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風読みの魔女は静かに過ごしたい  作者: おおりく
1-5章 波乱の学園祭

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番外編5 メアリ・スミスの観察日記 ~アリアちゃんは、たぶん普通じゃない~

私、メアリ・スミスは、王都の下町にあるパン屋の娘です。

小さい頃から、お父さんが焼くパンの匂いと、お母さんが淹れるハーブティーの香りに包まれて育ちました。

だからかな。鼻と、勘だけは、人一倍良い自信があるんです。


そんな私が、王立マグノリア魔法学園に入学して、アリア・ローゼンちゃんと出会ったのは、運命だったと思います。


初めて会ったのは、入学式の翌日。食堂でした。

アリアちゃんは、あんなにすごい使いクロノちゃんを連れているのに、なぜか小さくなって震えていました。

まるで、雨に濡れた子犬みたいに。


でも、私が彼女に声をかけた本当の理由は、同情だけじゃありません。

匂い、がしたんです。

彼女からは、故郷のパン屋と同じ……いいえ、もっと澄んだ、陽だまりみたいな「いい匂い」がしたから。



アリアちゃんは、自分で「地味」だとか「落ちこぼれ」だとか言っています。

クラスのみんなも(特にリゼット様なんかは)、最初はそう思っていたみたい。

でも、私は知っています。

アリアちゃんは、たぶん、普通じゃありません。


たとえば、私たちの秘密基地、「旧校舎裏の温室」。

あそこでアリアちゃんが土を触ると、植物たちが嬉しそうに歌うんです。

比喩じゃなくて、本当に。

しおれかけていたミントが、アリアちゃんが水をあげた瞬間にシャキーン! と背筋を伸ばすのを、私は見ました。

一晩でジャングルのように増殖したローズマリーを見た時は、さすがに笑っちゃいましたけど。


「あはは……。土の栄養が、良すぎたのかな?」

アリアちゃんは引きつった笑顔で誤魔化していましたが、私は知っています。

あれは、アリアちゃん自身の「栄養」がすごすぎるんです。

彼女の周りの空気は、吸い込むだけで元気になれる、特製の空気清浄機みたいなんです。



そして、あの怒涛の学園祭。

A組の「魔法カフェ・マグノリア」が大成功したのは、リアム様の執事姿のおかげだけじゃありません。


準備期間中、こんなことがありました。

連日の準備で、みんなヘトヘトになっていた夕方。

カイン君が「腹減ったー、死ぬー」って、机に突っ伏していたんです。

リゼット様も、扇子を仰ぐ手すら重そうにしていました。


そこへ、アリアちゃんがキッチンから出てきて、試作品のクッキーを差し入れしてくれました。

「あの、よかったら……。ローズマリーと、オレンジのクッキーです」


カイン君がそれを一口食べた瞬間です。

「うおっ!?」

彼は目をカッ!と見開き、次の瞬間には立ち上がって、「力が……力が湧いてくるぞおおお!」と叫びながら、残っていた力仕事(机の運搬)を猛スピードで片付け始めたんです。


リゼット様も、一口食べて「あら? 肩こりが消えたわ……?」と不思議そうにしていました。

その後、彼女はお肌の調子が良すぎて、当日のメイク時間が半分で済んだそうです。


私はキッチンで、アリアちゃんがクッキー生地を練っているところを見ていました。

彼女は、「美味しくなぁれ、元気になぁれ」って、小さく歌いながら作っていたんです。

その手元から、キラキラした金色のみたいなものが、生地に溶け込んでいくのを、私は確かに見ました。


あれは、きっと「魔法のスパイス」なんだと思います。

アリアちゃんだけの、秘密の調味料。



学園祭当日。

あの恐ろしい「泥の巨人」が現れた時。

私は怖くて、動けませんでした。

でも、アリアちゃんは違いました。


彼女は、窓から飛び降りていきました。

迷わずに。

リアム様や、シルフィちゃんを助けるために。


みんなは「リアム様の結界が耐えきった」とか、「薬草でシルフィちゃんが治った」とか言っています。

でも、私は窓から見ていました。

アリアちゃんが手をかざした時、校舎を守るように広がった、透明な「何か」を。

そして、シルフィちゃんを抱きしめた時、彼女の手から溢れた、温かい光を。


あれは、水魔法の《小癒》とも違う。

もっと神聖で、もっと優しい光でした。


後でアリアちゃんに聞いたら、「ミントだよ!」って必死に言い張ってましたけど。

ふふ。アリアちゃんは、嘘が下手っぴです。

ミントであんなにピカピカ光るなら、私は毎日光るミントティーを飲んでいることになります。


でも、私は何も言いません。

アリアちゃんが隠したいなら、隠せばいいんです。

それが、彼女が平穏に暮らすために必要なことなら、私は全力で「ミント説」を支持します。


「そうだよカイン君! あれは、アリアちゃんの村のすごいミントなんだよ!」

「へえー! すげえな田舎!」


単純なカイン君を騙すのは簡単です。

リゼット様は少し疑っているみたいですけど、アリアちゃんのクッキーの味を知ってしまった今、彼女もアリアちゃんを悪く言うことはないでしょう。



学園祭が終わってから、少しだけ変わったことがあります。

リアム様です。


あの完璧で、人を寄せ付けない氷の貴公子リアム様が。

最近、図書委員の仕事の時以外でも、アリアちゃんのことを目で追っているんです。

監視……というよりは、なんだか、心配そうな、でも信頼しているような、複雑な目線です。


そしてアリアちゃんも、リアム様の前でだけは、少しだけ肩の力を抜いている気がします。

二人の間には、私にも入れない「秘密の絆」みたいなものができたみたいです。


ちょっとだけ、寂しい気もします。

でも、アリアちゃんを守ってくれる人が増えたなら、それは素敵なことです。


私はこれからも、一番近くでアリアちゃんを見守っていようと思います。

彼女がいつか、そのすごい力を隠さなくてもいい日が来るまで。

あるいは、彼女の作る「暴走ハーブ」で、学園中がジャングルになってしまう、その日まで。


(メアリ・スミスの日記より抜粋)

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