19.ガラス玉の罠
マヤが木箱の中で目を覚ましたのはヴェルテックス王国最大の港町アエクールに輸送された後だった。
「マヤ、起きろ」
気持ちよく眠っているところなのに、誰かが耳元で「起きろ」と言ってくる。まだ眠たくて開きかけた瞼を閉じると、体を大きく揺さぶられた。
「ちょっ……もごもご」
「静かに」
眠りを妨げる存在に大声で文句を言おうとした瞬間、口をゴツゴツした大きな手で覆われた。無理やり手で口を覆われているため、言葉にならず籠ったような声だけが小さく響いた。
「マヤ、俺だ。声を上げるなよ」
マヤはパニック寸前のところで、自分の口を覆っているのがリビトだと分かり、溜息を吐いた。リビトはマヤの口からゆっくり手を離した。
周囲を見る限り、薄暗く閉鎖された場所のようだ。屋根は高く窓はない。どこかカビ臭さや埃っぽさを感じる。明るさを感じるのは壁に備え付けられたランタンの明かりのおかげだろう。
「ここはどこなの?」
「恐らくここは港町アエクールの倉庫の中だ」
「港町? アエクール?」
「あぁ、ヴェルテックス王国で最大の港町と言われている。王都を大きく通り過ごして最西端の町まで来たようだ」
「王都まで遠いの?」
「マテリアと比べれば遠いが、そこまで遠いわけではない。詳しい話は後だ。今はここから逃げるのが先決だ」
「うん。あっ、奴隷商人に捕らえられている半魔人は?」
「そこにいる」
檻の中にいる半魔人は未だ眠り続けていた。
「確か、リビトの魔力でもこの檻は開けられないって言ってたわよね?」
「あぁ。だが、もう1つ開ける方法があるらしい」
「別の方法?」
「だけど、檻を開けるには希少なアイテムが必要だ。そのためにはプエリの森まで行って、それを取って来なきゃいけない。アエクールからプエリは真逆で、俺が魔力を使って飛んだとしても往復するのに1日はかかる。仮に取りに行けたとして、その前に檻が異国行きの貿易船に運ばれればもう助けられない」
「そんな……」
「だから俺たちの選択肢はこの檻を持って逃げる手しかない。檻ごとプエリの森に運べば、そこで檻の結界を破ることができる」
「なるほど!」
「だが、2つ問題がある。1つはこの檻を持ち運べるか試してみたが、魔力で床に貼り付けられている。無理に引き剥がそうとすれば奴らの仲間に気付かれるかもしれない。
もう1つは倉庫が細工されていることだ。希少価値の高い半魔人を売るとなれば、見張りを置くのが普通だが、外に人の気配はない。試しに扉を開けようとしたが鍵が掛けられている。俺の魔法も効かなかった。きっと倉庫自体がこの檻のように魔力で簡単に開けられないようになっているんだと思う」
「つまり、最悪な場合、床から檻を剥がせないし、剥がせたとしても倉庫を開けられないかもしれないってことよね?」
「そういうことになる」
「じゃあ、どうしたら……」
「俺たちに残されている選択肢は1つしかない。それは奴らに倉庫を開けさせて馬車まで檻を運ばせることだ」
「えぇ! あっ、ごめん……。そんなことができるの?」
マヤはリビトの意味不明な提案に驚き、ついつい大きな声を上げてしまい、自分の手で口を覆った。少し冷静になってひそひそ声でリビトに疑問をぶつけた。
「奴隷商人に檻を運ばせてしまったら、この人を救出できなくなるってリビトが言ってたじゃない」
「あぁ、確かに言った。でも、それは貿易船に運ばれたらという話だ。倉庫から貿易船に運ぶには馬車が必要だ。倉庫から檻が馬車に積まれ、貿易船に運ばれる前に馬車ごと略奪する」
「……!」
「確かに、奴隷商人に檻を運ばせて倉庫を開けさせることができれば、さっきの2つの問題は解決できるけど、馬車を奪うのを失敗してしまったら?」
「馬車の略奪に失敗する、アエクールの検問所で奴らに先回りされれば終わりだ。だけど、他に選択肢はないんだ……」
「本当にもう選択肢はないの?」
リビトはマヤの質問に答えず、俯きながらマヤが聞こえるギリギリの声で呟いた。
「ガラス玉さえあれば……」
