解明された真実
「はっはっはっ、みんな騙されてて、実に愉快だ」
「……笑い事じゃないんですが」
「まあ、仕方ないだろ?敵を欺くには、まず味方からだ」
「みんなが献花したお墓の中は、空っぽなのですか?」
「いや、俺の衣装と土で作った人形が入ってる」
「ほう。…で、どういったご事情で死んだフリを?」
「お前が後宮を去ってから、5年頑張ったんだがなぁ。やっぱダメだったわ。
根本的に、国王なんて向いてなかった。
どんどん息苦しくなって、色々限界が来てたんだよ。
さらに拍車をかけた厄介事が、側妃達だった。
子供を生してくれた令嬢達に、とりあえず恩情で側妃にしたが、
毎日いがみ合って足の引っ張り合い。5人の内2人の子供が毒殺されかかるし。
正妃がいない状態が、争いを加熱させちまったらしい」
「それは…大変でしたね。
ところで、なぜ正妃を決めなかったんですか?」
「国母の資質や覚悟がある令嬢は、あの中にはいなかった。
外交や視察に連れて行くのも躊躇うほどだ。
もう、自死を考える程に俺は追い詰められてな、
柄にもなく、バルコニーから身を投げようとしていた」
「えっ…」
「ちょうど、そこにブルジット宰相が来てな。
俺の様子がおかしかったから、気にかけていたらしい。
俺は、国王を辞めたいと正直に言った」
「あ…ブルジット宰相って、クーデターの首謀者じゃないですか?
しかも、現国王陛下ですよね?」
「そう、俺が計画を考えて、彼が協力してくれたんだ。今回の茶番をな。
あれは公爵位だから親戚だし、身分的に国王になっても問題ない」
「はあ…なるほど…隣国の開戦騒動の件は?」
「流したのは情報のみ。それだけで世論は動く。
開戦直前で隣国が国境近くに軍隊を集結していると、噂を流させた。
俺は、隣国の王太子とは同い年で親しくてな。
俺が王族を辞めて、宰相と交代する計画に協力してくれたのだ。
その上、落ち着くまで隣国に匿ってくれた。
俺の一世一代の大立ち回りをあの野郎、大笑いで面白がっておったぞ」
「情報戦で混乱させる…うん、最も無駄のないやり方ですね。
ですが、信頼のおける協力者がいなければ実現は不可能です。
その役目が、宰相と隣国の王太子ですか?」
「ああ、そうだ。あとは忠誠心が強い側近。
他は情報だけ流して、リアルに混乱させて騒いでもらった。
側妃達にも種明かししたのは、絞首刑前日だったから、
それまでは、大発狂して、お前が悪いと、
ずっと互いに責任の擦り合いで、酷いもんだった」
「側妃様達は、ご無事なんですよね?
