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風読みの魔女は静かに過ごしたい  作者: おおりく
1章 望まぬ入学式

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3/17

2 クラス分けと最低の評価

講堂に突き刺さった、全校生徒の視線。

それはアリアにとって、研ぎ澄まされた何百本もの刃だった。

痛い。痛い。痛い。

肌が、神経が、その無遠慮な好奇の視線に切り刻まれていく。

息ができない。喉が凍りついたように動かない。


「……っ」


柱の影に張り付いたまま、アリアはただ震えていた。

壇上では、あの完璧な貴公子——リアム・アークライトが、足元で唸り合う二匹の使い魔と、講堂の隅で石化しているアリアとを、冷静な、しかし明らかに困惑した空色の瞳で見比べている。


(どうしようどうしようどうしようどうしよう)

頭の中が、その言葉だけで埋め尽くされる。

(終わった。私の平穏な学園生活。始まる前に、終わった)


その瞬間、足元で乱闘を繰り広げていた黒い塊——クロノが、不意に動きを止めた。

そして、まるで何事もなかったかのように優雅に立ち上がると、リアムの足元で威嚇を続ける白いフクロウに「フン」と鼻を鳴らした。


「にゃ(……つまらん。今日のところはこれくらいで勘弁してやろう)」


言うが早いか、クロノは黒い稲妻のように壇上から飛び降り、生徒たちの頭上を飛び越え、一直線にアリアの元へと戻ってきた。

そして、アリアの硬直した腕を駆け上がると、その肩にちょこんと座り、満足げに尻尾を振った。


「な、……っ」

アリアは、声にならない悲鳴を上げた。

クロノが戻ってきたことで、講堂中の視線が、今度こそ一ミリの狂いもなく「アリア・ローゼン」という一点に集中したのが分かった。


(やめて……!)


壇上では、学園長が重々しく咳払いをした。

「……新入生代表挨拶、ご苦労。——これにて、入学式を閉会する。明日新入生は、正面の掲示板にてクラス分けを確認した後、指定された教室へ移動し、『属性』と『魔力量』をしてもらう。……以上だ」


その声が、アリアにとっての脱出の合図となった。

彼女は、まだざわめきが収まらない講堂から、逃げるように飛び出した。

「あ、あの猫!」「特待生らしいぞ」「すごい魔力だったな、あの猫」「飼い主はあの子か?」

背中に突き刺さる囁き声から耳を塞ぐように、ローブのフードを深く被り、ただひたすらに走った。


寮の自室に転がり込み、鍵をかけた瞬間、アリアはその場に崩れ落ちた。

「……う、うわあああああん……」

声にならない嗚咽が、喉から漏れ出た。

涙が、次から次へと溢れて止まらない。


「もうやだ! なんであんなことするの! クロノの馬鹿! 悪魔! 詐欺猫!」

「騒々しいぞ、アリア。わしの毛並みが乱れたではないか」


肩から降りたクロノは、ベッドの上で優雅に毛繕いを始めながら、心底うんざりしたように言った。


「あの毛玉フクロウ、なかなか骨があったわ。だが、わしの敵ではない」

「そういう問題じゃない! 私の……私の平穏な学園生活……! 始まる前に、全部台無しになっちゃったじゃない!」

「フン。平穏? お前ほどの魔力を持って、平穏などと。寝言は寝て言え」

「私がいつ魔力が欲しいなんて言った!? 私は静かに、目立たずに、卒業したかっただけなのに!」


アリアはベッドに突っ伏し、枕に顔を埋めた。

もうだめだ。

明日から、私は「入学式で使い魔を暴走させた、とんでもない問題児」として全校生徒の注目の的だ。

人見知りで、臆病で、他人の視線が怖いという、この爆弾のような性質たちを抱えて、どうやって三年間も生きていけばいいというのか。


(帰りたい……。村に帰りたい……。お父さん……)