マヤはリビトの小さな呟きをしっかり耳に捉えていた。ガラス玉、ガラス玉? ガラス玉! マヤにはリビトが言うガラス玉が何に使われ、どのようなものなのかは見当もつかなかったが、『ガラス玉』には思い当たる節があった。
たすき掛けにしたショルダーバッグを開けて、目当ての物を探した。リビトは、マヤが急にバッグを開いてゴソゴソと手を動かしている光景を不思議そうに見ている。マヤはバッグの中から紐付きの布袋を1つ取り出し、リビトの顔の前に差し出した。
「リビト、ガラス玉ってこれじゃダメかな?」
リビトはマヤから布袋を受け取り、紐を緩める。袋を動かす度にカチカチと聞こえるその中身を見ると、目を大きく見開いた。
「お前、何でこれを持ってるんだ?」
「これははじまりの森を出る日に長老様から餞別にもらったの。もしかして、リビトが言っていたガラス玉なの?」
「間違いない。これはプエリの森のガラス職人が手掛けたガラス玉だ。以前、プエリの森で1度だけ見せてもらったことがある。恐らくそれと同じもので間違いない」
「じゃあ、ここで檻の結界を破れるってこと?」
「あぁ! そうだ。まさかマヤがガラス玉を持っているなんて……」
「リビト、奴隷商人たちが来る前に半魔人を助けてあげよう」
「そうだな。檻の結界を破れば彼は目覚める。3人ならより逃げやすくなるだろう」
「試してみよう」
「あぁ、マヤはこれを持って、念のため少し離れてて」
「分かった」
リビトは布袋からガラス玉を1つ取り出し、自分の魔力を流し入れた。透明だったガラス玉はリビトの瞳の色と同じ色に変化した。あとはガラス玉を檻に投げつけるだけ。ガラス玉を持った手を上げた時だった。
「待って!」
「はっ?」
リビトがガラス玉を投げようとする直前、マヤはリビトがガラス玉を投げるのを制止した。
「マヤ、驚かすなよ。手元がズレるとこだったぞ」
「ごめん。何かずっと引っかかっていたことがあって、思い出したの」
「はぁ、何を思い出したんだよ。急がないとまずいんだぞ」
マヤは再び持っていた布袋に手を入れ、1枚の紙切れを取り出した。そこにはガラス玉の使用方法や注意書きが記載されていた。
「長老様がガラス玉と一緒に注意書きを紙に書いて入れておいてくれたの。えっと……!」
マヤは紙切れに書かれている注意書きに目を通した。リビトは、マヤの表情がみるみるうちに強張っていくのが薄暗い倉庫の中でも分かった。
「何て書いてあるんだよ」
「この紙には『ガラス玉は自分の魔力を込め、血液を3滴以上垂らしてから使うべし。血液を垂らさない場合、家1軒は軽く爆発できる威力があるため取り扱いには十分注意すべし』だって……」
「えっ?」
リビトはマヤの顔色が悪くなったのがようやく分かった。額から汗がタラリと流れてくる。マヤは、なぜかガラス玉を持つリビトの手がやや震えている気がするのは、自分の見間違いだろうと思い込むことにした。
リビトは注意書きに従い、改めてガラス玉を掌に乗せて片方の指の腹を歯で噛み切り、ガラス玉に3滴垂らした。すると、青眼と似た色のガラス玉はリビトの血液をすーっと内部へ吸い込んでいき、青から紫へと変わり、一瞬だけピカッと光った。
「マヤ、俺の後ろに下がっていろ」
「うん。リビト、気を付けて」
マヤはリビトの斜め後ろに下がり、リビトと捕らわれた半魔人の無事を祈りながら、ガラス玉が投げられるのを見守っていた。
リビトはゴクリと1度だけ喉を鳴らし、目を閉じて大きく息を吸って吐いた。瞳を開けると、その青眼はただ1点に視線を合わせた。紫に染まったガラス玉を高く上げ、檻に投げつけた。
ガラス玉が接触した檻は一瞬だけ光ると、ガラス玉を内部に吸収してしまった。
「……!」
リビトは失敗したのかと半ば諦めかけた時、檻から強い光が発せられ、思わず目を閉じてしまった。マヤもリビトと同様にあまりの強い光に目を開けていられなくなった。
発光が収まると、リビトもマヤもゆっくり瞼を開いた。リビトの目の前に合った檻は消えてなくなり、中に閉じ込められていた半魔人だけが横たわっていた。
