前から何か歩いてくるのが見える。
ソイツは、アイボリーの前でピタリと動きを止めると砂に紛れて居た容姿を露わにした。
腹が、ポッコリ突き出た真っ赤な小鬼。
「あ~。どうも。こんにちは~。珍しいなぁ。デッド・マウンテン付近に来客なんて。何年ぶりかな?」
小鬼は、アイボリーに、のんびりと喋りかけた。敵意は無さそうだ。
「へっ?」
思い切り戦闘体制に入ってたアイボリーは、拍子抜けして杖を降ろした。
小鬼は彼女に向かい一礼すると、出し抜けにピョンと橋から飛び降りてしまった。それを見送り、呆けるアイボリー。
呆けたままで、橋の下を見ていた顔を上げる。
とね。
「ぎょわ~~~~~~~~~~~~!!!!」
女の子が何と言う悲鳴を上げるんでしょう。否。でも仕方が無い。
小鬼の居た後ろ側からズンズンと、身の丈5mは有ろうかと言う赤鬼が歩いて来る。しかも敵意、剥き出し。大丈夫なのか!この橋。壊れないのか?
慌ててアイボリーは杖を構えた。
でか鬼は、手に持つ金棒をアイボリーに向かい、思い切り振り下ろした。慌てて魔法を唱えるアイボリー。
「カーバンクルの守りっ!LV15」
杖から現れたカーバンクルは、アイボリーの周りにバリアを張った。
金棒はバリアの上で、弾き飛ばされ、でか鬼の顔面に直撃した。そのまま、後ろに倒れて、敵は二度と起き上がる事は無かった。
「弱っ!!」
思わず、普段、使わない様な言葉使いに成るアイボリー。
何だよ。でかいだけだよ。この鬼さん。
「はぁ~~~。ビックリしちゃった。何なのよ。この橋。もう渡っちゃおう。」
その後は何が起こる訳でも無く、すんなりと橋を渡り終え、二人を待つ彼女の前に、まずデビッドが辿り着いた。
そして、アイボリーに視線を落とすと、何も言わずに背を屈めて、唇にキスを落とした。
「……………?!………………!!!!」
ついでにアイボリーは腰を抜かした。
何?この二人。
「褒美やるって言ったろ?」
そこにドンファンが、追い付いて、腰を抜かすアイボリーを見て、勘違いして苦笑いを浮かべた。
「何?又、虐められたの?」
★麒麟の森
橋を抜けた所には、鬱蒼とした森が有った。
でも、森とは言っても葉は無くて、枝に砂が積もるだけの名ばかりの森。
聖なる獣・麒麟の住む森だ。
出来れば会わずに、通りすぎたい獣。色々な意味で厄介で有る。
「あれ?アイボリーは?」
ドンファンが後ろを振り返ると、橋の終点から一歩も動いて居ない。しかも、異常に顔が赤い。
ドンファンは、デビッドの肩に手を回した。
「何かした?」
「さぁな。」
デビッドは、又ニヤリと笑う。ドンファンもつられてニヤリと笑った。
以心伝心、仲良し二人組。
「アイボリー!もう行くよ。早くおいでよ。」
ドンファンの言葉に我に返ったアイボリーは、二人の方へ走り出した。
枝別れした道も迷う事無くズンズンズンズン突き進む御一行。
もうすぐ森も出口だよって時に、枝の上からズサッと音を立てて、例の獣が飛び降りた。
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
悲鳴を上げるドンファン。
え?アイボリーじゃ無いの?
麒麟は何と、獣型では無くて女性で人型をして居た。怪し気な紫色のオーラを身に纏って居る。
「ひぃ~~~~。どうして、此処まで来て出て来る訳?」
「ふん。アンタを簡単には通さないよ。」
実は、ドンファンの元彼女だった…。麒麟が元彼女って。どうなのさ。
「ん~。僕は君とは闘えないよ。通して。」
「通してと言われて、通す馬鹿が、どこに居るんだ?ドンファン、あんただけは許さない!」
ね?色々ややこしいでしょ?