絶望が、冷たい泥のようにアリアの心に沈殿していく。

クロノは、そんなアリアを尻目に、ベッドの一番暖かい場所を見つけると、ふぁあ、と大きなあくびをし、そのまま丸くなって眠ってしまった。

そのふてぶてしさが、アリアの絶望をさらに深くした。


翌日。

アリアは、一睡もできなかったせいで血走った目で、重い足取りを引きずっていた。

学園生活、最初の日。

(行きたくない。絶対に顔を指差されて笑われる)

しかし、クロノに「このままではお前の魔力が暴発して寮が吹き飛ぶぞ」といつもの脅し文句で叩き出され、アリアは渋々、教室棟へと向かっていた。


ローブのフードを、昨日よりもさらに深く被る。

俯き、自分のつま先だけを見つめて歩く。

それでも、すれ違う生徒たちの視線と、ひそひそ話が耳に届いてしまう。


「あ、昨日の……」

「猫の子だ」

「特待生なのに、使い魔の躾もできないって……」


(やめて、見ないで、言わないで)

アリアは唇を噛みしめ、涙がこぼれないように必死で耐えた。


教室棟の入り口に、クラス分けの掲示板があった。

アリアは、人だかりが途切れるのを隅で待ち、誰もいなくなったのを見計らって、恐る恐る掲示板に近づいた。


自分の名前を探す。

(アリア・ローゼン、アリア・ローゼン……あった)


【1年A組】


そのリストに、自分の名前を見つけた。

(A組……。一番、優秀なクラスってことだよね……。なんで……)

特待生だから、という理由はわかる。だが、それはクロノのコネ(とアリアは信じている)であって、自分の実力ではない。

ますます場違いな場所に来てしまった、と眩暈がした。


そして、彼女の視線は、同じ【1年A組】のリストの中で、一際輝いて見える名前に釘付けになった。


【リアム・アークライト】


「…………」


アリアは、その場で静かに天を仰いだ。

(神様。あなたは、どれだけ私に試練を与えれば気が済むのですか)

昨日、最悪の形で注目を浴びせてきた張本人(の飼い主)と、同じクラス。

絶望。

これ以上の絶望があるだろうか。


重い、重い足取りで、アリアは「1-A」と書かれた教室のドアの前に立った。

中からは、すでに賑やかな談笑が漏れ聞こえてくる。

自信に満ちた、エリートたちの声だ。

アリアには、それが猛獣の唸り声のように聞こえた。


(帰りたい)

ドアノブに手をかけたまま、アリアは五分ほど固まっていたが、意を決し、息を止め、そっとドアを開けた。


教室中の視線が、一斉にアリアに突き刺さった。

「あ」

誰かが呟いた。

昨日、講堂で浴びた視線の記憶がフラッシュバックする。

アリアは、顔を真っ赤にし、窒息しそうになりながら、再びフードを深く被り直し、足早に一番後ろの、窓際の、隅の席へと向かった。

そこが、彼女にとっての唯一の避難場所だった。


「よお! 昨日すごかったな、お前の猫!」

不意に、快活な声が飛んできた。

見ると、リアム・アークライトの二つ前の席で、赤毛の快活そうな男子生徒カイン・ベルフォードが、ニカッと笑いながら手を振っていた。

「あ、う、……ご、ごめんなさ……」

「謝るなって! ああいう派手なのは嫌いじゃねえぜ!」


(やめて、話しかけないで……!)

アリアは会釈とも痙攣ともつかない動きで頭を下げ、自分の席に逃げ込むように座った。

斜め前には、昨日アリアを嘲笑うように見ていた、派手な縦ロールの令嬢リゼット・オルレアンが、あからさまに「フン」と鼻を鳴らした。

そして、前方の席。

リアム・アークライトが、静かに本を読んでいた。

彼は、アリアが入ってきたことにも気づいていないかのように、その完璧な横顔を窓に向けていた。

(よかった……。気づかれてない……)

アリアは、心から安堵した。


やがてチャイムが鳴り、教室に一人の女性教師が入ってきた。

「みなさん、おはようございます。1年A組担任のイライザ・マーリンです。専門は精神魔術。よろしくお願いしますね。」

ふんわりとした、優しそうな教師だった。アリアは少しだけ息がしやすくなるのを感じた。


「では、早速ですが、最初の授業を始めます。学園長からのお達しで、まずは皆さんの『属性』と『魔力量』を正確に測定します」

イライザ教官がそう言った瞬間、教室の空気が変わった。

(……! しまった!)