「成功したんだよ、ね?」
「あぁ、檻は消えてなくなった。間違いなく成功だ」
マヤは横たわる半魔人の前に座り、顔をじっと見ている。
「起きる様子がないなぁ。すぐに目が覚めるのかな?」
半魔人の顔は薄暗い倉庫内ではよく見えないが、鼻筋の通った端正な顔をしているのは分かった。
「まるで西洋のお人形さんみたい……」
「んっ……」
マヤが半魔人の顔を鑑賞していると、その表情は体の動きと共に崩れた。永い眠りから目覚めた眠り姫のようでもある。大きなあくびを1つしながら、手足を大きく伸ばした。そして、閉じていた瞼が開いた。
半魔人は目の前に見知らぬ人間の顔があることにすぐさま警戒心を見せ、辺りを一瞬だけ見回すと全身が透明になっていき、その場から姿が見えなくなってしまった。
「えっ? 消えた? ちょ、ちょっと、リビト。リビト?」
マヤのすぐ横にいたはずのリビトの姿もない。慌ててリビトの名前を呼ぶと、倉庫の奥からリビトが姿を現した。
「リビト! どこに行ってたのよ」
「あぁ、今クーリアと交信していたんだ。クーリアはアエクールの検問所のそばまで来ているらしい。検問所さえ出られれば何とか3人で逃げられる……」
「それどころじゃないの! 半魔人さんが起きたんだけど、話す前に消えちゃった……」
「消えた? そんな能力聞いたことがない――。あぁ、そうか。彼はきっとマグスと妖精のハーフの半魔妖精なんだろう」
「マグスと妖精のハーフ?」
「妖精はかくれんぼが得意だからな。目覚めてすぐに身を隠せるなら、彼は1人でも心配ないだろう。――妖精なら消えてくれて安心だ」
「えっ? 今、何て?」
「いや、何でもない。ここからは俺たち2人で逃げるぞ」
「でも……。本当に1人で大丈夫かな?」
「あぁ、大丈夫だ。彼はもう自由の身だ。自分の身は自分で守れるだけの魔力はあるはずだ。それより、さっきの強い光で奴らが倉庫の中を確かめにくるだろう。倉庫の扉が開いた瞬間を狙って、ここから脱出するぞ」
「うん……」
「すぐに逃げられるように入口そばの荷物の後ろに隠れて奴らを待とう」
マヤとリビトはアエクールの外でクーリアと合流した。リビトと再会したクーリアはとても嬉しそうに見えた。再会もすぐ、リビトは追手が来るかもしれないからここを離れようと言い、リビトは軽々とクーリアの背に乗り上げた。
リビトは上半身を折り曲げ、マヤに長い手を伸ばした。マヤはリビトの手を取ると、強い力で持ち上げられ、リビトの前に座る格好となった。
「マヤ、ここをしっかり持っていろよ」
リビトが指差したのは鞍の前橋だった。マヤはとても嫌な予感がした。思わず前橋を握る手に力が入る。リビトは、マヤが前橋を握ったのを確認すると、魔馬の主らしく、クーリアの鬣を撫でながら通る声を上げた。
「クーリア、もうひと頑張りしてくれるな。優秀なお前のスピードに誰もついては来れない。頼んだぞ! さぁ、行くぞ!!」
リビトの声に応えるように、クーリアは全身をブルブルと振るわせて高らかに嘶いたのだった。
マヤは本日2度目の吐き気に苦しんでいた。車酔いならぬ馬酔いである。アエクールからどのくらい遠くまで来たのだろうか。クーリアの走るスピードは1度経験したばかりだったが、2度目だからといって慣れるものではない。
横目でリビトを見ると、微笑みながらクーリアに水や食料を与えながらやさしく撫でている。吐き気も少し収まってきたから、リビトに近づこうと足を1歩踏み出そうとした時、クーリアから異様なオーラが漂ってきた。
クーリアの声は聞こえなかったが、その大きな瞳が「こっちに来るな! リビトとの時間を邪魔するな!」と訴えてくるのが分かった。思わず踏み出そうとした足を後ろに下げてしまった。
クーリアはリビトが大好きなのだろう。クーリアのおかげでリビトを見つけることができたし、無事に2人とも逃げ切ることができたのだ。ここは彼女の意志を尊重するべきだと思い、木にもたれかかるよう地面に座って休むことにした。
