給仕係で舞踏会に参加
「エステル、来週の舞踏会は、給仕担当として参加しろ」
「え?あの、妃候補様達のドレス着付けやヘアメイクの準備で、
いっぱいいっぱいです」
「決定事項だ。いいな?」
「はあ…特別手当て出るんですよね?」
「勿論だ。期待していいぞ」
特別手当‼︎
「承知しました!」
「……………」
妃候補様達の準備を終え、
給仕係の集合場所に、小走りで急いだ。
私は、料理の説明と配膳担当になった。
出される料理の材料内容と、説明文を必死に頭に叩き込む。
まあ、ほとんどの人は社交目的で、ダンスと人脈作りに来ているから、
あまり食べない人達ばかりだし、多分暇だろう。
一番忙しいのは、ドリンク給仕係だ。
煌びやかなシャンデリアに、豪華な調度品。
絢爛なドレスとアクセサリーで着飾る貴族達。
私には、完全に別世界で場違い感が半端ない。
貴族は、こんな気を抜けない雰囲気の中で、良く涼しい顔してられるな。
と一人感心しながら、周りを見渡す。
ドリンク給仕係が、忙しなく乾杯用グラスを招待客に配り歩いている。
そして、ドアが開き国王陛下が入室してきた。
シンとホール会場が静まり返る。
国王らしく、ゆったり歩いてくる姿は威厳があり、
さすが王族という感じだった。
壇上に上がり、優雅に微笑む。
「皆、忙しい中、お集まり頂き感謝する。
私が、国王として即位して半年が経った。
まだまだ未熟で至らない国王だが、支えてくれている皆のおかげで、
ここまでやって来れたと自負している。
心からの感謝と敬意を。
そして、今回、後宮入りに協力してくれた、ご令嬢達にも大変感謝している。
今宵は、堅苦しいのは忘れ存分に楽しんでくれ。
では、我が国の繁栄を願って!」
「繁栄を願って!」
カチンッとグラス同士が触れる音が、あちこちから響く。
彼は、王族が嫌だと言いながらも、
この高貴な世界観に対応できる教養が、しっかり身についている。
堂々として、国王らしい挨拶だった。
私だったら、オロオロして無様な姿を晒すだけだろう。
そういえば、ちゃんと国王陛下らしい仕事をしているのを
初めて見たかもしれない。
「ねえ、こちらの料理の材料は何?私、ナッツを食べると痒くなるの」
「あ、はい。こちらはエビとトマトとクリームチーズのテリーヌでございます。
この細かく見えているのはブラックペッパーで、
ナッツは使用しておりません。お取り分けいたしますか?」
「ええ、2切れお願い」
「畏まりました」
せっせと給仕係をこなしていると、ふとオーケストラの演奏が聞こえてくる。
国王陛下が、妃候補達一人一人とワルツを踊り始めた。
優雅だなぁ…
あんな姿見ると、私に口汚くグチグチ言っているのが、嘘みたいだ。
そうか、
ああして、彼は仮面を被って演じているのか。
確かに…疲れるだろうな…
ただでさえ重責を背負っているのに、
本音を隠して、隙を見せられない駆け引きや、腹の探り合い…
ずっと、気を張り詰めて、
ずっと、我慢しなきゃいけない。
“ 俺に対して興味などないのだ。王家の恩恵しか頭にない ”
誰も、本当の彼を見ない。
誰も、知ろうともしない。
皆が望むのは、国王陛下という理想の振る舞いをする存在。
沢山の人たちに囲まれている中での孤独は、
一人でいるより、寂しくて、空虚で、救いようがない。