アリアの心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がった。

そうだ、忘れていた。学園では、自分の力を測定される。

どうしよう。

隠さないと。

昨日、クロノが言っていた。「お前の魔力は異常だ」と。

もし、ここでその異常な魔力量がバレたら?

「特待生」の肩書きと相まって、私は「入学式で騒ぎを起こした、魔力だけが取り柄の田舎者」として、再び全校の注目を浴びることになる。


(それだけは、絶対に嫌だ!)

アリアは、鞄の中で丸くなっているクロノを、そっと指で突いた。

(クロノ、どうしよう! 測定だって!)

クロノは、ゆっくりと目を開けると、金色の瞳でアリアを見据え、一言だけ、アリアの頭の中に直接響く「思念伝達」で命じた。


『——抑えろ』


(抑えるって……どうやって!?)


『いつものようにだ。呼吸を整えろ。お前は"無"だ。お前の中にある奔流を、一滴のしずくになるまで圧縮しろ。お前は誰でもない。何者でもない。ただの石ころだ。……いいな、アリア。わしに恥をかかせるなよ』


アリアは、ゴクリと唾を飲んだ。

教室の前には、大きな水晶玉(魔力測定器)が置かれていた。

イライザ教官が、出席番号順に名前を呼んでいく。


「カイン・ベルフォード君」

「おう!」

赤毛のカインが水晶に触れると、水晶は力強い茶色に輝いた。「土属性。魔力量A。素晴らしいですね」


「リゼット・オルレアンさん」

「当然ですわ」

縦ロールのリゼットが触れると、水晶は眩しい緑色に輝き、風が巻き起こった。「風属性。魔力量A+。お見事です」


生徒たちの実力が次々と明かされていく。

A組だけあって、魔力量A評価が続出する。

アリアは、自分の手が氷のように冷たくなっていくのを感じた。


そして。

「リアム・アークライト君」

教室の空気が、静まり返った。

リアムが静かに立ち上がり、水晶に手を触れる。


その瞬間——水晶が、爆発的な光を放った。

燃え盛るような「赤」。そして、その赤を包み込むように、幾何学模様の「白銀」の光が浮かび上がった。


「こ、これは……!?」

イライザ教官が息を呑む。

「火属性、魔力量S! そ、それに……この紋様は……希少属性レアの『結界』!? なんということでしょう……!」

教室中が、どよめきと感嘆の声に包まれた。

「さすがアークライト公爵家だ」

「火と結界の複合属性……!?」

「学園始まって以来の天才じゃないか……」


リアム本人は、その喧騒にも眉一つ動かさず、静かに自席に戻った。

アリアは、その圧倒的な光景に、ただただ呆然としていた。

(すごい……。あれが、本物の天才)

同時に、強い安堵感を覚えていた。

(よかった。彼がこれだけすごければ、もう誰も私のことなんて気にしないはずだ)


「……えー、では、次の方」

イライザ教官が、興奮を抑えるように咳払いをした。

「アリア・ローゼンさん」


「——っ!」

アリアの心臓が、喉から飛び出しそうになった。

来た。

教室中の視線が、再びアリアに集まる。

(まただ。「あの猫の子だ」「どうせ大したことないだろ」「魔力Sの後とか、公開処刑だな」)

ひそひそ声が、アリアの耳に突き刺さる。


アリアは、震える足で立ち上がった。

一歩、一歩、水晶玉に向かう。

(大丈夫。クロノの言う通りに。抑える。圧縮する。私は、石ころ)

