帰郷と再会
七年ぶりにこの街に帰ってきた。
懐かしい街の空気を吸いながら、俺、朝倉悠馬は背筋を伸ばした。
今日から転校生としてこの陽明高校に通う。俺としてはまた昔澄んでいた場所に戻ってこられたのは嬉しい。こっちにも友達はいたし、またどこかで再会できたらいいなと思っているけど。だけど、当時俺たちはまだ子供で、携帯電話を持っていなかった。だからお互いの連絡先も知らないし、俺が転校してからは手紙でやりとりしていた。
だけど、いつの間にかその手紙も届かなくなって、俺も引っ越し先での生活に染まっていった。
なにはともあれ、俺にとってここは懐かしい場所なのだ。
職員室に行くと担任の先生が俺を手招いていた。
「どうだ朝倉。こっちの生活には慣れたか」
「もともとこのあたりに住んでいたので、土地勘はありますね」
「それはよかった。じゃあすぐに馴染めそうだな」
先生はそう言うと立ち上がった。担任の先生もまだ若そうだ。若くて美人で頼りになりそうな先生である。
俺は先生について歩く。教室の前で先生は立ち止まると、引き戸を開いた。
「今日は転校生を紹介する」
先生はそう言うと教室の外で待っている俺を手招いた。
緊張の面持ちで中に入ると、俺はクラスメイトを睥睨する。
「自己紹介を頼む」
「はい。転校生の朝倉悠馬です。昔この辺に住んでいたので、土地勘はあります。よろしくお願いします」
俺はそう言って頭を下げる。だが、次の瞬間、数人の生徒が不意に立ち上がった。
「嘘……」
立ち上がったのは三人の女子生徒だった。三人とも俺を見て目を見開いている。
俺はなんで見られているのかわからず困惑する。
「三姫が立ち上がったぞ」
「なんだなんだ」
教室中が騒めきだす。それに気付いた三人はわれにかえったのか「なんでもありません」と言って席に座った。
それにしてもかわいい子たちだ。三人ともそれぞれ美少女で緊張してしまう。
「それじゃあ朝倉の席は雪宮の隣だな」
そう言って俺は一番後ろの席を指さされる。さっき立ち上がった三人に囲まれている席じゃないか。俺は恐る恐る自分の席に向かった。
「よろしく」
「う、うん。よろしく」
雪宮と呼ばれた女子は髪を指で掻き上げると、俺をじっと見つめてきた。
「悠馬、だよね」
「え?」
不意に自分の名前を呼ばれフリーズする俺。
「私、怜奈なんだけど」
上目遣いでそう言った彼女の顔をじっと見ると、確かに見覚えのあるような顔だった。
「え、怜ちゃん⁉」
俺は素っ頓狂な声を上げてクラス中の注目を集めてしまう。
「なんだなんだ。転校生。氷柱姫と知り合いなのか」
クラス中が騒めきだす。
俺が驚いていると、前の席の女子が振り返って恐る恐る聞いてくる。
「あたしのことは覚えてるかな。直葉なんだけど」
「スグなの⁉ 変わったね!」
一条直葉。昔一緒に遊んでいた友達の一人だった。ポニーテールの髪に、スレンダーな体形。まるでモデルだ。だけどその自信のなさそうな顔色は昔の面影がある。
「マジかよ。剣姫とも知り合いなのか」
「え、スグ、剣姫って呼ばれてるの」
「恥ずかしながら」
直葉は頬を染めて頬を掻く。
そんな俺の肩をちょんちょんと突いて左の席の女子が上目遣いで俺を見る。
「私のことも覚えてるわよ? 忘れたとか言わないでよ?」
そう言われて顔を見ると、今にも泣きだしそうな目をしている。でもその目の下の黒子だけは見覚えがあった。
「美羽だろ。可愛くなったな」
「はうっ……⁉」
荊美羽。この子も俺の小学生時代の友達の一人で、よく四人で一緒に遊んでいた。ボブの髪に目の下の黒子が特徴的な女の子だ。
「え? みんな揃ってるの。すっごく嬉しいんだけど」
俺はそう言うと、三人は顔を見合わせると頷いた。
「待ってたよ、悠馬くん」
直葉がそう言って破顔する。
俺は三人との再会を喜んだ。
「あのー、もしかして転校生、三姫とお知り合いなのか」
クラスメイトを代表して男子が聞いてくる。
「えっと、友達なんだ。小学生時代の」
「マジかよ」
男子の顔が絶望に染まる。
「てか、みんな三姫って呼ばれてるんだ。確かにみんな可愛くなったもんなぁ」
「まあ、ね……」
美羽が複雑な表情を浮かべる。いつか再会したいなとは思っていたけど、小学生時代いつも遊んでいた三人の友達と再会できたのは嬉しすぎる。
「まあ再会を喜ぶのはそれぐらいにして、授業の準備をしろよ」
「はい、すみません」
担任の先生に注意され、俺は頭を下げる。三人と再会できたのは嬉しいけど、三人が今の俺を見たらがっかりされたかもしれないな。
なにせ、俺は典型的な陰キャだ。転校先でうまくやっていけず、人を遠ざけるようになってしまった。だから、がっかりされたかもしれない。
だが、三人は俺を見つめると、満面の笑みで俺を射抜いた。
「「「おかえり」」」
その言葉が俺はとても満たされた気持ちになった。またあの頃みたいに四人で仲良くしていけたらいいな。そんなことを考える俺だったが、三人は複雑な感情を抱いていることを俺はまだ知らなかった。