★頑張れ二人。
ドンファンの訴え虚しく、麒麟は彼に向かって強力な魔法を唱えようとして居た。
「駄目だぁ。ちょっと戦闘は二人に任せて良い?」
デビッドとアイボリーは頷いた。
ドンファンは、森の出口から、さっさと退却して行った。
「あっ!」
麒麟は魔法を唱える事を忘れて、つい出口の方を振り返る。デビッドは、その隙をついて背中に背負う剣を抜いた。アイボリーも杖を構える。
「………もう良い。通りなさい。私は、貴方達に恨みが有る訳では無い。
ドンファンに…………5又かけられて居た事だけが、どうしても許せない。」
麒麟は、ガクリと肩を落とした。
う~わ。ドンファン君、タチ悪っ。
デビッドとアイボリーは、気の毒そうに武器を仕舞った。
森を出た所の岩の上にドンファンは腰かけて呑気に二人を待って居た。
二人は、シラーッとした目で彼を見下ろす。
「全くドンファンだけは、本当駄目だね~。他は性格的に文句をつける所が無いのにね…。」
「あれあれ?もう戦闘終わったの?デビッドの事だから、女の子は殺さないと思って任せたんだけど。
早いね?」
デビッドは彼の後頭部、目掛けて思い切り拳を振り下ろした。ドンファンは、うずくまって頭を抱える。
「お前、本当、最低。」
「……麒麟に聞いたんだ?
だってさ。僕さ。盗賊でしょ?
キラキラ輝く物、見たら欲しく成るんだ!例え、其れが人でも!」
駄目だ。ドンファン。反省の色無し。
盗賊の性分と言えば性分。
★仙人が居た。
さて。森を抜けると又、砂丘が続く。
延々と歩く三人。
人喰いコブラの群れと一戦交えたり、毒々蠍と闘ってみたり、頑張れ三人。
ああ。仙人の里ってば本当、遠いね。と思い始めた頃、砂丘の切れ目に一軒のレンガ造りの家が見えて来た。
麒麟の森までは、ドンファンが道を知って居た為、さっくり進めたが、仙人様とは初対面。流石にデビッドも、険しい顔付きに成り、チラリとアイボリーに視線を落とした。
「どんな奴か解らないから、俺から入る。」
「う…うん。」
こういう時の彼はアイボリーから行けとは言わない。厳しいのか優しいのか。そんな所が彼の魅力だったりする。
ガチャン。デビッドが扉のノブを引く音が響き渡る…。
既に読者諸君は知って居る筈だが…。
扉の先には、狸が居た。
狸は忙しそうに、すり鉢の薬草をかき混ぜ、薬造りに熱中して居て三人に気付く様子も無い。
デビッドの目が点に成る。その後ろに続くドンファンが、目をこする。
「狸だね?」
「狸だな。」
「え?え~?なぁに?」
後ろからアイボリーが覗き込む。その時、狸は三人に気が付いた。
「何じゃ?お主らは?」
薬を作る手を休めた狸は、扉へと近付いて来た。
何故か後退りするデビッドとドンファン。得体が知れない物体には、思わず恐怖するのが人間の性。
「わぷっ。」
二人に押しのけられて、思わず変な声を出すアイボリー。
★結構、話せる仙人様。
此処はデビッドじゃ無くて、ドンファンの出番だね。
「あの…。実は、麗し苔の株が欲しくて、ここまで来たのですが…。」
「ほほう。そうか。まぁ、上がるが良い。」
三人は訝し気に狸もとい仙人様の家にお邪魔した。
何故か狸と楽しく団欒を始める三人。
