行儀見習いの終り
国王陛下の子供5人のうち、3人の王子、2人の王女が誕生し、
無事、お世継ぎ問題は解決した。
国王陛下は、種馬生活から解放され大喜び。
それと同じ頃、
私の行儀見習い期間も、終わりを迎えた。
「行ってしまうの?エステル…」
「はい、リディア様。ご出産と側妃内定、おめでとうございます」
「ありがとう。でも、残念だわ。
私の侍女として、王宮に連れて行きたかったのに」
「申し訳ありません。私がここに来たのは、資格取得の為だったので」
「そうね。司書になるのでしょう?応援してるわ」
「ありがとうございます。リディア様もどうぞ息災で」
他の妃候補達にも、挨拶を済ませ、
私は一旦実家に戻る為、王宮から手配された馬車に乗り込んだ。
そして固まった。
馬車の中に国王陛下が、優雅に足を組んで乗っていた。
「は?」
「よお、1年間お疲れさん」
「なんで、ここにっ?
…あっ、私、馬車間違えました?降りま…」
「間違ってねぇよ。座れ。話がある」
最後の最後に、何の話なのだ。
向かい合わせで座り、しばらく沈黙が流れる。
そして、無言でドッシリとした布袋を差し出される。
「え?あの…」
「1年分の王宮勤めの給金。舞踏会の給仕係報酬込みだ。受けとれ」
「あ、ありがとうございま…すっ‼︎」
受け取ったら、予想より重くて危うく落としそうになる。
なんとか両手で持ち上げ、自分の鞄にゴゾゴゾ仕舞う。
「実家に帰って、司書の資格試験を受けるのか?」
「はい。王宮務めしながら、必要な単位と講習は修了してるので、
もう殆ど合格ですが、最終確認みたいなものです」
「朝から晩まで、動き回ってただろ?そんな時間あったか?」
「週に1日休日ありましたし、4時間寝れば充分なんです」
「は?睡眠時間削ってたのか?」
「仕方ないじゃないですか」
「そうまでして、自立したいか…」
「以前、話した通りです」
「……なあ、」
「はい」
「お前が明日から居ないのが、どうにも受け入れられん」
「…私は、そんな大した存在ではありません」
「お前は俺を見ても、普通の反応だった。
だから、先入観なしで会話が出来た、初めての相手だった」
「それは、光栄です。と言っておきます」
「…それが、思いの外心地よくて、正直困っている。
エステル…お前、俺の愛妾になって、側にいる気はないか?」
「ありません」
「そうか、ふっ……まあ、お前なら、そう言うと思った」
「あなたと私では、身分が違いすぎます。
話が分かるからといって、私を王宮の魔窟に引き込む気ですか?」
「そう、だな。悪かった」
長い沈黙が訪れる。
彼の側にいられない私が、どんな言葉を紡いでも、慰めにしかならない。
私は、王宮から去る。それは1年前から決まっていたこと。
変に期待を持たせるような、無責任な言葉は、彼を傷つけるだけだ。
そして、馬車は我が家の前に止まった。
「…では、1年間お世話になりました。お元気で、国王陛下」
「ああ、お前も息災でな」
こうして、少しだけ後ろ髪を引かれる思いを振り切り、
あっけなく私たちの繋がりはなくなった。