それにしても今だから言えるが、倉庫からの脱出はとてもスリル満点だった。何よりもガラス玉だ。
もしもあの時、リビトが血液を垂らさずにガラス玉を投げていたら、私がガラス玉の注意書きを持っていなければ、そもそも長老からガラス玉を貰っていなければ、マヤもリビトも今頃どうなっていたか分からない。
目を覚ました半魔妖精は自分の目の前で消えてしまって無事に逃げ切ることができたのか心配だ。どうか無事であってほしいと心から願うばかり。
檻の結界を破った後、マヤとリビトは倉庫の入口付近で身を潜め、奴隷商人たちが倉庫の扉を開けるのを待っていた。案の定、半魔妖精が解放されて間もなく、奴隷商人たちが倉庫へやってきた。
男の1人が上の者から「倉庫の中を確認して来い」と言われ、ブツブツと愚痴っているのが聞こえてきた。それが偶然のことだったのか、誰かが倉庫の異変に気付いて手下を確認に行かせたのかは分からないが。
奴隷商人たちが倉庫内を確認している間に、リビトとマヤは抜け出すことにした。倉庫の外には見張りの男が1人いたが、煙草の吸殻を地面に落とし靴で踏みつけて、こちらに背を向けている隙をついて逃げ出すことができた。奴隷商人たちに見つからずに倉庫を離れることができたのは幸運だと思う。
次の関門はアエクールを出る際に必ず通らなければならない検問所だ。検問所には門番がおり、そこで足止めされれば奴隷商人たちに見つかる危険があった。
親を亡くした兄弟で、遠い親戚のところに行くという設定にしようというリビトの提案に乗った。門番への説明はリビトがしてくれたが、疑いの目を向けられる。門番がフードを深く被るマヤをじっと見降ろし、フードに手をかけようとした。
だが、リビトが「弟の顔は見ない方がいい。火事に遭って酷く醜い火傷の跡があるんです。どうかこれでここを通してもらえませんか?」と設定された兄役を見事に演じ切る。そして、門番に何かを手渡したようだ。微かに聞こえたのはチャリンという音だった。
すると門番はガラッと態度を変え、「そうか、そうか。お前たち兄弟仲良くするんだぞ。さぁ、もう行っていいぞ。気を付けて行けよー」と、あっさり検問所を通る許可が出たのだ。
さらに、こちらを心配する声もかけてくれた。案外、いい人もいるものだと感心していたが、後ですんなり通れて良かったとリビトに言ったら、「チップをやったからな。焦っていたからな、少し奮発しすぎた」なんて言っていた。強欲な門番よ、先ほどの私の感動を返して欲しい。
そして今、クーリアと合流し、アエクールから離れることができたところだ。
クーリアは非常に賢い魔馬のようだ。マヤはリビトがクーリアをアエクールまで呼び寄せたのだろうと思っていたのだが。
リビトがクーリアをやさしく撫でながら「お前の頭の回転の良さは世界一だな。お前が俺を探してここまで来てくれたから俺たちは助かった。本当にありがとな」と言っていた。
リビトに事情を聞くと、クーリアがアエクールに来たのは自分の意思だったそうだ。つまり、クーリアは自分でものを考え、自らの知恵を絞ってアエクールまで飛んできたという。
今回はクーリアが最大の功労者と言えるだろう。彼女の機転の良さと脚力が自分たちを助けてくれたのだ。マヤもリビトに倣い、やさしくクーリアの鬣を撫でた。
正直、これまで馬鹿にするようなことばかり言われてきたから、簡単には触らせてもらえないかもしれないと思っていたが、マヤの手を嫌がる素振りは見られなかった。
リビトはマヤがクーリアを撫でている様子を見て、少し驚いていた。どうもクーリアはリビト以外には懐かないらしい。それも気高い血族の魔馬だからそうだが、その辺はマヤにはよく分からなかった。でも、クーリアと少しだけお近づきになれたのだろうことは分かった。
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マヤとリビトがアエクールを無事に抜け出した頃、奴隷商人たちは倉庫に檻がないことに気付き、町中を隈なく探していた。