「で…結論から言うと。
麗し苔の株は無い。」
「無いのかよ!」
はあ。ガッカリ。
「まぁ。そう焦るで無い。お前達が腕に自信が有るのなら、里を少し南に下った所に、少々はえとる。」
「あ~。あの少しだけ雨が降る場所ですよねぇ…。」
アイボリーの頭の中を、沢山の猛獣が駆け回る。
「ライオールの群れの生息地帯か…。」
デビッドが、深い溜め息を着いた。
★居た。ライオールの群れ
「とほほ…。やっぱり、こうなるのね。」
歩き詰めなのに、狸仙人様の家から、更に南へ歩く三人。ダラダラと二人の後ろを歩くドンファンは、ふと立ち止まった。
何気なく、手を突っ込んだポケットの中から、緑色の木の実を三粒、取り出した。
「ああ。そう言えば…。」
麒麟の森で、手に入れたお宝。饅頭の実。
食べれば確実に体力の出る美味しい甘い木の実だ。
「デビッド。アイボリー。」
振り返った二人の手に投げてよこす。
無論、即座に口にする三人。元気百倍。良かったね。じゃ。サクサク歩いて下さい。
二時間程、頑張った三人組は見事ライオールの住処に辿り着いたとさ。
デビッドがライオールの住処の岩穴に目を凝らす。
岩穴から何故か一人の男が出て来るのが見えた。
「あれは…。」
「ケイ…だよね?」
デビッドとアイボリーは顔を見合わせて不思議そうに首を捻った。
以前、デビッドの城で警備兵の隊長をして居た男。
ややや!良く見ると、ライオールに跨って居る。
「なんじゃ。ありゃ?」
ドンファンも目を点にした。
それも、その筈。野生のライオールは百獣の王。人間ごときに手懐けるのは、不可能と思われている。
「ケイは、ある意味、人間離れしてたから解らなくも無いけど…。」
ドンファンが更に目を凝らした。
ケイの跨るライオールの後ろから、ゾロゾロとライオールの群れが着いて行く。その数、30頭。
「う~ん。何だかなぁ…。どうするよ?デビッド。」
★ハラハラドキドキ
「ライオールよりもケイが厄介だな。
俺とコイツが、ケイとライオールを引きつけてる間に、お前が岩山の中から苔を取って来るのは、どうだ?」
「それ。いい案だよね。私の魔法でライオールの群れは何とか成るかも知れないし。」
三人は目で合図を送り合うと、群れに向かい一気に砂山を滑り降りた。
雨の降る土地なので、何故か汚らしい光景だった!ドロドロ。
突如、現れた三人にケイと呼ばれたガッチリとした体格の男が驚きの表情を浮かべる。その表情は、みるみる怒りの醜い表情へと変わって行く。
「デビッド!ドンファン!いつか来ると思ったぜ。倒してやる!」
「ふん。俺達を倒す為にライオールを飼い慣らしたか。上等だ。」
デビッドが鼻を鳴らした。
★単純お馬鹿さん。
何やら、因縁が有る様子。デビッドとケイが睨み合い、アイボリーがライオールの群れに囲まれてる隙を狙って、ドンファンは岩山の穴へと走った。
デビッドは背中に背負う巨大な剣を抜くと、ケイに向かい走り出した。
ケイも獣の背の上から、馬鹿長いスピアを構える。
二人の武器が派手に音を立て、ぶつかり合った。
ギリギリと両者一歩も引かない。
「クソッ。ドンファンの奴、やはり逃げやがったか!アイツは…アイツは…ルナルナ様を!!!
