あれ、俺死ぬんじゃね?
俺のもとに、死を知らせる一通の手紙が届いた。
この国は、国民の死をも熟知している。だからこそ、死ぬ時にこういう不幸の手紙を突き付けてくる。これが、誰の役に立つって言うんだろうな?
真っ黒な封筒を開けると、黒い紙に赤い字で『貴方は本日中に死にます』ね・・・ご丁寧にどうも。そして、余計な世話だ。絶望に陥るだろ、普通の人間なら。俺は別だけどさ。もうどうにでもなれって感じ。これが届いた時点で、俺生きられないしな。
さて、家で死ぬってのもなんだ。死んでから発見されるまで長いだろうから。とりあえず人気が少なくて、人が俺が死んでるの分かる。とか、都合のいい場所はないかな。そんなに甘くないんだけどな。仕方ない。近所の公園にでも行くか。近頃は人も少ないだろ。
お気に入りのパーカーを着て外に出る。実にいい天気だ。花見とかにピッタリだろうな。死にたくはないけど、これ避けられないんだよな。予報は百発百中。何て政府だよ。思わず苦笑いが俺の顔に浮かんだ。
案の定、公園に人は居ない。ゲームでもしてるんだろう。
ん? ゲームと言えば。
――しまった。明日発売のゲームに期待してたのに・・・畜生、プレイできないのが残念だ。今回の作品は良作だってネットで耳にしたのに。まあ、予約はしてないから店には迷惑掛からないけどさ。死にたくないな。とりあえず、やっぱり死ぬのは怖い。
死に方って、どんなのだろ。首吊りは・・・ない。じゃあ、心臓発作とかか? 健康だけが取り柄だった俺がそれは寂しすぎる。
刺されんの? 痛いのは勘弁してほしいな。
「結局は、まだ生きたいんだよな・・・」
俺の呟きは風に乗って、誰かの耳に届く前に消えた。昼間の公園でこんなぶらついてる男の言葉なんて、誰も聞かないだろ。所詮、周りは他人。俺は一人で生きるしかない。
死ぬんだけどな。
突然、突風が吹いた。砂が目に入り、左手で擦る。そして目を開けると、死を運ぶソレは、俺の前に立っていた。なるほど。どうやら、お迎えのようだ。俺の前には、それらしいのが居た。
光さえ吸収するような黒いローブ。仮面をつけていて表情は見えない。まず、こいつは表情なんて人間らしいもの持ってんのか? と、巨大な鎌。そいつで俺の首が飛ぶ。
なるほど、想像した。怖すぎるだろ・・・何だよお前。死神みたいな格好しやがって!
「何て。死神なんだろうな。とりあえず――逃げろ!」
久々の全力疾走。学校の授業って重要だな、おい。くそ、足が動かねえ。死神の野郎は? と、後ろを振り向いた瞬間だった。
俺の本能が、俺の体を後ろに反らした。
目の前を、鋭い鎌がよぎる。ナイス、本能。少しだけ、生き長らえた。
まあ、逃げたって無駄だけどな。せめて、もう少し生きたいだろうが。俺の人生、いい事なんてなかったんだ! 死神から逃げたっていう武勇伝くらい残させろっての! 誰が聞くわけじゃないけど!
「――ッッ!」
もう一回鎌が俺の首を掠め取ろうとした。反射神経やばいな、俺。潜在能力なんじゃないの?
終焉を迎える中で、それはないだろ畜生! スポーツくらいやっとけばよかった。
次で死ぬな。無理だ、無理。次のは、避けられる気がしねえ。足も動かねえし・・・
駄目だ。運動出来る奴を羨む前に、ちゃんと努力しとけばよかったな。今更だけど。
お袋、親父、駄目な息子でごめん。蒼波、駄目な兄貴でごめん。じゃあな、糞ったれ。
死神の鎌が、俺の首目掛けて振り下ろされた。
ガキリ、という金属音が耳元で響いた。あれ、俺ってアンドロイドだった? 人間だって思ってたんだけど。違ったのか?
いや、いやいや、何の音だよ。
ゆっくりと、目を開けた。
「良かったわね。私が通り掛からなかったら、アンタこいつに殺されてたわよ?」
綺麗な少女だ。美少女。真っ直ぐな黒髪が腰まで伸びてる。相対して白い服。天使みたいだな。
顔は整ってる。少し吊り眼だけど。クラスで人気の女子なんて目じゃない。その右手には、銀色に輝く日本刀。その日本刀が、死神の鎌を止めている。華奢な体に見合わず、力があるんだな……
「は?」
我ながら間抜けな声だ。今、どっから声出したんだろ。
少女が俺を助けた? 日本刀? 何だそれ。死神の次は、日本刀天使っていう事か?
面白い冗談だ。傑作だな。俺の夢か。それであれば、俺としては万歳。
で? 俺は、どこから突っ込んでいけばいいの?