彼女は、自分の体内で暴れ馬のように荒れ狂う莫大な魔力を、精神の力で強引にねじ伏せた。

それは、リアムが魔力Sを出すことよりも、遥かに高度で、遥かに困難な「制御」だった。

全魔力の99.9%を、自分を「無」に見せるためだけに行使する。

汗が、背中を伝う。


アリアは、震える指先を、冷たい水晶玉にそっと触れさせた。


…………。

…………。


水晶玉は、静まり返っていた。

何の反応も示さない。


教室中が、怪訝な空気に包まれる。

「あれ?」「どうしたんだ?」「壊れた?」

イライザ教官が、不思議そうに水晶玉を覗き込む。


アリアは(やりすぎた!?)と焦り、ほんの少しだけ、針の穴を通すよりも細く、魔力の制御を緩めた。


——チカッ。


水晶玉が、一瞬だけ、弱々しい緑色に明滅した。

それは、まるで風前の灯火ともしびのようだった。

そして、すぐに光は消えた。


イライザ教官は、測定器に表示された数値を見て、困惑した表情でアリアを見た。


「……アリア・ローゼンさん。属性、風。魔力量…………G。……『微弱トレース』、です」


一瞬の静寂。


次の瞬間、教室は、抑えきれない失笑に包まれた。

「ブッ!」「微弱だって!」

「G評価とか、初めて見たぞ!」

「昨日の猫はすごかったのに、飼い主は魔力ゼロかよ!」

リゼットが、あからさまに「ぷっ」と噴き出し、肩を震わせている。


アリアは、その嘲笑の嵐の中で、顔を真っ赤にして俯いた。

恥ずかしかった。

情けなかった。

だが、その感情の奥底で、アリアは、人生で最大級の「安堵」を感じていた。


(——よかった……!!)


バレなかった。

誰も、私の本当の力に気づかなかった。

これでいい。

これで、私は「入学式で騒いだだけの、魔力もない地味な田舎者」だ。

これ以上、誰も私に注目したりしない。

これなら、きっと、静かに卒業できる……!


アリアは、嘲笑を浴びながらも、心の底から安堵のため息をつき、逃げるように自分の席に戻った。

席に着くと、隣の席に座っていた、栗色の髪をおさげにした、おっとりして優しそうな少女メアリ・スミスが、アリアに小さく微笑みかけてきた。

「あ、あの……私も、魔力量Cだったんだ。お互い、頑張ろうね」

メアリの測定結果は「水属性、魔力量C」。A組としては低い方だった。

アリアは、その優しい笑顔に、張り詰めていた糸が少しだけ緩むのを感じ、「……う、うん」と、かろうじて返事をした。


午後の授業は、実技訓練だった。

アリアの安堵は、一瞬で地獄に叩き落とされることになる。


「A組のヒヨどもに告ぐ! 俺は実技担当のギデオン・ブレイブだ! 教室での座学なぞ、遊びだ! ここで結果を出せん奴は、A組だろうが何だろうが落第させる! 心しておけ!」


広い訓練場で、熊のように大柄な、厳格な教官が怒鳴っていた。

アリアは、その声量だけで縮み上がっていた。


「今日の訓練は、基礎魔術制御! ペアになれ!」

(ペア!?)

アリアは、思わず隣にいたメアリを見た。メアリもアリアを見て、二人でペアを組もうと頷き合う。


だが、ギデオン教官は、その希望を無慈悲に打ち砕いた。

「ペアは俺が決める! 貴様らは甘えすぎだ!」


教官は、手元のリスト(属性測定の結果)を見ながら、次々とペアを発表していく。

アリアは(どうか、地味な人と……)と祈っていた。


「——リアム・アークライト!」

「はい」

「アリア・ローゼン!」

「……は、はいっ!?」


アリアは、自分の耳を疑った。

教室中の視線が、再びアリアとリアムに集中する。

(なんで!? どうして!?)