大人より一回り小さく華奢で声が少し高い少年のような男は奴隷商人の頭に言った。
「これはどういうことですか? 挽回不可能な大失態ですねぇ。ウチのボスも大変ご立腹になるでしょう。当然前金は支払えません。それでは僕はボスへの報告があるので失礼しますよ。
その首、よぉーく洗って待っていてくださいねぇ。おっと言い忘れていました。どこに隠れても逃げても無駄ですよ。ウチのボスはとても気の長い御方です。たとえ世界の果てでも地獄でも探し出すはずですからねぇ」
奴隷商人の頭の顔はみるみるうちに血の気が引いていく。
「俺の人生、完全に終わった……」
頭の男は恐怖のあまり膝が躍り出し、その場に座り込んだ。声の高い男はその様子を少し離れたところで見ながら誰に聞こえるでもない囁き声で呟いた。
「ふん、僕に偉そうなことを言った罰だ。いい気味だ」
声の高い男が町を散策していると、目の前に背がスラッと高く、細身ではあるが程良く筋肉がついている男が現れた。
「コストイ、なぜあの2人を始末しなかったんだ?」
「えぇ? 何のこと?」
「とぼけるな。全て見ていた、言い逃れはできないぞ」
「えぇ~、そうなの~? レイドには全てお見通しってことかぁ。うん、まぁ仕方ないよね~」
「別に告げ口するつもりはない。ただ理由が知りたいだけだ」
「あの2人を逃がした理由?」
「あぁ、そうだ。お前は奴隷商人たちと合流した時からあいつ等が潜んでいると気付いていたはずだ」
「うん、うん。その通り! だって人間と半魔人が一緒にいたんだよ。絶対面白いことになるでしょっ」
「面白いこと? ただ観察したかったということか」
「そうだよ。でも、それだけじゃないよ。僕が彼らに気付かない振りをして、彼らは僕に気付かれていないと思っている。どんな死に方だったら面白いだろうなって考えてたんだ。
そこで閃いたんだよ。人間が『幻のガラス玉』を持っていたから、わざと大爆発を起こす方法をあの半魔人の彼に教えてあげたのさ。彼は何の疑いもなく信じていたみたいだった。
僕くらいの魔力の持ち主だと、自分より下の相手の魔力の揺れがはっきり視認できるからね。彼はさぞ喜んでいたことだろうね」
「だが、お前の期待通りにはならなかったな」
「そうなんだよね~。あれには驚いたよ。まさか人間がガラス玉の使い方を知っていたなんてね。これは唯一の僕のミスかなぁ」
「……」
「本当なら今頃、倉庫で大爆発が起きて、彼らは木っ端みじんになっていたはずなのになぁ。あの人間のせいだよ。彼の綺麗な顔がグチャグチャになるのを見れると楽しみにしてたのになぁ。ガッカリだ」
「それなら、なぜ追いかけて殺さなかったんだ。お前の力なら、あんな下道どもは簡単にヤれただろう」
「僕は彼らを簡単に殺せるよ。今からだってチョチョイのチョイだ。だってそれじゃあ面白くないでしょっ。だからね、僕考えたんだよ。僕の予想を超えた彼らを泳がして、もっともっと楽しく狩れる機会を待っていようとね」
背の高い男は額に手を当てて、言った。
「そんなことだろうと思った。だが、コストイ、忘れるな。俺たちのすべきことを。お前がもう止めるというなら、俺も従う。続けるというなら、無駄に脇道を逸れるな。面倒だ」
「あははは、レイドらしいよね。もちろん止めないよ。だってこんな面白いこと止めるなんてもったいないよ」
「それならいい。俺は先に戻って今回のことを報告する。あの者たちは今度こそお前の前に二度と現れぬと誓おう」
「よろしくね~。いつも助かるよ、レイド~」
背の高い男はよほど嬉しかったのか、口角が上がりかけた。だが、彼は無慈悲で冷酷非道な男。少年のように屈託のない笑顔を振りまく男とは自分はタイプが違う。笑顔は自分には似合わぬと思い直し、口角を下げた。そして、その場から姿を消したのだった。
声の高い男は姿を消した男がいた方向を見たまま、クスリと笑った。




