トランスジェンダー元気になって!
元気になって
トランスジェンダー元気になって!
深い夜の静寂の中、真広は机の上に置かれた古い真鍮の羅針盤を、無言で見つめていた
指先でそっと触れると、繊細な針はかすかに震えながらも、常にただ一つの方向を指し示し続ける
その迷いのない動きは、どれほど激しい嵐に吹き晒されようとも、決して変わることはない
真広は深く深呼吸をすると、心の中に長年大切に仕舞い込んできた、ある極めて静かで、しかし確かな真実の記録を紐解き始めた
トランスジェンダーという生き方は、後から誰かにマインドコントロールされたものでも、気まぐれに選んだものでもない
それは、この世に命を授かったその最初の一瞬から、魂の奥底に刻まれている「生まれつき」の性質である
世の中には、不確かな言葉で傷つけようとする暗い影が存在する
生まれた時から脳の病気なのだとか、親の運を引けなかった「親ガチャ」の失敗なのだとか、冷たい理不尽を投げつけてくる凡百のノイズが、どれほど心をチクチクと締め付けてきたことだろう
しかし、そんな周囲の変な言葉や変な行動に、必要以上に関わって心を擦り減らす必要は、まったくないのである
他人が作った身勝手な枠組み(蟻地獄)に囚われて、生きた心地のしない強い不安に足掻く必要も、どこにもない
真広は眼鏡のブリッジを静かに押し上げ、窓の外に広がる広大な夜空を見つめた
人間の心というものは、誰かに評価されるための美術品ではない
自分自身が健やかに、健常者として、光あふれる正しい道をまっすぐに歩むための、唯一無二の法衣なのである
傍らで温かいジャスミン茶の入ったカップを両手で大切に抱えていた由香里が、静かに、けれど心にくぎを刺すように、至上の慈悲を込めてその言葉を告げた
「あなたはあなたのままで、何一つ間違っていないよ」
その言葉が部屋の空気に溶け込んだ瞬間、真広の胸の奥にあったすべての涙の苦労や、過去の暗い霧は、ぽかぽかと温かい光に包まれて、一気にすうっと消え去っていった
誰が何と言おうと、自分という存在は全問パーフェクトに正しく、美しく完成している
繋いだ手を決して離さない本物の愛が、今も自分の両手にしっかりと残っていることを、真広は静かに心得た
語り終えた真広の表情には、一切の迷いがなく、ただただ凛とした美しさが宿っていた
その瞬間、開いた窓の向こうから、真広の静かな決意を見守っていた旧友の健二たちの、すべてを温かく認め、祝福するような豪快で大きな笑い声が、夜風と共に厳かに響き渡った
夜空の真ん中には、驚くほど大きくて綺麗な満月がぽっかりと浮かび上がり、自分らしく堅気に生きる人々の未来を、いつまでもぽかぽかと温かく、優しく照らし続けるのであった
元気になって