開戦の原因になった騒動も嘘ですか?」
「半分嘘じゃない。万年側妃が嫌だったのか、鞍替えするつもりだったのか、
隣国のまだ幼い王子達に異常にアプローチして、護衛騎士に厳重注意された。
まあ、開戦になるほどの外交問題ではないが、無礼な振る舞いをしたのは事実。
それを大袈裟に、利用させてもらっただけだ。
勿論、全員無事だ。
側妃達の子供と家族も、充分な報酬を与えて、他国で不自由なく暮らしている。
最初は国を出るのを嫌がっていたが、もう面倒な公務をしなくていいし、
一生困らない報酬を提示した途端、実に現金で二つ返事で大喜びだったぞ。
命がけで俺の子を産んでくれた、せめてもの謝礼だ。
しかし、あれたちは、最後まで俺の地位と権力と財力以外興味を示さなかったな」
「なるほど、良く出来たシナリオでしたね。
で、ご自分は、国民を謀り死んだフリして、
クーデターを演じた宰相に、全ての尻拭いを押し付けたのですか?」
「民衆を導く、高い身分を与えられている者達は、
この国の礎であり、英明公正と良心を持っていなければならない。
あの宰相は、まさにそんな男だ。
都合の良いことに、生まれ持った為政者の才がある。
俺みたいな、血筋だけの名ばかりの王に、傅いてるのは勿体ない。
あいつ自身も国を愛し、正しく発展させ導きたいと切望していた。
交代を提案したら、相当謙遜されたが何とか了承させたよ。
俺が不名誉な有責で処刑されるのだけは、
フリとはいえ、最後まで意を唱えていたがな」
少し寂しげに微笑む元国王は、
後宮にいた時とは違う、穏やかな表情を浮かべていた。
そうか、彼はあの環境と地位から、やっと解放されたのだ。
「それで、陛下…いえ、あなたは、この3年間何を?」
「もう国王の俺は死んだ。
今は名を変えて、セオドアと名乗っている。
ずっと王宮育ちの俺は、平民の生活や一般常識に疎い。
生活するのに必要な、平民の常識を習得して、慣れるまでの期間に当てていた。
つい最近まで、側近と共に生活していたが、今は自立して一人だ」
「そうでしたか。どうですか?平民暮らしは?」
「正直、知らない事ばかりで最初は大変だったが、自由でいい。
もうしがらみもないし、駆け引きも、我慢もしなくていい。
俺はやっと解放され、本来の自分らしくなれた気分だ」
「そうですか。
真相をお聞きしてスッキリしましたし、安心しました。
正直、私が無駄に流した涙と、心の痛みを返して欲しいですが、
生きていたなら、とりあえず良かったです。
では、お達者で」
「待て待て待て!」
「まだ、なにか?」
「うわー相変わらず塩対応。本当に泣いたのか?」
「ええ。一応顔見知りですし、私だって人並みの感情くらいあります」
「そうか、うん。嬉しい…いや、悪かった」
「ええ、本当に」
「で、お前、まだ一人なんだろ?」
「悪いですか?」
「返しが卑屈すぎて、お前らしい」
「ありがとうございます」
「だから、褒めてねぇって」
なぜ、引き止めるのか。
そんな不満な態度がダダ漏れの私に対して、
失笑する自称セオドア。
「女一人は、何かと不便だし危ないだろ。
俺も一緒に連れて行け。
これでも、元王族だからな。
防犯だけじゃなく、俺の知識は存外に役に立つぞ?」
「は?嫌です。穀潰しを世話するほど、余裕ないです」
「俺も働くぞ?最近まで、農業や畜産の手伝いしていたし」
「……ですが、私はもうすぐ、ここを離れるのです。
片田舎で誰も行きたがらない村の図書館への移動願いが、受理されたので」
「ほう?なんでまた、そんな片田舎を希望したのだ?」
「前任者の司書の方が高齢で引退するそうで、代わりの司書を募集されていました。
希望した理由は、のんびりしてて、自然いっぱいで、
広大な山脈に囲まれた、見晴らしのいい丘が連なり、
畑も牧場も盛んで、豊かな川、大きな湖、冬は雪も積もる美しい場所で…
一目惚れでした。
王都みたいな華やかさや、利便性はありませんが、
生きていくには充分な環境です。
それに、人口が少ないので、私にはちょうどいいのです」
「雪が、降るのか?」
「はい、私、雪が降っているのを見るのが大好きなんです。
夜に寝転んで降る雪を見ていると、自分が落ちている感覚になって、
そのまま暗い空に浮かんで、消えていきそうで…
不思議な体験ができるんです」
「へえ、面白そうだな。いいな、俺も行く!」
「は?」
「俺、乗馬は得意だったし、動物や馬が好きなんだ。
その村で、馬を調教したり育てたりしたい」
「いや、セオドア様には、他に住みやすい場所があるかもしれませんし…
そんな即答しなくても…」
「お前が居る所に行きたい」
「困ります」
「何で?俺が嫌いか?」
「私、一人が好きなんです」




