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風読みの魔女は静かに過ごしたい  作者: おおりく
2章 二つの秘密作業

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4 図書の秘密

昨日の、あの廊下での出来事が、アリアの脳裏に焼き付いて離れなかった。

ゼフィルス教官のゼミを終え、ほのかな安らぎと充実感を胸に教室を出た、まさにその瞬間。

鉢合わせになったリアム・アークライトが、自分の持っていた『古代ルーン文字入門』の教科書に向けた、あの視線。


(……怖かった)


アリアは、寮のベッドの上で膝を抱えながら、ブルッと身を震わせた。

嘲笑でも、侮蔑でもなかった。

あれは、獲物をロックオンしたもうきんのような、あるいは、許されざる禁忌を目撃してしまったかのような、底知れないほど冷たく、深い「疑念」の眼差しだった。


(なんで……? なんで、あんな目で……?)


彼は、A組の誰もが馬鹿にした、あの地味な教科書の、一体何に反応したというのだろう。

アリアは、恐ろしくてたまらなかった。

リアム・アークライトという存在そのものが、アリアにとって最大の脅威になりつつあった。彼は、アリアが必死で築こうとしている「地味で平穏な学園生活」を、その存在一つで粉々に打ち砕いてしまう。


「……フン。たかが小僧の視線一つに、みっともないぞアリア」

鞄から這い出したクロノが、アリアの毛布の上でふてぶてしく毛繕いを始めた。

「わしに言わせれば、あの『芽吹き』のルーンを表紙に使うゼフィルスとかいう男も、あの『原論』を知るアークライトの小僧も、どちらも面倒くさいことこの上ないわ」

「クロノは、何か知ってるの……? あの教科書の、何がおかしいの?」

「おかしいのは、お前の頭だ。わしは眠い」

クロノはそれだけ言うと、アリアの問いかけを無視して丸くなってしまった。


(うう……)

アリアは再び膝に顔を埋めた。

ゼフィルス教官の「古代ルーン文字学」ゼミ。

あそこは、間違いなく天国だった。変人だが優しい教官。地味だが穏やかな二人のクラスメイト。カビ臭くて、静かで、埃っぽくて、誰も戦闘の話をしない、完璧な安息のサンクチュアリ

でも、そのゼミは週に一度しかない。


(だめだ……。それ以外の、週六日間が地獄すぎる)

特に、ギデオン教官の必修実技訓練。あそこでは、私は「魔力Gのくせに砂嵐を起こす問題児」として、常に監視の目に晒される。

A組の教室は、リゼットの嘲笑と、カインの(悪気のない)好奇の目、そしてリアムの冷徹な監視の目に晒される処刑場だ。


(もっと……もっと、静かな場所が欲しい)


一日のうち、もっと長い時間、合法的に「一人」になれる場所。

注目を浴びず、息を潜めていられる場所。

アリアは、必死で頭を巡らせた。


(……そうだ)

一つの可能性が、天啓のように閃いた。


(図書館……!)


王立マグノリア魔法学園の図書館は、王宮の書庫に匹敵すると言われる、大陸有数の知の殿堂だ。

その建物は、教室棟とは別に、まるでそれ自体が一つの砦であるかのように、広大な敷地の奥に鎮座している。

あそこなら。

あそこなら、広大で、静かで、本の影に隠れていれば、誰も私のことなど気にしないはずだ。


(でも、ただ入り浸っているだけじゃ、不自然かもしれない)

どうせなら、もっと完璧な隠れみのが欲しい。

アリアは、寮の掲示板に貼ってあった「各委員会・部活動募集」の張り紙を思い出した。


『図書委員、常時募集中。体力と根気のある者、歓迎。埃アレルギーでない者、尚良し』


(——これだ!)

アリアの目が輝いた。

「体力」「根気」「埃」。

そのどれもが、華やかなA組の生徒たちが最も敬遠する単語だ。

これこそ、アリアが求めていた「地味で目立たず、感謝もされないが、図書館に合法的に居座れる」完璧な役職に違いなかった。


翌日の放課後。

アリアは、必修の実技訓練(今日は幸い、ギデオン教官に「ローゼン! 貴様は隅で見ておけ! 邪魔だ!」と命じられ、見学だけで済んだ)を終えると、一目散に図書館棟へ向かった。


(大きい……)

本館の、天井まで吹き抜けになったエントランスホールに、アリアは圧倒された。

何百万冊あるのか見当もつかない本が、壁一面に、まるで知性の地層のように積み重なっている。

空気はひんやりと冷たく、聞こえるのは衣擦れの音と、ページをめくる微かな音だけ。

(……落ち着く)

