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風読みの魔女は静かに過ごしたい  作者: おおりく
3章 来訪者と深まる謎

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番外編4 四天候の密談 ~末っ子の学園生活について~

これは、アリア・ローゼンが王立マグノリア魔法学園に入学する、数週間前の出来事である。


王都の裏路地に、看板のない一軒の酒場があった。

「止まり木」。

そこは、王国の影で暗躍する一級魔術師や、裏社会の実力者たちだけが利用を許される、会員制の隠れ家である。


今夜、その店の奥にある個室は、異常な魔力密度によって空間が歪みかけていた。

集まっているのは四人の男女。

彼らこそ、泣く子も黙る大陸最強の魔術師集団、「四天候」である。


「——で? 師匠クロノスは何を考えているわけ?」


口火を切ったのは、燃えるような赤髪の美女、「紅蓮」のレナだった。

彼女は不機嫌そうに、グラスの中の琥珀色の液体を揺らしている。

「アリアを、学園に入れる? しかも、あのマグノリアに? 正気とは思えないわ」


「まあまあ、レナ。そうカリカリするなよ。あの子のためを思ってのことだろ?」

飄々とした口調で宥めたのは、青髪の青年、「蒼海」のカイだ。

「あの子の力は、もう田舎の結界じゃ隠しきれないレベルになってる。制御を学ばせるには、環境を変えるしかない。師匠の判断は合理的だよ」


「合理的?」

銀髪の長髪を流した青年、「疾風」のシルヴィが、冷ややかに鼻を鳴らした。

「あのアリアだぞ? 人見知りで、臆病で、虫一匹殺せないあの子が、貴族だらけの学園でやっていけると思うか? 一週間で胃に穴が開いて帰ってくるのがオチだ」


「……アリアは、強い」

重々しい低音で呟いたのは、巨漢の男、「大地」のゴウだ。

彼は山盛りのフライドポテトを黙々と口に運びながら、ポツリと言った。

「あの子の芯は、俺たちよりも強い。……だが、心配だ」


四人の間に、重たい沈黙が流れた。

彼らは皆、アリア・ローゼンという少女を、異常なまでに溺愛していた。

血の繋がりはない。

だが、師匠クロノスのもとで共に修行し、彼女の優しさに触れ、その規格外の才能(と、致命的な自己評価の低さ)を見てきた彼らにとって、アリアは「守るべき絶対の妹」だった。


「だいたいね!」

レナがテーブルを叩いた。

「学園なんて、男の獣の巣窟じゃない! 色気づいた貴族のボンボンどもが、あの子の可愛さに気づいて寄ってきたらどうするのよ! 焼き払うわよ!」

「いや、アリアは地味に変装する予定だから……」カイが苦笑する。

「地味? あの子の素材の良さが、眼鏡や三つ編み程度で隠せると思ってんの!? あんた目は節穴!?」

「はいはい、ごもっともです」


シルヴィが、手元の資料をテーブルに広げた。

「俺が調査したところ、今年の新入生には、アークライト公爵家の嫡男が入るらしい」

「アークライト?」ゴウが眉をひそめる。「宰相の息子か」

「ああ。リアム・アークライト。文武両道、眉目秀麗。次期宰相の呼び声高い天才だそうだ」


「けっ!」レナが吐き捨てた。

「どうせ、鼻持ちならないエリートでしょ。アリアを見下してイジメるに決まってるわ」

「いや、逆に興味を持って近づいてくる可能性もある」

シルヴィが冷静に分析する。

「アークライト家は『異能』に敏感だ。アリアの偽装を見抜くとしたら、奴だ」


「……消すか?」

ゴウが、物騒なことをボソッと言った。

「待て待て待て!」

カイが慌てて止める。

「お前ら過保護すぎるって! アリアにとっても、同年代の友達を作るいい機会なんだ。俺たちが手を出したら、あの子の成長にならないだろ」


「成長なんてしなくていいわよ!」

レナが叫ぶ。

「あの子はずっと、私たちの後ろでニコニコ笑ってればいいの! 悪い虫がつかないように、私が学園の教師として潜入しようかしら」

「却下だ」シルヴィが即答する。「お前が言ったら、初日で学園が火の海になる」


「じゃあ、俺が行く」カイが挙手する。 「お前は任務があるだろ。北の異常気象の調査だ」 「ちぇっ。……ま、近くには寄るから、そのついでに様子見くらいは行くけどね」 カイはニヤリと笑った。


「……俺も、行く」

ゴウが立ち上がろうとする。

「座れゴウ。お前の巨体で潜入できるわけがない。岩山が動いてると思われるぞ」


シルヴィは、ため息をついてグラスを干した。 「結論として。……我々は、基本的には静観する。師匠も使い魔として同行するらしいし、学園長のヴォルグもこちらの協力者だ。最低限の安全は保障されている」


「でもぉ……」レナが納得いかなそうに唸る。

「アリアが寂しがって泣いてたらどうするのよ」


「その時は」

シルヴィの目が、鋭く光った。

「我々『四天候』の名において、王立マグノリア魔法学園を地図から消滅させるまでだ」


「「「異議なし」」」


三人の声が重なった。 彼らは、本気だった。 もしアリア・ローゼンに不当な害が及べば、この国最強の戦力が、躊躇なく牙を剥く。 そのことを知らずに、学園の生徒たちは、爆弾を抱えた日常を送ることになるのだ。


「ああ、そうだ」

カイが思い出したように言った。

「アリアへの入学祝い、何にする? 俺は、最新の防水ローブにしようかと思ってるんだけど」

「私は魔除けの護符(一級品)よ。あと、いつでも私を召喚できる指輪」

「俺は……最高級の肥料」

「お前ら……」シルヴィが頭を抱える。「もっと、普通の女子高生が喜ぶものを選べないのか」


夜は更けていく。

最強の魔術師たちの、世界一過保護で、世界一どうでもいい会議は、朝まで続いたという。

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