デビッドお前も、良くも俺の恋路を邪魔してくれたな!絶対、許さん!」
「馬鹿か。お前は。」
どうやら、全然相手にされなかった腹いせの様で有る。
「おっと…。」
スピアの下からライオールの牙が、喰らおうとしているのを、難なく避けるデビッド。
一方、ライオール30頭に囲まれたアイボリーは、頭上高くに杖を掲げて、呪文を唱えた。
「サンド・ウェイブ!Lv30」
ライオールの足元のドロドロの砂が、まるで海のうねりの様に波打ち出しライオールの群れをのみ込んだ。
うねり狂う砂は、みるみる内にライオールの群れを飲み込んで行く。半数位の獣は、砂の波を泳ぎ生き残った様だ。
「うっ…。やっぱりライオールは強いなぁ…。」
★オイオイ。
真っ暗な岩穴の中で、タイマツに火を灯すと、ドンファンの髪色が銀色に光る。
彼は岩山の奥に向かい、真っ直ぐに歩いて行った。
……………。短いね。ここ。
まぁ洞窟では無く普通に岩穴なので仕方が無い。
岩穴の突き当たりには、お目当ての宝物、麗し苔がビッシリと茂って居た。
それを少し頂戴して袋に直し込むドンファン。ホッと一息ついて、振り返ると、そこには一頭のライオールが居た。
「嘘だろ!」
慌てて腰に刺した剣に手をかける彼。
そのライオールは、黄色の輝きを身に纏うと、一瞬にして、ルナルナ王女へと姿を変えた。
「へ…?」
間抜け声が岩穴に響く。
「フフ。驚いた?
だってアナタ達だけじゃ心配だから、つけて来た訳。」
変身術が得意なルナルナ王女。
「何だよ。驚かすなよ。」
あからさまにホッとした表情を浮かべるドンファン。どうやら戦闘は苦手らしい。
「あら。サポートに有難うと言って欲しいわね。」
「はっ!狸仙人はルナルナだったのか!」
「イエス。さて、あの子達は、戦い終わってるかしら?穴から出ましょう。」
ドンファンは半分呆れ顔のままでルナルナに手を引かれて岩穴の出口へと向かった。
★近い未来の気象報
ルナルナとドンファンが岩穴を出ると、敵一同は見事に殲滅して居た。
デビッドがドンファンの横に居る姉を見て、又また鼻を鳴らした。
「着いて来ると思ってた。」
「わぁい。王女様~♪見てみて!私、頑張ったよ!ライオール一掃しましたぁ。」
ルナルナは、アイボリーに微笑むと、地面に倒れるケイを見て、頬を引きつらせた。
「こんな所で、何してたの?コイツ。気持ち悪いわね。相変わらず。」
ふとデビッドに視線を向ける。
「アンタ。城に帰ったらアイボリーに、ご褒美あげなさいよ。」
デビッドはニコリともしない。
「ウゼェ。お前に言われなくても解ってる。」
城に帰った4人は、麗し苔の株を王宮の庭に植えた。
4人が空を見上げると砂に混ざり、雨が降って来るのが臨める。
「ヤレヤレ。これで少しは、異常気象もマシって所か。」
デビッドは、ぶっきらぼうにそう言うとアイボリーに向かって、藍色のベロアの小さな箱を投げて寄越した。
アイボリーが目を点にする。
「なぁに?これ?」
「ライオール退治の褒美だ。取っとけ。」
アイボリーが藍色の箱を開けると、何と其処にはピンク色に輝く宝石の付いた指輪が収まって居た。サイズは、勿論アイボリーの左手薬指用。
「デビッド~~~~~。」
嬉し泣きをしながら、アイボリーはデビッドの胸に飛び込んだ。
「泣くな。馬鹿。」
鬼だけど。優しいよね。デビッドは。
―数日後―
雨止まず。
土砂降り。地滑り。
段々、国民からの非難の声が大きく成る。
王座に座るルナルナは、三人を呼び寄せると、ビシッと指差した。
「はい。次は太陽の雫石を取って来なさい。」
「「「はいっ?又ですか?」」」
おしまい
★追記
つたない作品ですが、最後まで閲覧頂き有難う御座いました!
謎仕掛けの答えは、章の区切りの★マーク横の一文字を繋げ行くと、次のキーワードが出て来ると言う物です。
→キャラクター設定
デビッド19歳・剣士で王子様。クール。
アイボリー17歳・魔法使い平民。天然。
ドンファン18歳・盗賊で貴族。女たらし。
うわ。ドンファンの説明非道いな。本当は、いい人なんですよ。
→ラブ・アナザーワールド2とnextも又、更新致します。そちらも宜しくお願い致します(≧∇≦)