A組の教室とは、まるで別世界だった。


アリアは、カウンターに座っていた初老の司書に、恐る恐る声をかけた。

「あ、あの……! 図書委員の、募集を見て……」

「ん……?」

司書——ジョゼフと名札にある男性は、分厚い眼鏡の奥から、ゆっくりとアリアを見た。

「図書委員……。ほう。一年生、かね。……A組の、アリア・ローゼン君か」

身分証を見たジョゼフが、少しだけ目を見開いた。

(やっぱり……。A組の生徒が来ること自体が、珍しいんだ)

アリアは、また何か間違えたかと身を縮ませた。


「……フム。A組の生徒が委員になると、書庫への立ち入り権限アクセスレベルの申請が通りやすくて助かる。歓迎しよう、ローゼン君」

「は、はい! ありがとうございます!」

「ただし」

ジョゼフは、人差し指を立てた。

「図書委員の仕事は、君たちが想像するような、優雅なものではない。大半は、力仕事と、地味な修復作業だ。特に、君の最初の仕事は……第二書庫(古文書館)の『修復室』での作業だ。……構わんかね?」


(地味な、修復作業……)

アリアにとって、それは「歓迎する」という意味だった。

「は、はい! 頑張ります!」

「よろしい」


ジョゼフに連れられて、アリアは図書館の奥へ、さらに奥へと進んだ。

利用者のいる華やかな閲覧室を抜け、関係者以外立ち入り禁止の重い扉をいくつも抜ける。

たどり着いたのは、第二書庫(古文書館)——奇しくも、ゼフィルス教官のゼミ室がある建物だったが、そのさらに地下だった。


「ここだ。『古文書修復室』」

開かれた扉の先は、アリアがゼミ室で感じたよりも、さらに濃密な、古い紙とインク、そしてカビの匂いが満ちていた。

(完璧……!)

アリアは、この薄暗く、誰も来ないであろう地下室に、新たな安息の地を見出し、歓喜に打ち震えた。


「先に、もう一人の委員が来ているはずだ。彼と二人一組で、作業を進めてもらう」

「え……?」

(もう一人……?)

アリアの期待が、一瞬で凍りついた。

ジョゼフに促されるまま、恐る恐る部屋の中に入る。


部屋は、窓がなく、壁一面が薬品棚と修復器具で埋め尽くされていた。

中央の大きな作業机に、一人の生徒が背を向けて座っていた。

プラチナブロンドの髪。寸分の乱れもない、黒い制服の背中。

彼は、アリアの気配に気づき、ゆっくりと振り返った。


「…………」

「…………」


その空色の瞳が、アリアを捉えた。

リアム・アークライトだった。


「あ」

「……君か」


アリアは、声にならない悲鳴を上げた。

(なんで!? どうして!? どうしてこの人が、こんな地味で、埃っぽい、地下室の図書委員なんかに!?)

ありえない。

A組のトップエリート。公爵家の嫡男。新入生代表。

彼がいるべき場所は、生徒会の執行部か、高等魔術の研究室のはずだ。

こんな、カビ臭い地下室であるはずがない。


リアムの表情も、驚きに染まっていた。

だが、その驚きは一瞬で消え、すぐに、昨日と同じ、あの冷徹な「疑念」の眼差しに変わった。


(……この女)

リアムの内心は、激しく揺れ動いていた。

(昨日、あれほど疑わしい『ルーン文字』の本を持っていた。そして今日、そのゼミ室があるのと同じ第二書庫(古文書館)の、地下の修復室に、図書委員として現れた……?)

偶然か?

偶然にしては、出来すぎている。

(まさか……この修復室に、あるいは、この書庫のどこかに、『原論』の手がかりがあると知って……? あのゼフィルスとかいう男に、送り込まれたのか?)


「おお、ミスター・アークライト。ちょうどよかった」

二人の間の凍りついた空気に気づかないまま、老司書のジョゼフが、手元の指示書を読み上げた。

「こちら、本日付で図書委員になった、アリア・ローゼン君だ。君の新しいパートナーだ」

「…………」

リアムは、無言でアリアを一瞥しただけだった。

アリアは、死刑宣告を受けたかのように顔面蒼白になっていた。

(パートナー……? この人と、二人きりで……? この、密室で……!?)


「さて、二人の今日の仕事だが……」

ジョゼフは、部屋の隅に積まれた、木箱を指差した。

「17世紀の『王室薬剤日誌』だ。非常に貴重なものだが、湿気で劣化が激しい。これを、これ以上傷つけずに修復・保存処理する」

「……!」

「ミスター・アークライト。君は、その優秀な『結界』魔術で、劣化を防ぐ『保存結界ストレージ・シールド』を一枚ずつ施してくれたまえ」

「承知いたしました」

リアムが、静かに頷く。

「そして、アリア・ローゼン。君の仕事は、その結界を施す前段階だ」

「は、はい……」


「これらの古文書は、物理的に触れることが禁じられている。手で払おうものなら、ページごと崩れ落ちるだろう。そこで、君には『風』魔術を使ってもらう」

(風……!)