ギデオン教官は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「アークライト! 貴様は学年トップの魔力量Sだ。ローゼン! 貴様は学年ビリの魔力量Gだ。これほど分かりやすい組み合わせもないだろう」

「そ、そんな……!」

「アークライト! 貴様の任務は、ローゼンを守りながら、50メートル先の的を破壊することだ。ローゼン! 貴様の任務は……まあ、アークライトの邪魔にならんよう、的を狙うフリでもしておけ」


あまりにも、ひどい扱いだった。

だが、アリアにとっては、それすらも(注目されなくて済むなら)有り難いことだった。

問題は、あのリアム・アークライトとペアを組まされたことだ。


リアムが、アリアの方へ歩いてくる。

アリアは、直視できず、俯いた。

「……アリア・ローゼンさん。よろしく頼む」

「あ、は、はい……! よ、よろしく、お願いします……! あ、足手まtoiにならないように、します……!」

声が、情けないほど裏返った。


リアムは、アリアの返事を聞くと、小さく頷き、すぐに訓練場の的へと向き直った。

その肩には、もちろん、あの白いフクロウ——シルフィが止まっていた。

そして、アリアの鞄の中からは、クロノが忌々しげに顔を出した。


『……あの焼き鳥め。また遭ったか』

『ホゥ(訳:泥棒猫の気配。最低ですわ)』


二匹の使い魔が、互いを視界に捉え、バチバチと火花を散らし始める。

(やめて、お願いだから静かにしてて!)

アリアは、泣きそうになりながらクロノの頭を鞄に押し込んだ。


「始め!」

ギデオン教官の号令がかかる。

リアムは、アリアの前に立つと、詠唱もなしに《火壁ファイアウォール》を展開した。

「ローゼンさん。私の後ろから援護を」

「は、はい!」


アリアは、リアムの広い背中の後ろに隠れながら、恐る恐る杖(の形をした、ただの木の棒)を構えた。

(どうしよう。《風刃ウインドカッター》を撃てってことだよね……。でも、魔力量Gの私が、風刃なんて撃ったらおかしい……。でも、何もやらないと教官に怒られる……)

アリアはパニックに陥った。

(そうだ。『風使いの楽しい家庭菜園』にあった魔法書、「害虫をそっと払う《そよ風》」なら……!)


アリアは、魔力を限界まで抑え込み、呪文を唱えた。

「《そよブリーズ》!」

アリアの杖先から放たれたのは、あまりにも弱々しい、洗濯物も乾かせないような「そよ風」だった。

それは、50メートル先の的に届くはずもなく、10メートルほど先で虚しく霧散した。


「…………」

リアムが、背後でアリアが何をしたのかを感じ取り、一瞬、動きを止めた。

「……ローゼン! 貴様、ふざけているのか!」

ギデオン教官の怒声が飛ぶ。


「ひっ! す、すみません!」

(どうしよう、弱すぎても怒られる!)


アリアは、今度はほんの少しだけ、魔力を込めて《風刃》を撃とうとした。

だが、焦りで制御が乱れる。

(あ、まずい、ちょっと魔力込めすぎた!)

彼女が撃とうとした《風刃》は、とても「魔力量G」が出せる威力ではなかった。

アリアは、魔術が発動する0.1秒の刹那、咄嗟にその術式を「強制解除」した。


術式になれなかった魔力は、行き場を失い、ただの「風」として暴発した。


——ゴオオオオッ!


それは《そよ風》とは比べ物にならない突風となり、リアムが展開していた《火壁》を煽り、さらに訓練場の砂埃を派手に巻き上げた。

「うわっ!」「なんだ!?」

「ゲホッ、ゲホッ! 砂が!」


訓練場の一角が、アリアの起こした突風による砂嵐に包まれる。

「ローゼン! 貴様ぁっ!!」

ギデオン教官の怒鳴り声が、砂嵐の向こうから聞こえた。


アリアは、自分がしでかしたことに、ただただ青ざめて立ち尽くすしかなかった。

そんな彼女を、砂埃の中から、リアム・アークライトが、じっと見つめていた。

その空色の瞳には、嘲笑でも、怒りでもない、明確な「疑念」の色が浮かんでいた。


(なぜだ? 今の魔力反応。術式は確かに《風刃》だった。それを、なぜ発動直前で、意図的に「風」に分解した……? まるで、威力を隠すために、わざと失敗させたような……)


リアムの疑念に、アリアはまだ気づいていなかった。

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