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夜を待つ  作者: 氷桜 零
王国編
9/37

間夜3


ツェアドラ帝国皇帝ヴァルドルツィオは、自身の執務室で、腹心であるトゥーベルクから、興味深い報告を受けた。


それと言うのも、隣国であるラージス王国、そのジルクニア辺境伯領において、黒い空が見られたとの事。


「黒い空、な。どう思う?」


「ありえない考えからすると、夜空、かと。」


「ただの雨雲なら、そんな表現をしない。敢えての表現と報告だとしたら…面白い。」


ヴァルドルツィオは不敵な笑みを浮かべた。


「…まさか…」


「ああ、確かめに行くぞ。ジルクニア辺境伯領にな。」


「はぁ…かしこまりました。」


こうして、面白い物好きなヴァルドルツィオと、腹心のトゥーベルクは、少数精鋭の護衛を連れて、ジルクニア辺境伯領へ訪問する事になったのである。



ーーーーー


ジルクニア辺境伯領には、ヴァルドルツィオたち以外に、ラージス王国王太子ヴィラーシュと辺境伯の嫡男リカルドの姿もあった。


その数日後には、色々な意味で有名なヴィラーシュの第1妃、キャロライン妃もやって来た。


ヴィラーシュとリカルドとは、同年代という事で、よく見知った仲だった。

お互いの国に留学したこともあり、幼馴染であるとも言える。


ツェアドラ帝国とラージス王国は、敵対こそしていないが、ライバル関係にある。

それもあって、ヴァルドルツィオとヴィラーシュの関係もそれほど良くはない。

少しでも油断すれば、足元を掬われるため、気が抜けない。


キャロライン妃は、現存する唯一の、闇の適正と加護を持っている。

それが事実かどうかわからないが、闇の魔法を披露している場面に、出会したことがある。

加護はともかく、適正が闇なのは事実であろう。

適正の件があって、男爵家出身ながら、王太子の第1妃となっている。


唯一の闇属性ということで、随分傲慢な態度で他者に迷惑をかけていることも、有名な理由だ。


キャロライン妃とは久しぶりに会ったが、相変わらずの態度に苛立ちが募る。


そんな鬱屈とした数日間に、思いを馳せていると、突如、警笛が鳴り響いた。


『魔獣の領域』から、魔獣が降りて来たようだ。


トゥーベルクと護衛を連れて、自身も城壁に向かった。



ーーーーー


城壁に着くと、辺境伯やヴィラーシュ、リカルド、それにキャロライン妃がいた。


「辺境伯、俺たちも手を貸そう。ここを抜けられては、我が国にも被害が及ぶからな。」


ヴァルドルツィオは、本音を隠しつつ、助力を申し出る。


「…本来なら、ご遠慮申し上げるところですが、今回はそうも言っていられなくなりました。王太子殿下、皇帝陛下、よろしくお願いします。」


辺境伯の言葉から、状況はかなり悪いようだ。


「魔獣は、地竜が3体です。」


竜と名のつく魔獣は、魔獣の中でも最高クラス。

飛竜や水竜でないだけマシであるが、厄介な事には変わりない。


「辺境伯、地竜なんて、私の敵ではございませんわ。私の闇魔法で、鎮めて差し上げます!」


キャロライン妃が、そう、口を挟んできた。


辺境伯が、ヴィラーシュを伺うように、視線をやった。


ヴィラーシュは、渋々頷いた。

ヴァルドルツィオは、面白そうに片眉を上げて笑った。


キャロライン妃は、護衛と共に城壁の上に登った。

ここからは、地竜も『魔獣の領域』も良く見える。


城壁の外では、辺境伯、リカルド、ヴィラーシュ、ヴァルドルツィオ、トゥーベルクが、足止めのために、戦闘に参加している。


キャロライン妃が、自信満々に両手を地竜に向ける。

その手からは、黒い靄が現れ、3体の地竜に飛んで行った。


「ほう…」


誰もが安堵した、その時。


グァァァァーーーー


3体の地竜が苦しみだし、殺気と威圧を込めた目で、キャロライン妃を睨んだ。


「ひっ…」


キャロライン妃は驚きと恐怖で、座り込んでしまった。


「まずいぞ。」


3体の竜が、周囲の騎士を吹き飛ばし、城壁に迫る。


「わ、私のせいじゃないわ!」


キャロライン妃は、自分は悪くないと騒いでいる。


騎士たちは、3体の竜を城壁に近づけまいと、奮闘しているが、凶暴化した地竜に歯が立たない。


誰もが覚悟を決めた、そんな時。



闇が落ちた。



瞬く間に、青空が夜の闇に染まる。

双子月がと、無数の星々が夜空を、周囲を照らす。


誰もがその光景に息を呑み、硬直した。


地竜は、何かに怯えるように、後退りしていた。


地竜と騎士たちの間にできた空間。

そこに、気がつけば、漆黒を纏った少女が立っていた。





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