「ページに一切触れず、風圧もかけず、埃とカビの胞子『だけ』を、完璧に取り除きたまえ。……君、A組だったな。できるかね?」


アリアは、その指示に、めまいがした。

(できるか、じゃない……)

できる。

できるどころか、それは、アリアが故郷の村で、父の集めた繊細な薬草ドライハーブが崩れないよう、毎日やっていたことそのものだった。

『風使いの楽しい家庭菜園』に書かれていた、「葉を揺らさず、アブラムシだけを吹き飛ばす」技術の、完全な応用だ。


だが。

(それを、この人の前で……!?)

アリアは、絶望的な気分でリアムを盗み見た。

彼は、すでに作業台につき、アリアを待っている。

(昨日、砂嵐を起こした「魔力G」の私が、そんな神業みたいな精密制御をしたら……)

(……また、疑われる)

(いや、もうすでに疑われてる! どうしたらいいの!?)


「アリア・ローゼン? やらんかね?」

「は、はいっ! や、やります!」

アリアは、半泣きで作業台についた。

目の前には、開かれた古文書。

ページは黄ばみ、端はボロボロに崩れかけている。その表面には、白いカビの胞子がうっすらと積もっていた。


「……」

「……」


地下室に、息苦しい沈黙が満ちる。

アリアは、震える手で杖(ただの木の棒)を構えた。

(どうしよう。どうしよう)

鞄の中で、クロノが動く気配がした。


『——やれ、アリア』

クロノの思念伝達が、アリアの頭に直接響く。

(でも、リアムさんが……!)

『馬鹿者! ここで「できません」と泣き喚く方が、よほど不審だ! 貴様は「魔力G」だが、実技がまるでダメな「座学特待生(とクロノが申請しておいた)」ということになっておる。だが、この作業は『戦闘』ではない。ただの『作業』だ!』


クロノの理屈に、アリアは必死で食らいついた。

(そうだ……。これは、戦闘じゃない。お掃除。お掃除だ)


『いいか、アリア。魔力は抑えろ。昨日までの「G」評価のままだ。だが、「制御」だけは寸分の狂いもなくやれ。「家庭菜園」の、あの「花粉を運ぶ」要領だ。あの公爵家の小僧に、お前の「異常な精密さ」だけを、しかと見せつけてやれ』

(えええ!? それ、一番ダメなやつじゃ!?)

『いいからやれ! 疑われているなら、さらに疑わせて混乱させるのだ!』

クロノの無茶苦茶な理論に、アリアは泣きたくなったが、もう後には引けなかった。


アリアは、深く、深く、息を吸った。

目を閉じ、意識を集中させる。

(イメージは……『家庭菜園』。ミランダ・ポポロさんの教え)

(葉を揺らさず、アブラムシだけを。「ぽすん」と置く、あの感覚の、逆)


アリアは、目を開けた。

杖先から、魔力を放出する。

リアムが、その魔力の流れを鋭く監視しているのが、肌で分かった。

アリアが放った魔力は、総量としては、間違いなく「G」評価に相応しい、微弱なものだった。


だが、その魔力が描く軌道は、常軌を逸していた。


アリアは、その微弱な魔力を、無数の、目に見えないほど細い「風の糸」に分割した。

そして、その風の糸が、まるで精密なピンセットのように、古文書のページ表面を撫でていく。

黄ばんだ紙には、一切触れない。

崩れかけたインクにも、一切触れない。

ただ、その表面に付着した「カビの胞子」と「埃の粒子」『だけ』を、一粒ずつ、一粒ずつ、吸着するように絡め取っていく。


それは、もはや「魔術」ではなかった。

神業だった。

「魔力G」の生徒ができることでは、断じてない。いや、「魔力S」のリアム本人にだって、こんな芸当は不可能だった。

風の魔力を、ここまで微細に、精密に分割して操作するなど——


アリアは、集中していた。

(大丈夫。できてる。村で、お父さんの大事な『月光花』の花粉を採集する時と同じ)

彼女は、この異常な作業を、故郷で日常的に行っていたのだ。


数分後。

アリアの額に、玉の汗が浮かぶ。

(……できた)

「……お、終わりました」

アリアが顔を上げると、目の前の古文書は、まるで新品のように、しかしその古色蒼然とした風合いは一切損なわずに、完璧に浄化されていた。


「…………」

リアムは、無言だった。

彼は、アリアの顔と、完璧に清められた古文書とを、信じられないものを見る目で、交互に見つめていた。

その空色の瞳は、昨日までの「疑念」を超え、もはや「せんりつ」に近い色を浮かべていた。


(なんだ……? 今のは)

(魔力量は、確かに「G」だった。だが、あの制御は……)

(昨日、実技訓練で砂嵐を起こした「制御不能」の生徒と、今、目の前で神業を披露した生徒が、同一人物……?)

(……違う。昨日のアレは、「制御不能」だったのではない。「制御」した上で、わざと威力を隠し、砂嵐に『見せかけた』んだ)


昨日抱いた最悪の仮説が、今、リアムの中で「確信」に変わった。

この女、アリア・ローゼンは——「G」などではない。

その魔力量は不明だが、少なくとも、その「魔力制御コントロール」だけは、学園長クラス、あるいは、それ以上だ。


(そして、その女が、あの『禁書』のルーンが描かれた教科書を持ち、この古文書館に現れた……)

リアムは、事態の深刻さに、背筋が凍る思いだった。


「……あ、あの……」

アリアは、何も言わずに自分を凝視するリアムの視線に耐えきれず、涙目になっていた。

(やっぱり、怒ってる! きっと、魔力Gのくせに生意気な魔術を使ったからだ! どうしよう、謝らないと……!)


「ご、ごめんなさい! で、出しゃばった真似を……!」

「……」

リアムは、アリアの謝罪を無視した。

彼は、ゆっくりと古文書に手をかざし、詠唱を始める。

「《保存結界ストレージ・シールド》」

リアムの手から放たれた白銀の光が、古文書を薄い膜でコーティングしていく。


「……次を」

リアムは、アリアの目を見ずに、冷たく言った。

「は、はいっ!」


その日から、アリア・ローゼンの地獄の(そして唯一の)放課後が始まった。

週に一度の「古代ルーン文字学」という安息の地。

そして、週に数回の、「リアム・アークライトとの、沈黙の古文書修復作業」という、息の詰まる密室での共同作業。

アリアは、自分の求めていた「平穏」とは似ても似つかない、新たな「緊張」の中に、否応なく放り込まれることになった。


その日の作業が終わり、アリアが修復室から逃げるように飛び出そうとした、その時。


「ローゼン」

リアムに、背後から呼び止められた。

「ひゃいっ!?」

アリアは、カエルが潰れたような悲鳴を上げた。


リアムは、アリアの方に向き直ると、その空色の瞳で、真っ直ぐにアリアを射抜いた。

その目は、もはや昨日までの冷たさではなく、何かを必死に問い詰めようとする、焦りのような色すら帯びていた。


「君が履修している『古代ルーン文字学』。その教科書だ」

「は、はいっ!」

「ゼフィルス教官は、君に、あの表紙のルーンについて、何か言っていたか」

「え……? あ、あの……ええと……」


アリアは、必死で記憶をたどった。

(ゼフィルス先生が、言ってたこと……)

「『芽吹き』とか、『成長』とか……。あ! あと、『風使いの楽しい家庭菜園』の、『花粉を運ぶ』のに、考え方が似てるって……!」


アリアが、ありのままの事実を告げた瞬間。

リアムの表情が、わずかに、しかし確実に険しくなった。


(……『家庭菜園』、だと?)

リアムは、言葉を失った。

アークライト家の禁書が記す、あの「無限再生」と「生命力吸収」の、恐るべき概念魔術の基礎を。

あの変人教官は、「家庭菜園」と「花粉」だと、この無知な(あるいは、無知を装っている)少女に教えているというのか。


(……やはり、まともではない)

リアムは、確信した。

このアリア・ローゼンという生徒は、無知なまま、とんでもなく危険な魔術の領域に、ゼフィルスという男によって足を踏み入れさせられている。

(そして、本人は、その『異常な制御力』を、自覚していないフリをしている……?)


「……アークライト、さん……?」

アリアは、急に黙り込んでしまったリアムの顔を、恐る恐る見上げた。


「……ローゼン」

リアムは、低い声で言った。

「そのゼミは、危険だ」

「え……?」

「君が何を考えているかは知らない。だが、ゼフィルス教官の『研究』は、学生が足を踏み入れていい領域ではない。……君は、とんでもないことに巻き込まれている自覚があるのか?」


「え……えええええ!?」

アリアは、心の底から叫んだ。

(危険!?)

(巻き込まれてる!?)

(あの、ほのぼのとした『家庭菜園』と『ルーン文字』のゼミが!?)

(一番、安全な場所だと思ってたのに!?)


アリアが何かを言い返す前に、リアムは「……忠告はした」とだけ言い残し、アリアを置いて修復室を出て行ってしまった。


一人、薄暗い地下室に取り残されたアリアは、ただただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。

(どういう、こと……?)

やっと見つけた二つの安息の地。

「ルーン文字ゼミ」は、なぜかリアムに「危険」だと断言された。

「図書委員」は、そのリアム本人との、地獄のような二人きりの作業場所になってしまった。


(私の居場所は……。私の平穏は……)

アリアは、暗い地下室で、泣きそうになりながら、自分の抱えた教科書を、ただ固く、固く抱きしめた。

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